131.状況説明(T)
「……まあ実際、問題は山積みなのよね」
一同を居間に集め、イリヤは静かにそう告げた。
「山積みって──いやまあ確かに小さいと不便だろうけどさ」
「そういう話じゃないのよ、シロウ。──そうね、まず魔力が枯渇しているのよね」
「魔力が?」
聞き返した士郎に、イリヤは頷いた。
「そう。──でもこれはそこまで珍しい状況でもないわ。サーヴァントを抱える以上そちらの維持にマスターは魔力をある程度割く必要がある──って言うのはわかるわよね?」
「あ、ああ」
「でも、今のリンにはアーチャーを維持するための魔力はない。体が小さくなったと同時に魔力容量まで小さくなったのかしらね。とにかく今の状態のリンには、マスターでいるのは無理なの」
ちらり、と小さな布団に寝かされている凛を見やる。
「それからリンの体の状態なんだけど。さっきちらっと見たんだけど、これって要するに一種の呪いなのよね」
「呪い?」
聞き返したのは桜だった。
イリヤはそうよ、と頷いてみせて、
「ええ、そう。まあ、呪いなんて高難度な代物でもないんだけど。……今の凛の状態はこうよ。体が縮まり、魔力がなくなり、魔術もろくに使えず、そのくせ通常並の身体能力と破壊力を発揮している──」
言ってから、ふうと肩を竦める。
「むちゃくちゃにもほどがあるってのは、シロウにもわかるわよね?」
「まあ、そうだな」
「ここがまず問題。で、もう一つ問題があって、それがラインのゆがみなの。マスターとサーヴァントには本来シロウみたいなイレギュラーの場合を除いてラインが形成されているものなんだけど、この呪いのせいで変質化しているみたいなのよね。本来マスターがサーヴァントへ魔力供給を可能にするもののはずなのに、今回に限っていえば魔力の大本である生命力そのものを引き上げて無理やり奪っているのよ。……色んな意味で予想外だったのはリンのタフさかしらね。ぎりぎりになるまで兆候が現れないなんて、一体どんな仕組みなんだか。まあ身体能力の変化とも関係があるのかもしれないけど、さっき診ただけではそこまではわからなかったなあ……。──まあともかく、アーチャーがあそこまでタフなのはきっとそういうことね。……最も、調子に乗ってリンが何度も何度も殺しかけなければ、こんな早くにここまでなるなんてなかったんだろうけど」
いつのまにか重苦しくなった居間で、アーチャーがむうと声をあげる。
「……逆に、私のせいかね?」
『いや、逆にの意味がわからないから。』
132.状況説明(U)
「と言うわけよ。私からはこのくらいかしらね。……それにしても自分でも気づいていなかったのかしら?」
皮肉と侮蔑を込めてイリヤが言うとアーチャーはそれきり黙りこくった。
ちょっといいか、と士郎が会話の隙をついて口を挟みこんだ。
「それにしてもイリヤ、なんでそのことをもっと早く──」
「言おうとしたら、アーチャーに邪魔されたのよ」
「またあんたかっ!?」
たまらず叫ぶ士郎に、頭を抱えるアーチャー。
「今度こそ私かねっ!?」
「だから今度こそとか全然わけわからないから!」
「わけがわからないとか言う貴様の方が余程訳がわからないだろう!?」
「あーもーどうしたもんだかなー!?」
顔をつき合わせて叫ぶ二人をよそに、今度は桜がイリヤへとそっと尋ねた。
「でも、なんでそんなことに──呪いなんてそんな……」
「みたいなもの、よ。正確には。──本来行われるべき魔術は、リンの馬鹿みたいな胸を大きくしたいという魔術」
言いながら、首を横に振る。
「でも、それは行われずに、リンの体が小さくなった。当然なんらかの原因があるはずよね。じゃあ、何で失敗したのかしら。リンのドジっ娘スキルが発動した? 勿論その可能性もありえるけれど──」
そこで意味ありげに言葉を区切り、イリヤは息を吸い込んだ。そして告げる。
「一番ありえるのは、他者からの妨害よね」
「妨害……というと」
セイバーは静かに呟き──そして目を見開いて、
「サクラですかっ?!」
「なんでですかっ!?」
「いえ、しかし」
しきりに首をかしげながらも謝るセイバーの横で、アーチャーが士郎から視線を外し、ぽつりと、
「そういうキャラク、」
「えいっ。」
にこやかな笑みを浮かべたままの桜の放った包丁が、アーチャーの頭に突き刺さった──。
133.状況説明(V)
「ああもう落ち着きなさいって。誰もサクラの仕業だなんて言ってないでしょう?」
だくだくと血を流して床に倒れ付したアーチャーには一瞥もくれることなく、イリヤは眉を潜めた。
「そ、そうですよねっ!?」
ぱっと顔を輝かせる桜の横から、アーチャーが、ぴっと指を立てて、
「しかし呪いスキルは持っていそうではあるな?」
桜はにこりと笑いながら『くいっ』と親指を下に向けて、
「いいからさっさとくたばってくれません?」
頬に一筋の汗を浮かべつつ、セイバーが静かに手を挙げた。
「では誰だというのです。まさか、この中にはいませんよね?」
その言葉に、イリヤは皮肉げに目を細める。
「……無意識のうちにって、こともありえるってことよ。特に願望が同じ性質の場合はね」
「?」
一同の腑に落ちないという表情を背に、イリヤは続けた。
「リンの胸を大きくしたいという願望──それはより大きな願望によって歪められて、結果としてその型になったんじゃないのか、てことよ。願望──いえこの欲望だけど、じゃあ、誰が望んだのかしらね……?」
言いつつ、イリヤは目を閉じ詠うように。
「簡単よ。リンが小さくなることで得をするのは?」
『………………………。』
全員が全員、無言のままただ一人を見つめる──
そして。
多くの視線を浴びながら、何故かアーチャーはぽっと頬を染めつつ、
「…………むう。まあ視姦されるというのもそれはそれで、」
「いいからアンタは黙ってろ────!」
134.状況説明(W)
「い、いや待ちたまえ」
勢いよく立ち上がりつつ、アーチャーは抗弁した。
「確かに私はちっちゃいおんなのこは好きだが──」
『認めるんだ。』
全員の突っ込みを浴びつつ、それでもめげずに彼は拳を握り締めた。
「だがしかし、そんな後々自分が死ぬとわかっていることは決してしないっ!」
「……アンタ確かさっき俺に熱く語ってなかったか……?」
半眼で呻く士郎の言葉に、びしりと凍りつくアーチャー。
それには構わずイリヤは肩をすくめて、
「だから言ったでしょう、無意識だって。その場にいなくても、思念は残るわ。その思いが強ければ強いほどね。リンが魔術を行使したところ。それがどこがは知らないけれど──例えばそこに、何か彼を関連づけるアイテムはなかったかしら?」
暗く、大して広くもない部屋の中には、何に使うのかわからないような道具があたり構わず散乱している。古びた鏡、ダンベル、人形、壷、書物。部屋の床には、大きな魔法陣が一つ描かれていた。
「…………………にん、ぎょう…………………………?」
顔面を蒼白にしながら呻くのは士郎。
そしてアーチャーは。
「むう、それは確かに私のぷち萌えにんぎょう」
そして。
『やっぱりあんたのせいかーーーーーーーーーー!』
全員の一斉攻撃が、アーチャーへと降り注いだ──
135.元に戻すには
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
全身ずたぼろになりながら絶叫するアーチャー。だん! と床を踏み鳴らしながら士郎は唸る。
「ああもう……! アンタの歪曲した趣味のせいで!」
必死にアーチャーは身を起こすと、
「待て──待てっ! そこにあったのはたまたまであって! 私が直接したのでは──」
と。そこに静かに言葉を挟んだのはイリヤだった。
「そうね。いくら原因が彼にあったとしても、たまたまそこにあった、じゃいくらなんでもかわいそうよね?」
「そ、そうだろう──!?」
すがりつくように叫ぶアーチャーをよそに、士郎はイリヤへと尋ねた。
「……まあアンタのことについてはとりあえず後回しだ。それでイリヤ。どうすれば遠坂を元に戻せるんだ?」
「殺すのよ」
その言葉は、
あっさりと。
「え」
士郎が凍りつくほどあっさりとすべり出た。
イリヤは平然と続ける。
「一番簡単な方法はね、シロウ。元凶であるアーチャーを殺せばいいの。そうすればこの呪いもどきは確実に解けるわ」
「イイイイイリヤスフィール、君は一体なにをいって」
がくがくぷるぷると震えながら呻くアーチャー。
「ふうん?」
ゆらり──と立ち上がったのは士郎だった。
「なるほど?」
続けて同じような眼差しを浮かべて笑ったのは、桜。
そして。
「ああああああああああああああああっ!?」
絶叫とともにアーチャーが逃げ出し──
『待てええええええええっ!』
一瞬にして屋敷が怒号と絶叫に包まれた。
136.遠坂凛
複雑に入り組んだ廊下の一角──
(なんなのだ。これは……!)
舌打ちと共に姿を消し、霊体となったアーチャーは毒づいた。
(私のせいだというのか──!?)
すぐさま廊下の奥から声が響いてくる。
「くそ、どこいきやがったあいつ!」
「先輩、わたしはこっちを探します!」
「シロウ、では私はこちらを!」
叫びながら、士郎たちが霊体となっているアーチャーの目の前を通り過ぎていく──
それを見送ってから、アーチャーはぼんやりと考えていた。
(いや──そうだな。確かに私だ。いくら不条理とは言え、それに間違いは、ない……)
そうして彼は意識を上へと向けた。天井をすり抜け、屋根の上へとのぼる。
音もなく実体化し、それでようやくアーチャーは嘆息した。
屋根の上から広がる景色はそれなりに雄大なものだった。広がる町並みを赤い夕日が覆い尽している。
のろのろとアーチャーは身をかがめ、屋根の上に座り込んだ。
「──ふむ」
呟く。
(私が死ねば──凛が助かる、と。そう言っていたな)
階下からはばたばたと響く音と怒声。
それを耳の片隅に捕らえながら、皮肉げに、そして自嘲をたっぷりと込めて口を歪める。
(ならば──と言うわけにも、いかないだろう?)
「凛──」
その名前を唇に載せて、空を見上げる──
凛。
その一言で思いつくのは、召喚に応じてからこれまでの日々──
────士郎……ごめんね。──大好き、だよ
──そして、昔の凛のことだった。
(……そうだな)
(そうだ──前は救えなかった)
(私は……救えなかった……)
「そうだ、な────」
その言葉と同時、アーチャーは立ち上がった。嘆息と共に。
その表情は、どこまでも真っ直ぐで鋭くて──どこかさっぱりとしていた。
用心深く周囲を見渡しながら、屋根から下り、居間へと滑り込む。
居間には凛が一人で寝ていた。
足音を立てないようにそっと近寄り、アーチャーは身をかがめる。
「……凛」
寝顔に向かって、囁く。
「……………ん……?」
呻き声が漏れ、凛が薄く目を開いた。
アーチャーは一瞬驚愕に目を見張るが、それでも平静を取り戻すと、口元に笑みを浮かべてもう一度凛、と繰り返した。
「アー、チャー……?」
「……後、一時間」
言いながら、そっと頭に触れる。
黒い髪を撫でながら、彼は続けた。
「一時間で君を元に戻す。だから──それまで、令呪は使わないでくれたまえ」
「ん……」
凛はまだ半分夢の中なのか、ぼんやりとしたまま相槌を打つ。
「ありがとう」
アーチャーは笑った。
そして立ち上がり──背中越しに、
「……本当に、ありがとう。……遠坂」
「…………え?」
がばっ──
慌てて凛が身を起こし、目を見張る。
だが凛が聞き返すよりも早く──
アーチャーは、姿を消した。
137.密談
「ちょっと、なにごとなの?」
士郎が居間へ戻ると同時にそんな声が飛び込んできた。
声の主は──凛である。
未だ顔色は優れないまでも、それでも気丈に振る舞いながら近寄ってきている。
士郎は振り返ると、
「遠坂、起きて平気なのか?」
「まあね。まだ体がだるいんだけど。ああもう、なんでこんなにだるいんだか……」
苛立たしげに言い捨ててから、凛ははっと士郎へと向き直る。
「そうだ士郎、“後一時間”ってなに?」
「は? 一時間?」
士郎はきょとんとして聞き返した。
凛は腕を組みながら首を横に振って、
「そうよ。アーチャーのヤツ、一時間で戻るとかなんとか言っていきなり姿を消したのよね。全く、のぼせただけなのに何あんな真剣ぶってるんだか──」
「……遠坂。アーチャーがそういったのか?」
慎重に尋ねる士郎に眉をひそめつつ、それでも凛は頷いてみせる。
「うん、そうだけど……?」
「シロウ、どうかした?」
と。こちらも戻ってきたのか、イリヤがひょこりと顔を出した。
「いや、実はアーチャーがさ……」
士郎がイリヤに真剣な顔で説明をこそこそと始め──
──その様子を、凛はきょとんとした様子で眺めていた。
138.衛宮士郎
凛をよそに、二人は廊下へと出てこそこそと耳打ちをしていた。
「……あと一時間。どういうことだと思う、シロウ」
士郎はイリヤの質問には答えず、俯き考え込みながらぽつりと尋ねた。
「……なあ、イリヤ」
「何?」
「遠坂にかかっているのは、結局何なんだ」
「言ったでしょう。呪いもどきよ」
肩を竦めるイリヤに、士郎はこくこくと何度も確かめるように独り頷いている。
「そうか。そうなんだよな。うん──よし、それなら、なんとか……」
「……シロウ?」
心配そうに覗き込むイリヤに、士郎は再びばっと振り向いて、
「ところでイリヤ。アイツが後一時間で有効なモノを見つける──って可能性は」
その言葉に、しかしイリヤは首を横に振った。
「可能性は低いわね。それに時間を限定する理由がないわ。リンの状態は極めて不安定なものではあるけれど、少なくとも一時間でどうにかなるようなものでもないから、そこまで焦る必要はないもの」
「とすると、やっぱり……」
唸る士郎に、イリヤはそっと目を伏せながら微かにうなずいた。
「……ええ。彼、消えるつもりじゃないかしら」
「──くそ!」
その大声でしびれを切らしたのか、凛が声を張り上げた。
「ねえ士郎、一体何なのよ?」
「──悪い遠坂、まだ詳しいことは言えない。でも──」
言いつつ士郎はしゃがみこみ、凛を真っ直ぐ見据えながら言い切った。
「──大丈夫だ。遠坂とアーチャーは俺たちがきっと助けてみせるからな!」
「……は?」
139.疾走、そして。
「それでイリヤ。アーチャーがどこに行ったかわからないか?」
イリヤは静かに首を横へと振った。
「無理よ。サーヴァントが本気で気配を隠そうとしたらマスターでもない限り──あれ、いる」
言ってイリヤは、信じられないと言うようにぽかんと口を開けた。
「どこだ──!?」
がしっ。
士郎はイリヤの肩を押さえて聞き返した。
僅かに眉をしかめながらもイリヤは、呟く……
「この方向、港に向かっているみたい……」
「港だな? よし──!」
言い捨て、走り出す士郎。
「きゃっ!?」
入れ違いに居間に入ってきた桜が悲鳴をあげて後ろにさがるが、士郎は気づいた様子もなく玄関へと走っていった。
「せ、せんぱい!?」
桜の声を背に受けながら──衛宮士郎は、屋敷を飛び出した。
「桜何してるのっ!」
と、次に飛び出してきたのは、セイバーと、その頭の上に乗った凛だった。
「ね、姉さん!?」
凛は真っ直ぐ前を見据えたまま、叫んだ。
「──追うわよ! あのバカたち、どうせろくでもないコト考えてるに決まってるんだから──!」
「同意見です。シロウがあの目をしているとき、は、大概が……」
歯噛みしながら疾走するセイバー。その後ろからはイリヤも付いてきている。
「あ、あの、何がどうなっているんですか……!?」
桜がイリヤの隣に並びながらこっそりと尋ねると、
「──まあ要するに、皆が皆、莫迦だってことよ」
そう言ってイリヤは──、苦笑した。
140.それぞれの思い
夕暮れの港に人はいなかった。波の音が繰り返し響いている。
海の赤と。空の黒が交じり合っているような時間だった。
そしてそこに独り──アーチャーは海を見据え、立っていた。
海風に幾度となく打たれたためか、髪がやや崩れている。
──タッ
足音がひとつ、響いた。
アーチャーは振り向くことなく、静かに口を開いた。
「……何の用だ、衛宮士郎」
言葉通り、そこにいたのは士郎だった。
わずかに上がった息を抑えつつ、じっとその背中を見据えている。
「アーチャー、アンタ──」
「凛はいないのだな」
士郎の言葉を遮り、アーチャー。
「ああ。そのほうが都合がいいだろ」
「凛から……聞いたか」
そこまで呟き、アーチャーは首だけで振り返った。
「……それでもなおここに来たということは」
言いながら、体をゆっくりと回す。
「覚悟は出来ているのだろうな──?」
完全に真正面から士郎と向き合い、低くアーチャーは尋ねた。
だが士郎はそれには取り合わず、アーチャーを真正面から見据えて尋ねた。
「アンタ、消えるつもりなのか」
その言葉にアーチャーは口を歪めた。
「そうだ。……一時間。それでわたしはこのセカイから消えようと思っている。どの道この身は仮初のものだ。それで凛が助かるのならば──それでいいさ」
「本当にそう思ってるのか、アンタ」
低く尋ねる士郎の言葉に、しかしアーチャーは首を横に振った。
「いいや。英霊としての私はそれを否定する。──せざるを得ないだろうな」
言いつつ彼はくしゃりと手を髪へと当て、
「だから──今のオレは、英霊ではなく、」
ぐしゃぐしゃと、それをかき回した。
「遠坂凛を救いたい、ひとりの男として──この決断を下したのさ」
士郎は僅かに眉をしかめ──それからはっと目を見開いた。
「……お前。まさか」
ぎり、という音は士郎の口の中から聞こえたものだった。
「莫迦だ、アンタ」
吐き捨てるような士郎の言葉を、アーチャーは静かに笑って流した。
「ふん、なんとでも言うがいいさ」
「違う。そうやって──自己犠牲だなんだってやって、結局何も見えちゃいない。だから莫迦だって言ったんだ」
かぶりを振る士郎。
「よく言うものだな──」
──アーチャーの眼が、すっと細まる。
「貴様の本質も同質のものだろう。ふん、何が正義の味方だ。反吐が出る」
士郎はしかし、その言葉は無視して詰問した。
「一時間か。なんで一時間なんて取ったのさ」
「何?」
ぴくりとアーチャーの眉が跳ね上がる──
「遠坂を助けたいんなら、すぐにでも消えればいいだろ。なんでそんな時間空けたのさ」
「それは──」
詰まる言葉。
「──未練が、あるからじゃないのか」
「……何を、莫迦なことを」
微苦笑。
「なら、ないのか」
「──……それは」
揺れる、瞳。
「……アンタの言うことは全然わからない。ちんぷんかんぷんだ。でもなアーチャー……」
言いつつ士郎は一歩踏み出し。実直なその眼差しで目の前の男を睨み付けた。
「アンタが間違っているってことだけはわかるぞ」
アーチャーはその言葉に、苦笑を返した。
「ふん、だとしたらどうする」
──言いつつ、その気配がじわりと鋭さを帯びる。
「俺が、眼を覚まさせてやる」
「ほう……?」
小ばかにしたようなアーチャーに、士郎は大きく息を吸ってから、
士郎もまた息を吸い込み、足を広げる。
「もう一度言うぞ。────アンタの目を覚まさせてやるよ、大バカ野郎」
「そうかね。ならば手加減はしないぞ」
「当たり前だ……っ!」
そして──
『投影、開始!』
二つの影が、大地を蹴った。