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111.ドリーム

 

「……そうよ、夢よこれ」

 『ぽんっ』と両手を打って、ぱっと顔を輝かせる凛。

『うわあ』

 士郎とアーチャーが呻くその横で、桜がイリヤに尋ねていた。

「ああもうしょうがないなわたしったら。ほら、早く起きて学校いかなきゃ──」

「ええと、つまり──」

 何やら虚空を見上げてぶつぶつと呟き始めている凛からさっと視線を逸らしつつ、顔を引きつらせながら桜はイリヤに尋ねた。

「そのうち治るかもしれないけど、こっち側から手出しはできない、ってことですか?」

 イリヤは疲れたように嘆息して、

「そうね、まあ正確には──」

「そっかあ。夢なんだからこんなに変なのよね。うんうん、道理でおかしいと思ったのよ。何よこれ、こんなのありえないんだから──」

 うふふふふふふ、と虚空を見つめる凛。

「……遠坂。遠坂〜……」

 しくしくと涙する士郎。

「……凛」

 と。未だ宙を見つめて何やら呟いている凛に、アーチャーがずいっと近づいていた。

「凛よ。幸せは、案外すぐ傍にあるものだと思わないか?」

 言いつつアーチャーはどこからともなく花束を取り出し、そっと凛へと近づける──

そして。

「うるさい夢」

 という朗らかな凛の掛け声と共に、アーチャーごと花束が炎に包まれた──








 

112.荒療治

 

「まあ、ともかく」

「夢―。夢―。夢、なんだからー」

 なんとか場をまとめようとする士郎の後ろで、凛が呟き続けている──

「……なんかいたたまれなくなってきたなあ……」

「うううう。姉さん……」

「……やれやれ」

 しくしくと涙する二人をよそに、アーチャーは嘆息しながらぼろぼろになった体を起こした。凛のもとへと進み、

「凛、凛」

「ん、なによ夢アーチャー」

 ぎろりと睨みつけてくる凛に、やや顔を引きつらせながらアーチャーは。

「ええと、だね」

 すぱんっ。

『………………………………………………。』

 場が一瞬にして凍りついた。

 アーチャーは、手にしたミニハリセンで凛の頭をはたいていた。

「…………………………っ」

 じわり、と。

 半泣きになりながら凛が頭をおさえてうずくまる。

 アーチャーは心配そうに覗き込みながら、

「……だ、大丈夫かね? 手加減はしたつもりだったのだが──」

「って、何するのよこのスカポンタン────!」

 『がずんっ!』と飛び上がりアッパーをアーチャーの顎に決めつつ凛が絶叫する。

「い、いやだから……夢などではない、ということで……」

 アーチャーはよろよろとしりもちをつきながら、

「ん? え、何が?」

 憤懣やるかたないという表情で凛がぎろりと睨みつける。アーチャーは再度早口で言い直した。

「だ、だから痛かったのだろう? 夢などではないということがだね」

「……あ」
 ぽかん、と口を開けて凛が今気づいたというように呆然とし──

「あ〜……」

 そして、頭を抱えて蹲った。






 

113.全員一致

 

「わかった。じゃあ状況を整理しよう」

 と言ったのは士郎だった。彼は指をぴっと立てて、

「こっちからのアプローチは不可能で」

「うん」

 頷いたのは凛だった。

「でも、そのうちなんとかなるかもしれない、と」

「そうね」

 今度はイリヤが首を縦に振る。

「………」

「………」

「………」

「………」

 沈黙。

 やたらと長く静かな──静寂の末、凛以外の全員が口をそろえて呟く──

『気楽に待てば?』






 

114.なごみ

 ふーっ、と肩を怒らせて、凛がああもう、と首を振る。

「だめだ。こいつら全っ然役に立たない……!」

「大丈夫だ、凛」

 憤慨する凛の横で、小さく笑いながら、アーチャー。

「……何がよ」

 半眼で呻く凛に、なに、と呟きながらアーチャーは軽く微笑んだ。

「君がどんな姿になろうと、私は君についていく。だから──大丈夫だ」

「……う」

 頬を赤く染め、言葉に詰まる凛。

「そ、そう。まあ、どこまで本気なのかわからないけどね──」

 もごもごとそう呻きながら彼女は襖を開けようと手をかけ──

「……あ、あれっ」

 予想以上に重かったのか、体を硬直させた。それでもなんとか開けようとするが、それでも結局自力であけることが出来ず、凛はやむなく背後を振り返った。

「ちょ、ちょっと士郎。これあけてよっ」

 そして、その背後では、皆が皆、和やかな眼差しで凛を見ていて──

「……ひっ!?」

 その異様な光景に、凛は思わずびくりと体を震わせた。








 

115.切れた。

 

「遠坂、その、なんて言ったらいいか」

 鼻を擦りつつ、目をやや逸らしながら呟いたのは士郎だった。

「その――そのままでも、いいんじゃないか?」

「そうですっ! 姉さんはそのサイズが一番輝いているんですっ!」

 ぐぐっと拳を握り締めて桜が力説する。

「そうだろう二人とも! やはり凛はちっちゃくてなんぼというわけで……………」

 うんうんとしたり顔でアーチャーがそれに同意し。

「………………………………………………………………………。」

 

 ────ぷっちり。

 

 という音が、どこかから響いた。

 

 

 

116.すか

 

「ふ――ふふふふふふふふふ……」

 『ごごごごごごご……』という音を膨らませて、凛は笑う。

「と、遠坂?」

 ひい、と顔を引きつらせる士郎たちに、凛は低く呟いた。

「ああ、そうよね。あんたたちはいいわよね、人事と思って……」

「ちょ、いや、おおおおおおちつけ遠坂。いや、確かに調子乗って悪かったっていうか……」

「うん、聞く耳ないから」

光が―─膨れ上がり──

 炸裂して。

「………あれ?」

 後に残ったのは、ぼんやりとした凛のうめき声だけだった。

 何も起こらない。破壊も衝撃も断裂も重圧も何も起こってはいなかった。

「なにも……なし?」

「え、あれ?」

 自分の手を見つめてわたわたと呻いている凛をよそに、アーチャーは不敵に笑った。

「ふ。だから言っただろう、凛」

 『ばっ!』と手を広げ、彼は宣言する。

「私の愛の前には、いかなる魔力とて無意味!」

「うん、なら物理攻撃なら問題ないわよね?」

 言いつつ飛び上がった凛のハイキックがアーチャーのこめかみを直撃した──






 

117.でたりでなかったり

 

「にしても、なんで出なかったのかしら」

 ぶつぶつと呟きつつ凛は自分の手を見下ろす。

 それを見ながら、よろよろとアーチャーが起き上がりつつ呻く──

「……それを先にやるべきではなかったのかね」

「うっさい」

 無造作に手をふるい、凛の繰り出した衝撃波がアーチャーを壁にたたきつけた。

『……あ』

「で……でるのでは、ないか……」

 げぶあと血を吐き出しつつ、よれよれとアーチャーが壁にめり込んだ体を剥がしていく。

 その様子には目をくれず、凛はますます首をかしげた。

「んー、なんでかしら。ムラがあるの?」

「まあ、こんな状態なんだから、何がおこっても不思議じゃないけどね……」

 はあ、と嘆息交じりにイリヤは呟くと、手近にあったナイフを凛の前に置いた。

「じゃあリン、強化してみて。はい、これ」

 その言葉に、頷いて凛は呪文を唱え、手をかざす──が。

「……だめだわ……」

 力なく首を振る。

 その横でアーチャーは朗らかに笑い、

「はっはっは。まあ、魔術が使えないくらいでそう大騒ぎすることもないだろう。何せ凛。今の君に大切なことはちっちゃいサイズのままでいるということなのだから――」

「本気で、くたばってなさいっ!」

 言うと同時、炸裂する衝撃波がアーチャーの体を包み込む──!

「おおおおおっ!?」

「…………あ、でた」

 のたうちまわるアーチャーをぼんやりと眺めながら、士郎が無表情に呟いた。

「突っ込み専用、ってことでいいのかしらね……」

 同じく平べったい顔で、イリヤもまた疲れたように呟いた。






 

118.とどめの一言

 

「あああああ……」

 床に手を付いてうちひしがれる凛。

「先輩、姉さん落ち込んでますねえ」

 その様子をのほほんと眺めながら、桜は何故か頬を染めながら士郎へと囁いた。

「うーん、そうだな」

 ひくりと頬を引きつらせながら呻く士郎。

「魔術使えない遠坂って……」

 ありえない、と言う様に額に手を当てながら首を振り、イリヤは告げた。

「…………ただのツインテールよね」

「いや、ニーソだろう?」

 腕組みをしながら、アーチャー。

「姉さんの可愛さに大きさなんて些細な問題ですっ」

 きらきらと目を輝かせる桜。

 そして凛は。

「…………………………………………。」

 うろんな眼差しで虚空を見続けていた。






 

119.からまわり

 

「……ごめん、ちょっと一人にして……」

 そう呟いて、凛はよろよろと半開きになった襖の隙間から廊下へと出て行った。

「遠坂、さすがにこたえてるな」

「ふむ。どうやらなぐさめてやるべきのようだな」

 すっくと立ち上がったアーチャーの服の裾を掴み、半眼で士郎が呻く。

「いや、あんたは本気で何もしないほうがいいと思うぞ」

「ふ。これだから貴様はだめだというのだ」

 嘲る様に口を歪め、アーチャーは。

「今の凛が求めているのは、私の愛! というわけで今すぐこのすくみずを―─」

「――ああ、もう」

 どこからともなく取り出した黒い水着を手に力説するアーチャーを見ながら、士郎はやたら疲れたように隣にいるセイバーに声をかけた。

「セイバー、頼む」

「わかってます」






 

120.凛と士郎

 

「くっ。これをほどくんだ、セイバー!」

 部屋の片隅。ロープでぐるぐる巻きにされてこてんと転ばされているアーチャーが呻いていた。

「すみませんが、その言葉は聞けませんね」

 冷たい眼差しを送るセイバーの横で、うんうんと士郎もまた頷いている。

「そうだぞ。ちょっとはおとなしくしてろ、アンタは」

「おのれ、衛宮――!」

 歯軋りするアーチャーをよそに、士郎はセイバーの肩を叩いて、

「悪いセイバー、ちょっとここ見といてくれ。俺、遠坂ん所行ってくるから」

「了解しました。この場は任せてください」

 頷くセイバーと喚くアーチャーを残して士郎は廊下へと出た。きょろきょろと周囲を見渡してから、声を張り上げる。

「遠坂。遠坂―? って、いたいた」

 廊下の片隅。なにやら物憂げな視線を庭に送り、ぼんやりとしている凛の姿があった。

「……ほっておいてって言ったでしょ」

 ぼそり、と一言。

「ばか、そんなことできるか」

 苦笑して士郎は凛の横まで来ると、隣に腰掛けた。

「心細いんだろ?」

「……う」

 図星だったのか、凛は顔をしかめる。

「ちっちゃいし、魔術も使えないもんな」

「……ふん、どうせ士郎も、わたしのこと間抜けだと思ってるんでしょう」

「いや、まあ、ちょっとはその、あれかなって」

素直に話す士郎。でもな──と彼は続けた。

「……でも、こんな時くらい、もっと頼ってくれたっていいんだからな」

「…………」

 沈黙。凛は何も言わない。

「今は遠坂、魔術師でもなんでもないんだからさ。……もっと肩肘張らずに、甘えたっていいと思う。そうしたら、俺も全力で遠坂の事、守るからさ」

「あ、貴方ねえ……」

 さすがに赤面して凛はわずかに身を捩らせた。一方士郎はきょとんとして、

「え、何か変なこといったか、俺」

「……なんでもないっ」

 ふいっ、とそっぽを向き、凛は口を曲げる。

「……士郎」

 あくまでも視線を外したまま、凛は。

「ありがと」

 そう小さく呟き──

「おう」

 ──士郎もまた、囁くようにそう言うと、笑った。

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