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91.DEAD DEAD DEAD END

 

 それは一秒にも満たない時間だった。

 アーチャーがわきわきと指をくねらせながら凛へと手を伸ばし──

 その服に指がかかけられ──

 ──がしっ。

 ──そして。

その指を、小さな手が掴み挙げた。

『え?』

 呆気にとられたように呆然としている、士郎とアーチャー。

「で」

 『ごごごごご……』と背後に瘴気とたゆらせ、小さな人影はゆっくりと顔を上げる──

「誰が……なんだって?」

 トオサカリン。

 彼女はにっこりと笑いながら、そう静かに聞き返した。

 その間にも彼女が掴んでいる指からはべきばきみきびしと破滅的な音が響いているわけだが。

「え……………………………………………………ええと…………」

 真っ青を通り越してドス黒く顔を染めて、アーチャ−が呻く。

 士郎がこれ以上ないほど素早くさっと視線を逸らした。

「うん、あれだけ騒いでたら、誰でもおきるから?」

 うふふふふふふ──と不気味な笑い声を上げながら、凛がくいっと手をひねる。『ぐちゃっ!』と言うとどめの不協和音と共に、指がありえない方向に一瞬捻じ曲がり、力なくくにゃりと垂れ下がった。

「────っ!?」

 表情だけは変えること無く、アーチャーは耐える。だらだらと脂汗が顔面にびっしりと浮き出ているが。

「さあて、アーチャー?」

 満面の笑みを浮かべながら、凛は軽い口調で尋ねる──

「埋まって死ぬのと吊るされて死ぬのと潰されて死ぬの、どれがいい?」





 

92.みすてた。

 

「さて。あーもう、動いたらまた喉かわいちゃったわ」

 こきこきと肩を鳴らして凛がめんどくさそうに呻く。

「……そ、そうか」

 なんとかそれだけを呟いて、士郎はちらりと庭に視線を送った。

庭に生えている一本の木。そこにはずたぼろになったアーチャーが足を縛られ逆さに吊るされていた。

最早ぴくりとも動いていない。

「……生きてる、のか? あいつ」

 ぼんやりと呟く士郎。

 その横を、黒い塊が通り抜けた。

 ──ばずんっ!

「おぐっ!?」

 凛の打ち出したガンドが見事にアーチャーの腹に決まり、苦悶の声をあげる。

「ん、生きてる」

 つまらなそうに呟いて、ぱんぱんと手をはたいて凛はさっさと居間へとひっこんでいく……

「………………………。」

 残された士郎に出来ることは。

「……そ、そうだな?」

 空笑いをしながら、凛に続いて行くことだけだった。






 

93.対面

 

「ああもう、それにしてもイリヤ、遅いわね」

 とん、とん、とん……

 机を叩きながら、いらいらと凛が呟く。

「そ、そうですね」

 愛想笑いを浮かべて、士郎がそれに頷く。

「……なんで敬語なのよ」

「いや別に。深い意味はないぞ?」

 素早く視線を逸らしつつ、士郎。まあ、それにしても──と誤魔化すように矢継ぎ早に、続ける。

「いつもならそろそろ帰ってくるんだけどな」

「早くしてほしいわ……」

 はあ、とため息をつく。と。

 ──がらっ

 廊下ごしに玄関が開く音が聞こえてきた。

「あ」

 士郎がぱっと反応して、玄関のほうを振り返った。

「……帰ってきたのっ?」

 がばりと身をのりだす凛に、そうみたいだ、と士郎は頷いた。

 やがてとたとたと廊下を歩く音が近づいてきて──

 ──がらっ

「イリヤ、助かったわー!」

 遠坂が相好を崩してそう言うのと。

「……………………………ね、姉……さん──?」

 スーパーのビニール袋を提げた桜が(・・)途惑ったように身を引きながら、目の前の小さな姉の姿を見るのは、ほぼ同時だった。






 

94.桜の認識

 

「………あれ?」

 笑みを張り付かせて硬直する凛。

「……………………」

 ぎしり、と。まるで見てはいけないものでも見てしまったかのように目を見開いたまま、ぴくりとも動かない桜──

 そして。

「…………………ふうっ」

 そんな吐息と共に、桜が崩れ落ちた。

「って桜―!?」

 慌てて士郎が駆け寄り、桜を抱き起こす──

「ん……あ、せん、ぱい──」

 士郎が何度か桜の肩をゆすると、彼女はうっすらと目を開けた。か細い声で続ける。

「先輩……わたし──わたし、もう駄目みたいです……」

 ふるふると声は震えていた。そっと目を閉じ、桜が呻く。涙がすっと頬を伝って落ちた。

「小さい…………姉さんが…………見えちゃうんです……」

「えーとな桜。悪いが多分ソレは幻覚でもなんでもないぞ。俺にもそう見える」

 士郎の腰にすがりつきつつ、差し伸べられた手をそっと握り締めて、桜は笑う。

「先輩も見えるんですね……あは、でも──、うん。それならいいかなあ……先輩と……一緒に死ねるんなら……」

「って、なにどさくさにまぎれて色々言ってんのよあんたはっ!」

 『すぱこーん!』とスリッパ(ミニサイズ)で桜の頭をはたく凛。ふーっ、と肩を怒らせている。

「あうっ!?」

 たまらず頭を押さえて呻く桜。

スリッパ片手に腕組みをしつつ、凛はやれやれと呟く。

「ったくもう、油断も隙もあったもんじゃないわね……」

 桜は頭を押さえつつ、恨めしげに凛をにらみつけた。

「ううう、ひどいですよ姉さん。いいじゃないですかこのくらい」

「いいはずあるかー!」

 スリッパを全力で投げつけ、叫ぶ。

痛いですよう、と笑いながら桜はしかし動じた様子もなく、首をかしげた。平然としたまま聞き返す。

「でも、何で小さくなってるんです?」

「い、いやあのな。桜さん?」

 と。たまらずそこに士郎が口を挟んだ。

「あ、はい。何ですか先輩?」

 素直に振り向いた桜に、士郎は恐る恐る問いかける。

「……驚かないの、か?」

「いえ、それは勿論おどろきましたけど」

 ちらり、と意味ありげな視線を小さくなった姉に送りつつ、桜は朗らかに笑って、

「でもほら、姉さんですし。」






95.W

 

「ふうん? まああんたがどういう目でわたしを見ているかってのはなんとなくわかったけど──」

 あっはっは、と口だけで笑いながら凛が肩を竦める。目は全く笑っていないのだが。

「い、嫌ですよ姉さん。軽い冗談じゃないですかっ」

 ぱたぱたと手を振って愛想笑いをする桜に、凛は冷徹な視線を送る。

「ああ、そう。ふうん?」

「ちょ、ちょっといいかねっ!」

 と。いつの間に復活したのか、庭の木に吊るされたままのアーチャーが、『くわっ』と目を開いて絶叫していた。

「何よあんたまだ生きてたの?」

 鬱陶しそうにする凛に全力でアーチャーが叫ぶ。

「どうして君はそういう言葉がさらっと出てくるのかねっ!?」

「当然じゃない」

 何ワケわかんないこと言ってんのよ、と眉をしかめる凛。彼女は『はあ……』と嘆息してから、

「で、何よ」

「い、いや。大したことではないのだが」

 ぴっ、と縛られたままの状態で、人差し指を突き出して、アーチャーは。

「どうせなら桜もちっちゃくしたほうが──」

 ────午後の衛宮邸に、二つの閃光が瞬いた。






 

96.最大火力

 

「ええと、どこから説明したものかなあ……」

 居間。机の上においてあるドールハウスの中の机にひじをついて、やや疲労の色を見せながらも凛は呻いていた。

「初めからお願いできますか、姉さん」

 その真正面にきちんと正座して、桜がはっきりと告げる。少しだけ顔をひきつらせてから、凛は口を開いた。

「初めねえ。まあ簡単に言えば、ちょっとした事故に巻き込まれてこうなっちゃったんだけど──」

「はっはっは。嘘はいけないな凛」

 と。全身から血を噴出しつつ、それでもひとまず縄からは向けだしたアーチャーが今へと入ってきた。よらないでよね汚い、と呟きつつ凛が聞き返す。

「何がよ、嘘なんかどこにもないじゃない」

「しかし真実というわけでもないだろう」

 したり顔でアーチャーが続ける。

「あれはほとんど自爆のようなもので──」

「……でも」

 腑に落ちない、というように首をかしげたのは桜だった。目の前の凛をしげしげと観察しつつ、

「何の事故だったんです? 怪我はないようですけれど」

「うむ。怪我なら今の私のほうが多いな」

「というかよく死なないなあんた」

 半眼で呻く士郎の横で、凛がにっこりと笑いながら拳を握る。

「アーチャー。何なら倍にしてあげてもいいのよ?」

「……………え、遠慮しておこう」

 顔をひきつらせつつ、だがなんとかそう言って笑うアーチャー。

「それで結局、事故ってのはどうなったんだ?」

 よく話がそれるな、と呻きつつ尋ねる士郎に、アーチャーは静かに頷きつつ、

「うむ。それのことだが、実は凛は胸を大きくしようとして魔術を使って、」

「消えて、なくなれええええええええええっ!」







 

97.凛同盟

 

「胸、って姉さん」

 心底呆れたように呻いたのは桜だった。

「う」

 居心地が悪そうに体を捻りつつ、顔引きつらせた顔をさっと逸らす凛。

「なにやってるんですか!」

 『だんっ!』と机を叩いて桜が叫んだ。かぶりを振りつつ嘆くように続ける。

「胸の大きい姉さんなんて姉さんじゃないんです! なんでそれがわからないんですかっ!?」

「そうだな。まったくもってそのとおりだ」

 ──と。桜の背後に近寄り、腕組みをしつつうんうんと頷くアーチャー。

「アーチャーさん……」

 はっ──と。髪をなびかせ振り返る桜に、アーチャーははっきりと誇らしげな口調で、

「桜、よくわかっている」

 言いつつ、すっと右腕を差し出した。

「アーチャーさんも」

 その手をしっかりと握り返しつつ、不敵に笑う桜。

 そして。

「……えー、なにこの展開」

ドールハウスの中で凛は一人、頭を抱えていた。





 

98.待ち人来たる

 

「というわけで、なにも無理に元に戻ろうとなどしないでもいいのではないだろうかっ!?」

「ガンド」

 熱っぽい口調で力説するアーチャーに特大のガンドを叩き込みつつ、凛が嘆息する。

「……最近つっこみがどんどん厳しくなってきていると思うのはきのせいかね」

 それでもなんとか身を起こしつつ、アーチャーが呻く。

「きのせい」

 面倒くさそうに言い捨てて、凛はテレビを見ながら再び嘆息した。

「あーもう、士郎の家に来たのは間違いだったかなあ……」

「それはないだろう。あっちにいても打開策はなかったのだ。ならば少しでも確率の高いほうにだね」

 ──がらっ

 と。廊下ごしに玄関の開く音が響いた。

 続いて、ただいまー、という幼い声が聞こえてくる──

「イリヤ……!」

 がたん、と立ち上がり、凛が叫んだ。

「みたいですね」

 ちっ、と舌打ちしつつ桜がお茶をすする。

「ただいまシロウー、って……うわ」

 襖を開けつつ、イリヤがそこで言葉をとめた。全身血まみれでぼんやりと突っ立っているアーチャーに目が釘付けになっている──

「……人を見てうわとか言うのはどうかと思うぞイリヤスフィール」

 ジト目で呟くアーチャー。

「……いや、でも言っちゃうだろ、これ」

 半眼で呻く士郎。その横では桜も曖昧に頷いている。

「え、なに。これってなにかあったの?」

 慌てることなく、至極冷静に士郎へとイリヤは尋ねた。その言葉に士郎は一瞬言葉を詰まらせた。むう、と唸りつつ天を仰ぐ。

「まああったというか何と言うかさ……」

「……でも本当に珍しいわよね? 屋敷に来ても居間(こっち)に来ることなんかあんまりないし。何より──」

 ぴっと指を立てつつ、イリヤが呟いている。ちらりと意味ありげにアーチャーへと視線を送りつつ、

「貴方も一人っていうのは珍しいわよね? ……あ、そっか。やっぱりリンに耐えられなくなったってこと?」

『げ』

 イリヤの言葉に三人が顔を引きつらせる──

「あれ、ところでこれなあに? あ、凄いミニチュアハウスなのね?」

 ぱっと顔を輝かせて、イリヤが机の上においてあったドールハウスに目を止めた。ぐるりと開いている部分へと回りつつ、どれどれ、と身をかがめる。

 そして。

「……や、やっほー」

 家の中には──ぴきりと顔を引きつらせつつも、笑顔を保つ、小さな凛の姿があった。

「……………………………。」

 そしてイリヤもまた全身を硬直させる。

「………………………………」

「………………………………」

 地獄のような沈黙が、居間を支配した──






99.禁句

 

「あ──あはははははははははっ!?」

 目に涙すら浮かべながら、目の前にいる凛を指差し、イリヤは爆笑する──

「はは……は、はは……」

 凛もまた、額の血管の数を確実に増やしながらも、曖昧に笑って見せていた。

「まずい、まずいぞこれは。私の経験上あのレベルにまで達すると……」

「ね、姉さん? イリヤちゃんもちょっと落ち着いて……」

 顔を真っ青にしながらも、なんとかイリヤを落ち着けようとするアーチャーと桜。

「あー……、あー。リン、貴女凄いわね……本当ちっちゃいわ。何をどうやったらこんな風になるんだか──え、魔術? 胸──って、はあ? な、なにそれ……」

 ぼそぼそとイリヤの耳元でことの成り行きをアーチャーが説明し、そのたびにイリヤがびくんと体を震わせている。

「だ、だから……アーチャー? 言うんじゃないって……」

 びきびきびきびきびきびきっ

 最早笑顔とはいえないような表情で、凛がそれでも必死に上ずる声を抑えて呟く。

「は──っはは……だ、だめ。死んじゃうぅ……」

 体をくの字に折り曲げつつ、イリヤが息もたえだえに搾り出した。

「あー……凄い。リン、貴女最高よ」

 涙を拭いつつ、イリヤがようやく一息ついた。

「魔術で、胸で、……ちっちゃくってねえ……」

 くすくすと笑いつつ、小さな凛を見下ろすイリヤ。

「はぁ──うん、まいった。これは本当に……」

 再び笑いがぶり返してきたのか、 小刻みに体が震え始める。

「い、いや、だから──」

 ぎりぎりと歯と歯の隙間から搾り出すようにして、凛が言葉を紡ぐ。

「あー」

 そして。はふうと大きく息を吐いて、イリヤはやたら冷めた表情で、ぽつりと呟く──。

「…………………ばかよね?」






 

100.すでに、もう。

 

「は……………はは………は……」

 びきぴきぶちびきんっ──

 音が響く。連続した破裂と断裂の音が、ナニカを確実に蝕みつつ広がっていく──

 未だくすくすと笑っているイリヤの後ろでは、アーチャーたちが顔を真っ青にしたまま、ぶんぶんと首を振っている。

「そうですよ、リン」

 と、とがめるような口調で諭すように告げたのは、イリヤの背後から続いて入ってきたセイバーだった。彼女は胸に手を当てると、静かに続ける。

「なんでもかんでも魔術で解決しようとするのは間違っています。せっかくこうした発展した文化があるのですから、そういったものをきちんと踏まえて……」

「……………セイバー」

 重苦しい声だった。

 何かに耐えるように、引き絞るようにつむがれた声だった。

 そうしてようやく──セイバーもまた、悟った。

「…………だめ、だったのですか……」

 部屋の空気がますます重くなった──



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