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71.見つかった答え

 

 

 

 ──墓地。先程まで荒れ狂うように響いていた剣撃はすでに止み、二人の間には恐ろしいまでの沈黙が広がっていた──

「オレは────」

 そこで言葉は止まっていた。

 エミヤは膝まづいた姿勢のまま、ただ茫然とエミヤを見上げ、言葉を失っている。

 アーチャーは小さく嘆息しつつ、さっと腕を振った。

「……私も、凛を失ったよ」

「……っ?」

 ぎょっと目を見張り、エミヤがぴくりと反応する。

 ゆっくりと歩きながら──少女は続けた。

「今聞いた出来事とは全く別の出来事だった。だが結果としてみれば、私だけが生き残り、凛は死んだ────同じと言えば同じだ。些か乱暴だがね」

 ざっ……

 ふいに少女は足を止め、空を見上げた。

 眩しそうに目を細め、ぽつりと呟く。

「──だが、それでも私は、ここに、いる」

「後悔は、ないのか?」

 恐る恐る──伺うように聞いてくるエミヤに、アーチャーは苦笑した。

「あるさ。沢山」

 再びゆっくりと歩みだしつつ、彼女は肩を竦めた。

「だが、それでも」

 詠うように緩やかに、

 

「それでも──いい人生だったと。私は言い切る自信があるがな」

 

 穏やかに、アーチャーはそう言い切る。

 エミヤはそんな少女の姿を、眩しそうに目を細めながら見つめ、呟いた。

「ああ──アンタ、凄いな」

「……言ったろうに。何も凄くなどないさ」

 全く、と苦笑するアーチャーに、エミヤはそれでも首を横に振る。

「……いや──凄いんだよ」

 ざっ……

 呟きつつ、彼はゆっくりと立ち上がった。

 ぼたぼたと血が地面に零れ落ちる。

 腕を押さえながら、エミヤは囁いた。

「……生きたい」

 ゆっくりと、噛み含めるようにして再度呟く。

「オレ……生きて、いたい」

「そうか」

 対するアーチャーの言葉はしどくシンプルなものだった。

「じゃあ──」

 呟き、少女はさっとその手をエミヤへと差し出して、

 

「──行こうか?」

 

 ふっ、と。

 ただ素直に──笑いかけた。

 その笑顔を真正面から見据えつつ、エミヤは。

「……ああ」

 少しだけ苦笑しつつ、その手を取った。






 

72.帰還準備

 

「と言うわけで──」

 呟きつつ、アーチャーはきょろきょろと周囲を見渡し──そして壁の端を見つめて半眼で呻いた。

「……いつまで隠れているつもりかね」

「…………」

 アーチャーの言葉に背を押されるようにして無言のまま壁の後ろからゆっくりと姿を表したのはエミヤだった。

「凛」

 呟きつつ、彼はゆっくりと歩を進め──10メートルほど距離を開けたまま、

「──すまなかった」

 そう呟いて──頭を下げた。

 凛は腕を組んだまま、はあと嘆息した。

「あれだけやっておいてすまないの一言で済ませる気? いい度胸してるわねー。……それに、謝る相手が違うんじゃない?」

「……そう、だな」

 エミヤはのろのろと向き直り──居間へと視線へと向けた。

「──ごめん。オレ……オレ、はっ……!」

 あとはもう言葉にならないのか、うなだれたままただ肩を震わせている。

 ──反応はない。二人は今は眠っている。

 よし、と腰に手を当てて凛は頷いた。

「反省ならば、もう十分すぎるほどにしたさ。──そうだろう?」

「…………ああ……、そう、だな」

 苦笑。

そう、とそっけなく告げ、凛はくるりと背を向けた。さっと手を振り、適当に宙空を見上げて告げる。

「じゃあ、ルビー?」

「はいはーい。あ、ここですよ凛さーん」

 声は居間の中から聞こえてきた。

 ん? と凛とアーチャーは顔を見合わせる。

 くいっ、と凛が顎でそちらを指し示し、苦笑しつつアーチャーがそちらへと向かう。

「ええと……?」

 きょろきょろと周囲を見渡す──

「ここですって」

 声がした方角を向けば、そこにはカレイドステッキが転がっていた。もう光球ではなくなっていた。

「あれ、あんたそれ──」

 ステッキはぐにゃりと歪んで、肯定の意を示した。

「ええ、先ほど機能が回復したようでして、ごらんのとおり、無事に復活出来ましたっ。と言うわけで、もう残されている時間も少ないことですしさっそくですが元の世界に戻しますよー」

「ああ、頼む」

 静かに頷くアーチャーの横で、ステッキはくるりと前面(と思われる向き)を凛へと向けた。

「では、凛さん」

「……え?」

 ぽかんと口を開ける凛に、ステッキはえへんと胸(と思われる部位)を逸らして、

「いえいえ。私はほら、ステッキ、道具ですので。ここはやはり誰かに使用していただかないと」

「って、なによそれーっ!? だ、だったらアーチャーでもいいでしょっ!?」

 『だんっ!』と机を叩き、たまらず凛は声を荒らげた。ステッキは何言ってるんですか、と呻いて見せて、

「またバグが発生したら今度こそただじゃすみませんよ。──さあほらもう諦めて、さっさとやっちゃいましょう!」

「うう………なんで一日に二回もこんな目に──」

 しくしくと涙しつつ、それでも凛はおとなしくステッキを手に取る。

「あはー。では行きましょう!」

光がステッキから膨れ上がり、凛を包む込む──

着ていた服が『ぱっ』と一瞬消え、カレイドルビーのコスチュームが彼女の素肌を包みこむ。やがて光が薄れ、収まり──ゆっくりと凛は目を開く……

──そこには。

「うむ、やっぱり凛は最高だな!」

「凛……凛……っ」

 何やらうんうんと頷きつつこちらを凝視している二人の姿があった。

「あ・ん・た・ら〜………っ!」

 ぷるぷると身をふるわせつつ、凛はぎゅっとステッキを握る手に力を込めて、

「いっぺん! まとめて死んでこおおおおおおおおおいっ!」

 フルスイングで、二人に叩きつける──!

『なぜだああああああああっ!?』

 青空に、二つの人影が舞い上がった──。






 

73.残された言葉

 

「ったく、結局なんだかんだ言って莫迦なんだから……っ」

 顔を真っ赤にしつつ、凛はぶつぶつと呟いていた。

「い、いや凛、あれはしょうがないだろう……?」

 ぼたぼたと鼻血を流しつつ、少女は呻く。凛は頬を染めたまま『びしっ』とステッキをつきつけて、

「同意を求めるな! てゆーか何で服が一瞬消えるのよっ!?」

「あはー、何言ってるんですか凛さん、そんなのお約束(常識)じゃないですか!」

 平然と言い切るステッキに、があーと凛が叫ぶ。

「聞いたことないわよそんな常識!」

「まあまあ凛、そろそろ落ち着いてだね──」

 苦笑しつつアーチャーがぽんと凛の肩を叩く。

「くっ……!」

 凛は歯噛みしつつ、それでもしぶしぶ頷いた。

「……わかったわよっ。ほらルビー、さっさとしなさい!」

「はいはい。ではいきますよー」

 ステッキがそう告げると同時、中央にある星が鈍く光を放ち始める──

 

 キィィィィィィン……


光が渦巻く。

 風が、三人を包みこんで舞い上がる。

 アーチャーは髪をおさえながら、ふと空を見上げていた。

「エミヤ」

 ふと。

 顔を上げて、凛がぽつりと呟いた。

 風にはためく髪を気にした様子もなく、真正面からエミヤをじっと見つめている。

「……?」

 首をかしげるエミヤに、凛はただ一言、

いいのね(・・・・)?」

 そう、尋ねた。

「──…………」

 エミヤは絶句した。

「凛」

 たしなめるように、横にいるアーチャーが言葉を挟む。が、凛は静かに首を横に振ると、

「いいから。……いいのね、本当に」

 そう繰り返した。

 ──沈黙は、一瞬。

 エミヤは少しばかり息をのんだ。

 が、それでもにっこりと笑うと、

「ああ。頼むよ、遠坂(・・)

 ──と。そう、告げた。

「わかったわ」

 こくん、と凛は頷く。真っすぐな瞳で。

 アーチャーは彼女の隣に立ち、ふ、と小さく苦笑している──。

「ルビー、いくわよ」

 凛はやおら顔をあげると、

「はいはい了解です、いつでもいけますよー」

「よし──!」

 頷き、凛はステッキを握りなおした。

 

きいぃぃぃぃいぃいいぃぃいいいい────!

 

 光がその輝きを一層増した。

 風がそれらすべてを包みこんで、舞いあがる。

 

──びしっ……

 

 空間に亀裂がはしった。

「元の世界、か──」

 呟いたのは、エミヤ。

 びしびしと音を立てて亀裂が広がっていく。

「アーチャー」

 囁くと、少女はただ黙ったまま、こくりと頷いた。

「遠坂」

 凛はこちらを見つめ、柔らかく微笑んでいる。

「あはー、いきますよー」

 びしびしと亀裂が広がり──

 エミヤの姿が薄れていき──

 光が一層強くなり──

 ──そして。

「……ありがとう」

 ──その言葉を残して、彼の姿は、消えた。






 

74.そして。

 

 

しゅぅぅん……

 ゆっくりと光が収まり──そして、居間の中から、エミヤの姿は消えていた。

 アーチャーと凛は横に並んだまま、つい先ほどまでエミヤが立っていた場所をぼんやりと眺めていた。

「……行ったのだな」

「ん……そうね」

 アーチャーは凛に目を合わせないまま、ぽつりと呟く。

「凛」

「……ん?」

 凛もまた、こちらを見ていないようだった。

 畳をじっと見据えたまま、二人、囁く。

「これで……よかったのだよな」

 数秒の、沈黙。

 やがて凛は……すべてを包みこむような寛容さを含ませながら、柔らかく告げた。

「……貴女はそう思って行動したんでしょう?」

「ああ」

 その答えに、迷いはなかった。

 あるはずが──なかった。

「なら──それでいいのよ」

 告げる少女の瞳には、自信と決意が。

「そうか」

 くすりと笑い、目を閉じる。

「そうよ」

 小さく頷き、凛もまた。

「……うん、そうだな──」

 再度目を開き、今の襖の奥、そこに覗いている青空をぼんやりと見上げる……

 凛はそうだと声をあげると、

「……ねえ、アーチ、」

 ──声が、中途半端な所で途切れた。

「…………ん?」

 不審に思い、アーチャーはくるりと背後を振り返った。

 その直後に、ひっ、と言うような悲鳴が聞こえてきたが。

「どうしたんだ、凛──」

 見れば、凛は顔を真っ赤にして硬直していた。

「え、あ、う……」

 ぱくぱくと口をあけ、何かを言おうとしているようだが、それも適わないでいる──

「凛?」

 不安になり、エミヤは一歩凛へと近づいた。

 すると、凛もまた一歩後ずさった。

「ちょ、あ、アンタそれ……っ」

 ふるふると、震える指先でこちらを指差してくる──

「……む?」

 首をかしげつつ、自分の体を見下ろす──何も変なところはない。強いているのなら服を着ていないくらいで──

「……ぶぱっ!?」

 認識したその刹那、アーチャーが鼻から血を盛大に噴き出した。

 アーチャーは、何故か服を着ていなかった。

 全裸だった。

「うわっ。」

 完全に引いた様子で凛が一歩後ずさる。

 全身を血まみれにしながら、のろのろとアーチャーが凛へと手を伸ばす──血だらけになった、真っ赤な手を。

「り、凛……服を……も、もしくはティッシュを大量、に──」

「ひ──」

 顔を青ざめさせ、同時素っ頓狂な声をあげて凛が後ずさる。

「り、凛……っ」

「って──」

同時、その手の中に巨大なハリセンが出現し──

「こっちよるな変態―────っ!」

「なぜえええええええっ!?」

 『すぱーん!』と小気味いい音とともに、全裸の少女が青空に舞い上がった──。






75.伝えたい言葉

 

「あはー、というわけで、何だか元に戻ったみたいよかったですねえ」

 やたら能天気に呟いたのはカレイドステッキだった。

「……全然戻ってないじゃない。単に受肉云々が解けて普通の英霊になっただけじゃないのっ」

 机に頬を乗せ、全くもう──と嘆息したのは凛。

 ──あの時。エミヤがこの世界から消えた影響なのか、アーチャーにも変化が起こっていた。

「うむ。まあ服が消えたのはそのせいだったのだろうな」

 ここに来るまで着ていた赤い服に身を包み、少女はうんうんと頷く。

「でもこのままでもいいじゃないですか」

 朗らかに呟いたのは、アーチャーから治療を受けている桜。

「全くだ。何しろこれなら銭湯の女湯に入っても何も咎められることがない──」

「絶対行かせないわよばか」

 すこん、と頭を小突き、凛。

「まあまあ」

 苦笑しているのが士郎。こちらはすでに治療は終わっていて、今はのんびりお』茶を飲んでいる。

「……そ、そういえば」

 こほん、と咳ばらいをして、凛はちらりとアーチャーを眺め見た。

「アーチャー貴方、魔力とか大丈夫なの?」

「む?」

 首をかしげるアーチャーに、凛は僅かに動揺したように眼を泳がせて、

「さっきの戦闘で結構使ったんでしょう?」

「そうだな」

「そ、それにその……やっぱり英霊なんだから、定期的に魔力も摂取しないといけないし──」

「そうだな。それがどうかしたかね」

 心底不思議そうに見つめ返してくるアーチャー。

 そして──ふと気づけば、士郎や桜までもが、何やら生暖かい眼差しでこちらを見つめていて──

「え、えーと」

「ああ」

 瞳の中にぐるぐるマークを浮かべ、やたらわたわたと手を動かしつつ凛は呻く。

「つっ、つまり……」

「つまり?」

 首をかしげ、尋ねてくる。

 ──そこが、限界だった。

 そして凛は手を『ぎゅむっ』と握り締めると──

「……ッなんでもないわよあんぽんたんーっ!」

 その勢いのまま、アーチャーに『ごっ!』と拳を叩きつける!

「げぶっ!?」

「ふん!」

 どすどすと足音と荒く凛が居間から出て行き。

「な……なぜだ……」

 あとには、巨大なタンコブを浮かべたアーチャーの姿が取り残されていた。

 

 

 

76.囁いた言葉

 

 

「ああもう、あの馬鹿……」

 凛は苦虫を噛み潰すようにして、縁側を歩いていた。

 庭を見て、ふむ、と腕を組む。

 ちらりと後ろを振り返るが、人影はいなかった。

「……追いかけても来やしないし……」

 恨めしげに呻いて──唐突に彼女はしゃがみこんだ。

 はあ、と嘆息。

「……ああもう、何やってんだか、わたし……」

 そのまま座り込み、足を庭に投げ出した。

「…………」

 ぼんやりと、何をするでもなくただ庭を眺めている。さあ──と風が髪を泳がせる。

「────ここにいたのか」

 ふと声が聞こえて顔をあげれば、そこにはアーチャーが。

「……なによ。何か用?」

 ふん、と恨めしげな視線をぶつけるが、少女は大して気にした様子もなく、ただ肩をすくめてみせた。

「やれやれ……隣、いいかね」

「……ん」

 顔をあげないまま、頷く。

 とすん、と軽い音。

 もうひとり分の息遣い。

 ──凛はすっと目を閉じる。

 さぁ──っ

 風が再び通り過ぎた。

「──いい天気だな」

 ぽつり、とアーチャーが呟いた。

「そうね」

 小さく凛もまた頷いた。

「見ろ、凛。月だぞ」

 ゆっくりと瞼を開けて見れば、青空の中、雲に紛れて白い月が浮かんでいる。

「……そうね」

 苦笑しつつ、頷く。

「結局元には戻れなかったな──」

 やれやれ、と肩を竦める。

「ん……まあ、いいわよ」

 こちらもまた、同様に。

「戻らなくても、か?」

 少々意地の悪い含みを持たせて、尋ねる。

「ばか。気長にやるってだけ」

 さっと手を振り、囁く。

「それに……どんな姿でも……」

 言いながら、くるくる自分の髪を指に巻きつけている。

アーチャーは背筋を伸ばすと、

「凛」

「……んん?」

 聞き返してくる凛に、アーチャーは真っすぐ、告げた。

「────再契約しよう」






 

77.空

 

「…………」

 じわ、と。気づけば握りしめた掌に、力が込められている。

 アーチャーは髪をたなびかせながら、空を見上げる。

「この状態なら──恐らく出来るはずだ」

「……うん」

 その返答は、自分でも驚くほどに弱く、儚かった。

「私では不満かね?」

「不満──なんかじゃ、ないけど」

 のろのろと──押し出すように、呟いて。

「……いいの?」

 こっそりと隣をのぞきこみつつ、凛はそっと尋ねた。

「──当たり前だろう」

 何を今さら、と言うように少女は肩を竦めている。

「……凛じゃないと、嫌だからな」

 さりげなく──のつもりなのだろう、本人は──付け足し、赤く染まった頬を隠すように、ぷいとそっぽを向いている。

「……ん」

 くすり、と自分が笑っているのに気づいて、ますます苦笑。

 アーチャーは視線を逸らしたまま、口早に訪ねた。

「君こそ私でいいのかね」

「……いいのよ」

 出てきた言葉は、ほとんど即答だった。

まあ、そんなものかもしれないな──と、ぼんやりと頭の片隅で考えながら、彼女は横にいる少女へと視線を送る。

アーチャーは肩をすくめながら、

「こんな──体でも、か?」

「そうよ。悪い?」

 くすくすと笑いながら、そう告げてやる。

「いや。──凛らしいよ」

 苦笑。

「なによそれ、意味わかんないじゃない」

 口を尖らせると、アーチャーはむ? と首をかしげてみせた。

「? そうかな」

「そうよ」

 まったくもう──とひらひらと手を振り、告げてやる──。

 ……そこで、会話が途切れた。

 時間がのんびりと過ぎていく。

 雲が流れていく。

 二人、静かに空を眺めている──

 

 

 

78.二人の紅い少女たち − ツイン・レッド・ガールズ −

「ふう──」

 んっ、と腕を前に伸ばしてから、凛は振り返った。

「ねえ、アーチャー」

「何かね?」

 首だけで振り返ってくるアーチャーに、凛はなんとはなしに訪ねる。

「貴女、元の体に戻りたい?」

「……君こそどうなんだね。あちらの私のほうがいいのだろう──?」

「……ん」

 凛は曖昧な返事を残して視線を逸らした。

 くるくると髪を指に巻きつかせながら、呟く。

「別に、今のままでも、いいかなって」

 ぶつぶつと、聞こえるか聞こえないかくらいの声で、囁いている。

「なんか、そんな気もしてきた──、かな」

「何なんだね、それは」

 呆れたように肩をすとんと落とし、呻く。

 凛は顔を赤らめ口を尖らせて、

「だって──アーチャーはアーチャーじゃない」

 そこまで言ってから──ふと、視線をアーチャーへと向ける。

 そして、ね? と笑いかけながら、

 

「士郎でも、エミヤでもない──、あなた」

 

 ──ふと気づけば、アーチャーは顔を真っ赤にした状態で、硬直していた──が、唐突に我に返ると、『ばっ』と口元を押さえた。目を逸らし、もごもごと口の中で呻く──。

「……いや待て凛。君はあれだね、自分が一体何を言っているのかわかって……?」

「え?」

 きょとんとして見返してくる凛に、アーチャーは苦笑する──せざるを得ない。

「……いや、なんでもない。……まいった──本当に、君には勝てそうにないな……」

「何で勝つ必要があるのよっ」

 わけわかんないわよ、と小突いてくる凛。

「いやいや」

  誤魔化すようにアーチャーはぱたぱたと手を振り、くるりとこちらに向き直ると、やおらすっくと立ち上がった。

「……よし、では早速行こうか──」

 体を、両手で抱きかかえた。

「ひゃあっ!? ちょ、ちょっとアーチャー、一体どこに──」

 思った以上に近い距離にあるその顔は、誇らしげに、そして──少しばかり悪戯っぽく微笑んでいる。

「──決まっている。再契約するのだろう? それなら行く場所はひとつ──私と君が、初めて出会ったところだ」

 言って、視線を前へと向ける──

 ──それは、いつかどこかで見たことのある表情。

(……あ、そっか)

 凛は……苦笑していた。

「飛ばすぞ凛。振り落とされるなよ?」

 呟き、その手に力がこもる。

 ──ろくに魔力など残っていないだろうに、“強化”をかけているのだ、この大莫迦者は。

(全く、本当に──)

 くすくすと笑いながら、それでもその細い首に両腕を回し、告げてやる。

「当たり前。誰に言ってるのよ?」

「──ああ。それもそうだ」

 そう、囁くように微笑んで。

 やおら一転、彼女は足に力を込める。

「はっ──!」

 だんっ!

 二つの影が、勢いよく中へと飛び出した。

 衝撃で、二つの宝石が跳ねあがる。

「……ね、アーチャー?」

「んん?」

「──────あのね、」

 凛は顔をアーチャーの耳元に近づけ──、何かをそっと囁いた。

「…………っ!?」

 アーチャーは顔を真赤にして慌てふためきつつ、それでも前を向いたまま足を進める。

 そして、二人は跳ねるように進んでいく。

 青い空の下を。

 光輝く、太陽の下を──。

 



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