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21.想い

 

「……やめましょう」

 迷わずきっぱりとそう言い切ったのは──凛だった。

「……凛?」

 伺うようなアーチャーの視線に気付いたのか、凛はふうと嘆息した。首を横に振り、静かに続ける。

「リスクが大きすぎるもの。この方法は却下。別の方法を──」

「……何か……あるのかね?」

 おずおずと尋ねるアーチャーの質問に、凛はぐ、言葉に詰まった。が、それでも手を振り、紡ぐ。

「……これから考える。とにかくこの方法はなしよ」

「試さなくても……いいのか?」

「いいわ」

 切り返したその言葉に、迷いはなかった。

「しかし──」

「──しつこい。なしって言ったらなしよアーチャー」

 じろり、と冷徹に睨みつける凛の視線を真っ向から受け止め──静かにアーチャーは告げた。

「行動には何かしらのリスクはつくものだぞ、凛。やらないで後悔するよりは、やって後悔するほうが──」

 じろり、と凛は横目で少女を見やりつつ髪をかきあげ、腕を組む。

「そんな奇麗事が聞きたいわけじゃないんだけどね、アーチャー?」

「いや、しかしだね──」

「──っ、なら!」

 だんっ!

 声と、音と。二つが部屋に響いた。見ると、凛が壁に拳を叩きつけていた。

 絶句しているアーチャーの方へは向かず、凛は吐き捨てる。

「もしそれでアンタが消えるなんてことになったら、どうするのよ!?」

「……それは──」

 言葉に詰まるアーチャーに対し、

「……わたしは嫌よ」

 そう、凛は素早く囁いた。胸に手を当て、言い聞かせるようにして続ける。

「それなら、このままでいい」

「それで……いいのかね?」

 すっ──と歩き出しながら、静かに尋ねるアーチャー。

「それでいいわよ。それで十分でしょ?」

 足を止めたまま、そう言い切る凛。

「…………」

 アーチャーはそんな凛の後ろ姿をしばらくの間眺めていたが──やがて身をかがめると、ステッキへと向けて声をかけた。

「……ルビー」

「はいはいー?」

 この騒動の中でもあくまで平然とした声で、ルビーが声をあげる。アーチャーはステッキへと手を伸ばし、

「マスター登録を……してくれないか」

 そう言いつつ、カレイドステッキをその手に取った。

「ちょっとアーチャー、わたしの話聞いて──」

 反射的に振り返りつつ、凛が口を尖らせてなおも続けようとする──それに被せて、

「──凛」

 アーチャーは静かに告げた。かぶりを振りつつ囁く。

「君が、私のことを心配くれているのはわかる」

 すっ──とステッキを目の前に掲げながら、

「けれど、少なくとも……私が好きな凛は(・・・・・・・)──きっとこの選択肢を選ばないと思うんだ」

「……な、何よ、それ……っ」

 ぐっ──と唇を噛み締め、凛は何とかそれだけを搾り出した。視線が揺れる。何かを言おうと息を吸い込み──、結局何もつむがれることなく霧散。数秒の間を置き、ようやく彼女は、

「そんなの──ずるいじゃない……」

 ──と、だけ。目を伏せ、擦れた声で呟いた。アーチャーはそんな凛を優しく見守っていたが、やがてふいに真顔に戻ると、床に転がったままのステッキに尋ねた。

「何、あくまで可能性。そんなに確率としては高くないんだろう、ルビー?」

 ステッキは勿論です、と頷いた。

「ええ、それはそうです。低い部類にあたるでしょうね。でも、あくまで確率の問題です。決してその可能性はゼロではない──とだけ。例えば何千分の一の確率だとしても。それでも、何千回に一回はそれは必ず起こります(・・・・・・・)。それは決して避けられないのです。そのことだけはお忘れなきよう。──私からは、こんなところですかね」

「──と、言う訳らしい」

 アーチャーはそう言って、じっと凛を見つめて、彼女の答えを待った。

「………………。わかったわ」

 呆れたように、あるいは満足したかのように──小さく、本当に小さく凛がそう零したのは、十秒ほど後のことだった。すう──と息を吸い込む音。そうして凛はゆっくりと顔をあげる。真っ直ぐにアーチャーの目を見据え、告げる。

「──アーチャー。マスターとして命令するわ(・・・・・・・・・・・・)

 腕を掲げる。未だ令呪の残ったその手の甲を見せながら。そして凛は……わずかに言葉を緩ませつつ、

「わたしの前から勝手にいなくなるなんて──絶対に許さないんだからね」

「……ああ。了解だ、凛」

 アーチャーはそう言って──包み込むように、笑った。






 

22.手渡したもの

 

「はい、これで登録はOKです」

 気楽な口調で告げ、ぺかぺかと光るステッキ。

「──さあでは行きましょう!」

「いや、少し待ってくれ」

 やる気まんまんと言った感のルビーを押しとどめ、アーチャーは少し離れたところに立っている凛へと振り返った。

「……凛」

「……ん」

 視線を僅かに外したまま、凛はそっと呟く。

 アーチャーはステッキを持っていない方の手を首の後ろへと回すと、

 チャリ──っ

 そこにかかっていた二つの、ほとんど全く同じように見える赤いペンダントを外した。一つはここにいる凛から貰ったもの。そしてもう一つは──。

「これを……持っていてくれ」

「う、うん」

 やや緊張した面持ちで凛が歩み寄り、それを受け取る。不安そうな彼女の表情を見て、アーチャーは嘆息した。

「……そんな顔をしないでくれ。別にそんな深い意味などないさ。ただ、変身したら服も変わるようだからな。もし何かあって影響を受けてなくなってしまったら困るだろう?」

「──そ、そうね」

 凛は頷いて笑顔を作った。手の中で二つの宝石をぎゅっと握り締めながら、数歩後ずさる。

 それを確かめてから、アーチャーはふうと息を吐いた。ステッキを握りなおし、鋭く叫ぶ──

「では、行くぞ──!」

 そして──光が膨れ上がり、部屋を飲み込んだ。






 

 

23.ホワイト・アウト

 

 白。

 シロ。

 しろ──。

 どこまでも、真っ白。純白の光が、周囲の全てだった。

(ここ、は……?)

 目をしばたき、アーチャーはきょろきょろと周囲を見渡した。

 ────ザッ

 一瞬耳鳴りが響き、顔をしかめる。

(……凛?)

 呟いた──つもりだった。

 が、声が響いた気配はなかった。

(……ルビー)

 今度は手の中にあるステッキへと視線を送る。

(……ルビー?)

 ステッキは、反応しなかった。

(…………。)

 純白の世界の中、アーチャーは独り佇んでいる。

(……凛)

 見上げる。どこを見上げればいいのかはわからなかったが。わかったこと。結果は明瞭だった。──つまり(・・・)そう言うことだ(・・・・・・・)

(だが、まあ──)

 息を吐き、アーチャーは適当な方向へと歩き出した。

 不思議と焦燥感はなかった。悠然とすらした態度で、赤い少女は白の世界を進んでいく。

(あれだけ大口を叩いたんだ。まさか、そう簡単にあきらめられるはずもないか……)

 

────ぅんっ

 

 小さな耳鳴り。僅かに眉をしかめ、アーチャーは背後へと振り返った。

 

 ─────ぅうんっ……

 

音は先ほどよりも大きかった。見ると、純白の世界の中、黒点がひとつ浮かんでいる。

(……何だ?)

 眉をしかめ、目を凝らした。刹那。

 

  ぶぁあっ────────────っ!

 

 世界が、一瞬にして飲み込まれた。






 

24.ノイズ

 

────────……目の前ではじける赤。じくじくとと侵食するように視界を染め、脳髄をしびれさせていく。ひどくゆっくりと、しかしどうしようもない程に強く強く瞳に焼き付いていくソレは、一言で言えば冗談のような光景だった。

 

「じゃあ、貴方は」

イリヤはのろのろと、アーチャーを見据えた。――この男は、弓兵(アーチャー)などではなく。

「魔術師……いえ」 

吐き出すように眉をしかめて、少女は嫌悪を表情も隠さず、吐き捨てるように続けた。

「……魔術使い──」

 

 

 初めの一瞬、何が起こったのかが理解出来なかった。次の一瞬、脳のどこかが勝手に状況を分析し、事態を把握。そしてさらに次の一瞬で、

それは……形容しがたい感覚だった。まるで自分が自分でなくなるような。それでいて自らを再構築していくような。

擦り切れ、最早それが一体何の意味を持つのかすらわからなくなったものがある。

掠れ、限りなく薄れている思い出がある。

何のために存在しているのかすらわからなくなった自分が、在る──

 

 

 

──ザ……──

 

 

 

暗い……漆黒の闇の中。そっと手を伸ばせばそこには確かに何かがある。だと言うのに、彼にはそれが一体何なのかはわからな/────嘘だ」

 そう呟いたつもりだった。だが声は出ていなかった。乾ききった口の中がひどく熱い。擦れた声は喉の奥に張り付いたまま零れ出ようともしない。瞼を閉じることも、眼球を移動させることも出来ない──もどかしい。動くことの適わない中、目から入る情報が淡々と意識へと送られてきている──

「      」

 赤。赤。赤──視界いっぱいに広がったその光景は、少なくとも美しくはあった。飛沫が宙を舞い、踊るように広がる。/「……ああ、よかった」 唇をわずかに動かして、アーチャーはただ笑う。いつもの皮肉じみた笑顔ではなく。それは、昔、どこかで見たような――「無事だったんだな、イリヤ」/そして拡散した塊は急速にその力を失い、地面へと吸いこまれるように落ちていき──

 

 

 

────ザッ────

 

 

 

“士郎”

赤が侵食するかのように広がる──全て何もかもを埋め尽くして塗りつぶそうとでもするかのように。

“……エミヤ?”

 

 

 

────ザザッ────

 

 

 

“アーチャー……”

 ──────ばしゃんっ……

液体にしてはやけに鈍重な響きで、ようやく/もなかった。ここには何もない。ただ自分だけがある。それ以外の全てはわからない。いや──僅かに聞こえてくるこれは、/ 黒い空には白い月。あと二日もすれば新円を描くであろう月が/、ごめんね……”/血が、

 

 

 

────ザ・ザザァっ……────

 

 

 

「      」

 目の前ではじける赤。じくじくとと侵食するように視界を────嘘だ」そう呟/赤が、/ザ・ザッ/ことの適わない中、目から入る情報が淡々と意識へと/絶叫/体は剣で/――ああ。時間を稼/弾ける血はどうしようもない程に/“ねえ、アーチャー。わたしね……?”//擦り切れ、最早それが一体何の意味を/ザザッ──/./い丈夫だったんだな、イリ/死ぬなんて、そんな莫/れが、痛み/ごめん、遠さ/「      」/血が、/痛み/涙が止ま/壊れ/めだ、早く助けないと死/死んで/凛、

 

 

 

 

 

 

“士郎、ごめんね……大好き、だよ”

 

 

 

 

 

 

「あ──ああああああああああっ!?」

 ──絶叫。

 アタマの中を視界いっぱいに広がるソレが侵していく────自分が壊れていく。見えない。わからない。何も出来ない。ゆっくりと──まるで風化するかのように静かに崩れていって──ヒビ割れて、いって──

「だ・か・ら──」

 ──違和感。ああ、この声は──

「返事しなさいってのよへっぽこーっ!」

 すぱーん!

 やたら軽快な音が響いて、少女はべったりと床に倒れ付した。

「………………一体、なにが……っ?」

 未だはっきりとしない意識のまま、血を噴き出しながらのろのろと身を起こしつつ周囲を見渡す。見慣れた壁、見慣れた家具、見慣れた人物──見慣れた部屋。

「──……ここ、は……」

 ──そこは、まぎれもなく凛の部屋だった。






 

25.結果、消えたもの

 

「……ずっと……いたのか?」

 囁くように呟きながら、アーチャーはぼんやりと周囲を見渡す。

凛はその言葉に反応せず、息を切らしてぼんやりと立ち尽くしている。その手にあるのは、ハリセン──先程彼女の頭を叩いたのはこれなのだろう。アーチャーはくるりと振り返って、

「凛。私は……どうなっていたんだ?」

「どう、って……」

 アーチャーの視線に気おされたのか、すん、と鼻を鳴らしてからやや身を引きながらも彼女は説明した。

「ステッキが光って、アーチャーは固まったまま服だけがころころ変わって……それだけよ。で……しばらくたってから呼びかけたんだけど、アンタ全然返事しないし……気絶してるのかなって思ったから、と、とりあえずこれで引っぱたいてみたんだけどっ」

 と、ぽんぽん、と鋼鉄製のハリセンを手の中で弄びつつ、凛。

(……その割には、妙に切迫していたようだがな──)

 先ほど聞こえていたあの声を頭に浮かべつつ、そんなことはおくびにも出さないままアーチャーは笑った。

「……なるほど。とりあえずやたら頭が割れそうな理由はわかった」

 ついでに皮肉げに口を歪ませる。

 「しかし……」

 呟きつつ、アーチャーは自分の体を見下ろした。その姿は、つい先ほどまでのものと同じ──ではあるのだが、いや、それ以前に何故か服を着ていなかった。

 ──着て、いなかった。

「…………。」

 アーチャーが硬直したのを見て、凛が付け加える。

「……あ、あとさっきの変身の副作用かなんかわからないけど、ころころ服変わってたわよ。まあ最終的には何もなくなったんだけど──」

「………………………………ふっ……」

 そんな凛の言葉を聞いているのか、いないのか。

 ともかくアーチャーは、何故か爽やかに笑い、そして。

 ──ぶ・ぱっ。

 盛大に鼻血を噴出し、ばったりと倒れた。






 

26.代償

 

「……ええとまあ、とにかく実験は失敗、ってことね……」

 あーもー、と毒づきながら血の海の中からアーチャーの体を引き上げ、凛は唸る。

「ふ、そのようだな……」

 未だだくだくと血を噴出しながら、アーチャーはやたら満足そうな表情で呟き、ぼんやりと手の中にあるステッキを眺め見た。と──。

 

 ジっ──……

 

 その手に握られたステッキが、僅かに鈍い音を発している。

「……む? ルビー?」

 気付いてアーチャーはステッキに声をかけた。が──返事はない。

「……何、どうしたの?」

 とりあえずアンタ鼻血吹くとかなんとかしなさいよね、と呟きつつひょっこりと覗いてくる凛に、アーチャーはやや口ごもりながら、

「いや、ルビーが反応しないのだが……」

「─────え。」

 ぴしり、と硬直する凛。

 アーチャーの手の中にあるステッキは、彼女の声に反応することはない。

「むう。これは、ひょっとして……」

 ステッキを見下ろしながら、アーチャーが口を引きつらせつつ呟く。

「え、ちょっと待ちなさいよ。本当に……?」

 顔を青ざめさせて聞き返す凛に、鎮痛な面持ちで頷き、アーチャーは。

「そのようだな……」

 最早輝きを失っているステッキを見下ろし、

「──どうやら、壊れたようだ」

 そう、ぽつりと呟いた。






 

27. 優先事項

 

「こわ、れた……?」

 呆然としたその一言が部屋に広がり、消える。

「ああ」

対するその返事は重々しく、鎮痛に。

 凛はしばらくの間立ち尽くしていた──が、唐突に『がばっ』と顔をあげると、瞳の中にぐるぐるマークを浮かべたままで、

「……ってどーすんのよ! あんな莫迦みたいな機能でも一応平行世界とかカレイドとか魔法とか世界に一本でー!」

「凛、凛、落ち着くんだ」

 がくがくとアーチャーに肩を揺さぶられ、凛はようやく我に返った。

「う──あう、そうね、ごめん……」

「いや、いいさ。──そんなことより凛、今はもっと大事なことがあるだろう──?」

 低く尋ねるアーチャーに、凛は途惑ったように瞳を揺らした。

「え、なに、が──?」

 そして彼女は真っ直ぐにしっかりと凛の目を見据え、

「うむ、何よりまずは服だ。このままでは鼻血がノンストップでだね、」

「知・る・かあああああっ!」

 渾身のヘッドパットが、アーチャーの頭蓋に叩き込まれた──。






 

28.譲れない一線

 

「で、わたしが用意することになるのね……」

 嘆息と共に、凛はのろのろと廊下へと向かう。と、唐突に足を止め、くるりと振り返った。

「……下着とかは……いらないわよね?」

 やや体を引き気味にしながら、凛は尋ねる。

「いや、あるのならそろそろ欲しいのだが」

 至極まっとうな意見を返したアーチャーに、凛はう、と顔をしかめた。

「まあそりゃそうだろうけど……って、ん? 何、そろそろ……って?」

「いや、いい加減ノーパンと言うのもすーすーして落ち着かないのでな。きちんとした下着があるのなら──」

「って、穿かんかああああっ!」

 たまらず叫び、凛はアーチャーへと詰め寄った。がっしと肩を詰め寄り、低く叫ぶ。

「アンタ、女の子になってからずっとそうだったの!?」

「そ、そうだが……?」

 にへら、と笑うアーチャー。ぴきり、と凛のこめかみが引きつる──が、それでもなんとか自制して、彼女は静かに尋ねた。

「な・ん・で……? 男モノのトランクスならあったでしょ……?」

 ぎりぎりと肩に置いた手に力を込められ、アーチャーは口をひくつかせる。が、それでも引くことなく、彼女はぶんぶかと首を横に振ると、きっと視線を鋭くした。叫ぶ。

「──凛、それは駄目だ。駄目なんだ……!」

「って、泣くほどのことかー!」

げいん、とアーチャーを蹴飛ばしながら、ああもう、と頭に手をやる。

「……えーと。じゃあもうジーンズ持ってくるから。それ直接はきなさいよね」

「パンツは駄目なのかね」

 不満げな口調のアーチャーに凛は真っ赤になって叫び返した。

「当たり前でしょ!」

 言い切り、さっさと姿を消す凛。残されたアーチャーはぽりぽりと頭をかいて、周囲を見渡した。

「……やれやれ」

 手持無沙汰なのか、ふらふらと体を揺らしている。

「……ふむ……」

 その目に止まったのは、先ほどのステッキ。

 アーチャーはのろのろと近寄っていくと、

「そうだな……」

そう呟きつつ──ステッキを取り上げた






 

29.着替え

 

 目に、意識を集中させる。

(構造を把握すれば、あるいは──)

 それは、今まで幾度となくやってきた作業。

 投影のためのワン・アクション。

 それを行おうとして──

(……駄目か。意味がわからない(・・・・・・・・)……)

 構造そのものはなんとか読み取れる。だが、その構造を理解することが出来ない。それが結論だった。

「まいったな……」

 今度は声に出し、少女は天井を見上げる。無論のこと全裸に鼻血まみれなので全くと言って良いほどシュールな絵になっているのだが。

と、とたとたと言う音が近づいてきた。ぼんやりとそちらを見やる。

「……お、おまたせ」

 凛はやや顔を赤らめながら、ずいっと服を突き出した。その一番上に小さな白い下着がワンセットあるのを目に止め、アーチャーは目で問いかけた。凛もまたそれに気付いたのか、ぷいと顔を逸らし、

「一度も使ってないのがあったから。おろしたての新品だからねっ」

「そこまで強調しなくてもだね……」

 むう、と呻くアーチャーに、凛はがくりと肩を落として唸る──

「したくもなるわよ、ううう……」

「泣きたいのはこっちだ……これでは情緒も何もあったものではないではないか……」

 ぽつりと零したその言葉を凛は聞き逃さなかった。ずいっと近寄り、尋ねる。

「何よ。情緒って。」

「は、はっはっは」

笑いつつ、やけに手際のいい手つきでパンツ、青のスカートと穿いていく。と、ふいに動きをぴたりと止め、アーチャーは唸った。

「……む? 凛、ひょっとしてこれは──」

 あ、わかった? と凛は表情を綻ばせた。

「ん、そうよ。セイバーのと一緒。サイズ色々あったからちょうどいいかなって思ってね」

「なるほどなるほど」

頷きつつ、どんどん服を着ていくアーチャー。と──その手がふいにぴたりと止まった。

「……凛、大変だ」

 くるりと振り返るアーチャーに、やや疲れたような表情の凛。

「今度は何よ……?」

 アーチャーは両手で白色のブラジャーを押さえながら、愕然とした表情で呻いている──

「ブラジャーが……ブラジャーがぶかぶかなんだ……!」

「……それは何、怒ればいいの、わたしは……?」

 『ごずんっ』と床にどこからともなく取り出した特大金属バットを置きつつ、半眼で──凛。

 が、アーチャーはぶんぶかと首をふると、びしりと親指を立てて、

「いや、最高だ!」

「あーもうわけわかんないこいつー!?」

 悲鳴と共に、その腕、その腰が一つの動きとなって回転を初め──

「結局こうなるのかねー!?」

 叫び声と共に、半裸のアーチャーが血の帯を携えつつ宙に舞い上がった──。






 

30.解決方法

 

「……と、とにかく……このステッキを元に戻さないとね……」

 はあ──と気だるそうに嘆息する凛。

「そうだな」

 頷くアーチャーに、凛は僅かに声を弾ませ、尋ねる。

「……ちなみに聞くけど、どうにかなりそう?」

「いや、先ほど試したが駄目だった。少なくとも私のやり方では難しいな」

 静かに首を振る。

「そっか……」

 呟き、彼女はどんよりとした表情で再び嘆息した。壁に手を付き、額に腕を当て呻く。

「うう……なんだか、段々悪い方に悪い方に行ってるような気がする……」

「……気付いたら負けだぞ凛。大事なのは何も考えないことだ」

 そっとその肩に触れ、こちらもしくしくと目の幅涙を流すアーチャー。

「で、どうすればいいのかなあ……」

 ぼんやりと呟く凛に、彼女もまたふうむと唸り、虚空を見上げる──。

「そうだな──」

 ……沈黙は十数秒ほどだった。

「──とりあえず……」

 びっ、と指を立て、アーチャーはずいっと凛に詰め寄りつつ、

「衛宮士郎の屋敷に行くくらいしか、選択肢が思い浮かばないのだが。」

「……偶然ね……わたしもよ……」

 そして二人は揃ってがくりと肩を落とし──嘆息した。

 

 

 






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