指ちゅぱシスターズ
「と・言うわけで二本目が出来ましたっ!」
『ばばーん!』と登場したのは、マジカルルビーだった。当然のようにふよふよと宙に浮いているのだが、その後ろには確かにもう一本、全く同じ形状の杖がある。
「なんかついこないだもこんな始まり方じゃなかった?」
衛宮邸、居間。テレビからめんどくさそうに目をそらし、凛は呻いた。
「あはー、気にしたら駄目です。と言うわけでさくっとぎゅるっと洗脳ですよー」
「帰れ今すぐ」
にべもなく言い捨て、テレビへと視線を戻す凛。
ステッキはいつもの通り、かけらも聞いたそぶりは見せずに、
「あはー、というわけで二号ちゃんはですね、自我とかは残念なことになくて、機能だけがあってですね。まあ管理するのは私なんですけれども、そのかわり──」
「あー、いいわよ別に説明とか。聞く気も使う気もないもの」
「まあまあそう言わずに。今回の機能はある意味画期的でして……えいっ」
言いつつひょいと二号の杖が、自ら凛の腕の中に飛び込んでいく──
「え?」
呆けた凛だけを残し、『かっ!』と光が瞬き、そして。
『とまあこんな感じに、使用者を完璧に乗っ取ることが可能なんですねー』
声は、ステッキと、凛本人の口から同時に響いていた。
「何い!?」
サラウンドで響くマジカルボイスに、士郎がひいいと顔を歪める。
「え、でもこれって使用者にメリットとかって……ないですよね?」
途惑ったような桜に、ルビーはきっぱりと、
『なにを言ってるんですか。基本的に面白おかしくが信条です、もとより使用者のことなんて念頭にないですよー』
「言い切りやがった!?」
頭を抱える士郎をよそに、凛は『にたあっ』と笑うと、
『あはー、と言うわけで次はそちらの方ですよー』
言うなりステッキがぺかっと光り、どろでろした色の光が発生・逃げる間もなく桜を包み込んだ。
「桜―!?」
がびーんと表情を崩しつつ叫ぶ士郎。
光が収まり、中から現れた桜は。
「…………。」
無言、無表情のまま、どこからともなくメイドカチューシャを取り出し、『かぽっ』と自ら装着した。
「……なんでさ?」
ぽつりと、思わず呟く士郎。
桜は『ずびしっ!』と士郎を指差すと、
「と言うわけで、貴方を梅サンドです」
「いや、本気でなんでさっ!?」
「文句があるなら指をなめますが何か」
「や、それはそれでありだけどさ」
『あはー、さすが士郎さん、偏差値高いですねー』
うにゅると蠢きつつ、凛とステッキが笑う。
そして桜はすすっと士郎に近寄ると、その手を取り、口を軽く開き、
「では、いただきます」
かぷっ──
髪を片手で押さえつつ、そっと咥えた。
刹那、凛が『くわっ!』と目を見開くと、
「ってちょっと士郎何やってんのよ! わたしも混ぜなさい!」
言いつつ凛はステッキを放り捨て、桜の口元へ両手をずいっと突き出した。
「……うわ、洗脳自力で解いたのか遠坂。凄いな」
ぼやく士郎に、凛はふふんと髪をかきあげつつ、
「ふん、わたしを甘く見てもらっちゃあ困るわね。と言うわけで、さ、ささささささあ桜!」
はあはあと息も荒く言いつつ、凛もまた桜に指をしゃぶらせる。
「あー、いい。これいいわ……」
「遠坂、おっさんはいってるぞ」
言いつつ、まったりとしている二人。と──
『ちょっと琥珀、何やってるのよ!?』
ステッキ(2号)のほうから、聞きなれない声が響いた。
『ひぁっ!? あ、あああ秋葉様っ!?』
『全く、姿が見えないと思ったらこんなところで遊んで……』
『ち、違うんですよう、これには深い指ちゅぱ事情が──!』
『いいから来なさい! ……また兄さんが部屋を抜け出しました。今度と言う今度は許さない、あのあーぱー女もろともおしおきしてやります! ほら、こんなことしてないでさっさと兄さんを探しにいきますよ──!』
『あ、あああああぁぁぁぁぁ……』
次第に遠ざかっていく声。
そして、いつの間にやら姿を消しているカレイドルビー1号。
『…………。』
残されたのは、未だ乗っ取られた状態のまま、ぼーっとしている桜と、凛と士郎の三人である。
「…………………ええと」
士郎が呻く。なにやら奇妙な汗をかきながら。
「………………中の、ひと?」
凛もまた呟く。苦笑するように。
「……ま、まあとりあえず」
言いつつ士郎は『きっ』と視線を鋭くし、指を立てた。
「ええ、そうね──」
頷き、凛もまた人差し指を突き出す。そして。
『指、つっこむか。』
完。