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復讐ワカメ

 

 

「……思うのですが」

 間桐の屋敷の桜の部屋。ベッドの上に腰掛けて本を読んでいた桜の前に実体化し、ライダーはずいっと詰め寄った。

「え?」

 桜は顔を上げ、聞き返す。

 ライダーはぐぐっと拳を握り締め、右斜め45度の角度を向いて、力強く言い切った。

「その――サクラが我慢する必要はないと思うのです」

 桜はその言葉に一瞬何のことかと考えたようだった――が、すぐにああ、と頷くと、

「……うん、そうかな」

 苦笑でもって、ライダーに返す。でもほらと指を立て、諭すように彼女は続けた。

「わたしが我慢すれば丸く収まるんだし――ね?」

 そうして、少しばかり視線を外し、桜は笑った。

「それなら、それでいいかなあ――なんて」

「それは明らかに間違っていると思います」

 ライダーはすぐさま言い返した。くいっと眼鏡を持ち上げながら。

「そ、そうかな……?」

 桜の瞳が不安定に揺れる。きゅっと服の裾を掴んでいる。ライダーは腰に手を当てて頷いた。

「ええ。メロンが果物だと言うくらいに間違っているのです」

「うん、それよくわかんないんだけど」

「というわけで!」

 ライダーはそこまで勢い込んで桜に詰め寄ってから――

「……復讐するのです、サクラ」

 そう、ひそひそ声で囁いたのだった。

 

 

 

「復讐って――」

 困ったように笑いながら、桜はどうしたものかと悩んでいるようだった。

 二人は今、慎二の部屋に来ていた。

「予習復習ではありませんよ?」

 そこは気をつけてくださいね、と真顔でライダー。

「うん、それはわかるから」

 桜は頷いたあと、きょろきょろと部屋の中を見渡した。当然のことではあるが、室内に慎二の姿はない。

「でも、どうすればいいのかなあ」

「ああなんだ、もうノリノリですね」

「え? ううん、そんなことないんだよっ?」

 慌ててぱたぱたと手を振り、桜は否定する。

「まあまあ」

 ぽんっ、とそんな桜の肩に手を置き、ライダーは薄く笑った。

「ともかく、そうですね」

 素早く部屋を見渡しながら、ライダーはふうむと思案する――

「……どのレベルでやるかが問題です。上の者に対する嫌がらせは、我慢すれば出来ないこともない程度のコトを、確たる証拠を残さずにやるのが一番ベストだと思うのですが――」

「……ええと。何か嫌な過去でもあるの? ライダー」

 ふふふふふふふふふと、表情を全く動かさないで笑うライダーに、桜は頬に汗を垂らしてぎこちなく聞き返す。と――

「…………………」

 ぴたり、と。ライダーの動きが止まった。苦悩しているような、苦悩に押しつぶされそうになっているかのような重苦しい空気が周囲を包む。

「………………………………………………………………いえ、別に?」

 完全に裏返った声でライダーが言い返したのは、たっぷり十秒ほど間が空いたあとのことだった。

「あ、うん。そうだよねっ!?」

 慌ててこくこくと桜が頷き、同意する。

「さ、さてサクラ。ともかく肝心なのはチクチクです、チクチク」

「う、うん。わかった」

「そうですね……」

 言いながらライダーは部屋の中を物色し始めた。

「たとえば、この本棚」

 いって、くいっと本棚を指差す。

「うん」

 ライダーはふふふふふと笑いながら、中から一冊の本を抜き出した。

「これを、こうして」

 そして、ばさっと床に捨て、自慢げに言い切る。

「床に放り出しておくとか!」

「……ちっちゃいね」

 ぽつりと呟いた桜の呟きには、明らかな落胆の色が含まれていた。

「そ、そうですかっ!?」

 ライダーは慌ててもう一度本棚に向き直ると、二冊の本を抜き出して、

「で、では本のカバーをすげかえるとか!」

「うん、だからちっちゃいってライダー」

「……わかりました」

 頷くライダーの唇は噛み締められていた。決意を込めた声を震わせ、ライダーはぐぐっと拳を握り締める――

「こうなれば、騎英の手綱(ベルレフォーン)で部屋ごと破壊――」

「だ、だめーっ!?」

 今にも宝具を発動させそうなライダーの腰に、桜は必死にしがみついた。

「全然チクチクとかじゃないし! 破壊とかはだめっ!」

「我侭ですねサクラは」

「わたしなのっ!?」

 叫ぶ桜。やれやれ、と肩をすくめるライダー。そうして彼女はふうむと俯いて考え込んでいたが、

「ともあれ、それなら――ああ、そうですこれがあった」

 言ってライダーは顔をあげ、どこからともなくビニール製の袋を取り出した。

「これって……」

 桜が袋のパッケージを覗き込む。

『乾燥ワカメ お得パック』

 袋には、そう印刷が施されている。

「…………………………………………………………………」

 桜は袋を覗き込んだ体勢のまま、ぴしりと硬直した。

 ライダーは気づいた様子もなく、いたって上機嫌に袋の中に手を突っ込み――

「はあっ!」

 掛け声と共に、迷うことなく盛大に中身をばら撒いた。

「きゃ――!?」

 桜が頭を抱えて悲鳴をあげる。

 ライダーは袋の中身を全部ばら撒き終えると、はふうと息を吐き、満足そうに額の汗をぬぐった。

「これでよし、と」

「あ、あの、ライダー?」

 恐る恐る、と言ったように桜は尋ねた。

「これ、何の意味が……?」

「ワカメ頭なのでワカメですが何か?」

 ライダーは至極真面目に言い返す。

「ああ、うん。もういいや」

 桜はにっこりと笑いながら言い切った。

 ライダーはさらに新しいワカメ袋を取り出すと、盛大にばら撒きだす――

「そしてさらに、これをこうして――」

「ああ、じゃあわたし夕飯つくるから、ライダーもほどほどにね〜」

 桜はライダーをあっさりと見限ると、部屋からさっさと出て行った。

 ライダーは気づいた様子もなくワカメ撒きに没頭している。

「ふ、ふふふふふ。姉さまたちにもこれをこんな感じで――!」

 なにやら呟いている。

 ライダーはさらに『生ワカメ ボリュームパック』を取り出すと。

「そしてっ! とどめはこの――」

「この、なんだよ、ライダー」

 ――声は、出入り口から響いた。

「…………」

「…………」

 沈黙のまま、恐る恐るライダーが振り向く。

 そこには。壁に手をかけながら、ぴくぴくと引きつった顔で部屋の中を見つめている慎二の姿があった。

「……………………」

「……………………」

 沈黙。ライダーはがたがたと震えたまま言葉を発しない……

「……で、その手に握ってるのはなんだ? ライダー?」

 一歩。慎二が部屋の中に踏み込みながら呟く。

 ――その時点で。もうライダーの震えはおさまっていた。普段通り、沈着冷静な顔つきで、慎二と相対する。

「……ああ、帰りましたかワカメ」

「誰がワカメだよっ!?」

「丁度いい。今からこれを貴方の頭にかぶせようとしていたのです、というわけでえいっ」

 べちゃっ。

 ライダーは無表情のまま、手にした生わかめを慎二の頭にかぶせた。

 ぼたぼたぼたっ。べちゃんっ。

 頭に乗り切らなかったわかめが床に落ちる。

「……おい、ライダー。お前さ、こんなことして――」

「えいっ」

 べちゃっ。

 再び生ワカメをかぶせる。

 血管を浮き立たせながらも、あくまでも静かに慎二は続けた。

「だ、だからさ」

「たあっ」

 べちゃっ。

「おい、ライダーいい加減に――」

 慎二がくってかかろうと手を伸ばし――

「ふう」

 そしてライダーはあっさりとその手をすり抜けると、

「サクラ、ご飯はまだですかー?」

 あっさりと。部屋を出て行った。

 たん、たん、たん、たん……

 全く何事もなかったかのように、すたすたと階段を下りていく……

「………………………………………おい」

 据わった目つきで、慎二が唸る。

「……………」

 ずるり。

 とりあえず慎二は頭に載っていたワカメを手に取った。

「……………」

 にゅるり。

 手の中で、生ワカメと乾燥ワカメが蠢く。

「……………」

 そして慎二はワカメをしばし見つめたあと――部屋の中にあった大鏡へと視線を移した。その中には、今やワカメヘアーとなった自分の姿がうつっている――

「…………」

 沈黙したまま彼は鏡の中の自分の姿に見入っていた。頬に触れ、立ち位置を確認し、ワカメをずらして修正する。最後に『にやっ』と口を歪め、ポージングを取ってから──、彼はぽつりと呟いた。

「……案外、ありじゃない?」

 完。





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