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FATE/usual days

Days 1

 





「ねえ、アーチャー」

 遠坂凛は読んでいる本から顔をあげずにそう呟いた。

 遠坂の屋敷の一階のリビング。いるのは屋敷の主である彼女と、あとはもう一人、今彼女からアーチャーと呼ばれた男だけだった。

「なんだね?」

 彼はもまた紅茶をいれる手を止めずに聞き返した。芳醇な香りが部屋いっぱいに広がってゆく。一級の茶葉と一級のいれ方をしたときにだけ出せる、柔らかい香り。

「んー……そうね」

 凛はソファーに座りなおしながら、眉をひそめた。一瞬宙に目を泳がせてから――すぐに本に視線を落とす。少し間を空けてから、何気ない声色で彼女は続けた。

「例えば――」

 ぱらり、とページをめくる音。

「例えばね? こっちに可愛い、いかにも守ってあげたくなるような子がいるとするじゃない?」

「ふむ」

 アーチャーは紅茶のいれ終わったカップを両手に持ち、机に向かって歩き出した。凛はといえば、相変わらず本を読みふけている。

「で、もう一人女の子がいてね。その子は――まあ顔は悪くはないし、スタイルだっていいんだけど、でもちょっとばかり性格がきつい子がいるのよ」

 ふむ、とキッチンのほうからいつもの相槌。そこで初めて本から視線をあげて、彼女は質問を口にした。本で顔を隠すようにして、上目遣いでアーチャーを見上げる。

「男なら、どっちを選ぶもんなの?」

 その質問は彼にとって虚をつかれたものだったのか――、驚いた表情で、彼は凛の顔をまじまじと見つめた。ぶしつけですらあるその視線に耐えられなくなったのか、凛はぷいと横を向いて目を逸らす。心なしか、彼女の顔は赤みを帯びているようだった。そこまでを観察してから、アーチャーはぴくりと眉を動かした。口元がゆがみ、次第ににやにやとした彼独特の皮肉めいた仕草となる。

「ふむ? ふむ。ああ、なるほど」

 彼は顎に手をあてながら、シュガーポットを抱えて再びリビングへと戻ってきた。うんうんと小さく頷きながら。半眼で、薄く笑みを浮かべて。それを視た凛は、むっとしたように口を閉じた。

「な、なによ」

 険悪な口調で、ぶっきらぼうに聞き返す。

「いや? ただ、まああれだろう」

 アーチャーはそれでも余裕の表情を崩さないまま、すっと凛に近づいた。肩を竦めながら目の前に立ち、そっと手で凛の頬に触れる。ぴくん、と彼女の身体が震えた。柔らかそうな薄い桃色の唇――そう言えば薄くリップをつけているようだ――に視線を向け、囁く。

「――私なら、凛を選ぶと思うが?」

「なっ――」

 その言葉に凛の顔が一瞬で耳まで真紅に染まった。ぱくぱくと口を金魚のように開閉させている。数瞬後、ようやく言うべき言葉を探し当てたのか、彼女は力の限り怒鳴った。

「な、何恥ずかしいこと言ってんのよっ!」

 が、アーチャーはその声に驚くでもなく、いつもの飄々とした態度のままにやりと――そしてしてやったりと言うように――口を歪めた。

「ふむ? ということは性格がきつい子は凛ということでいいようだな?」

 その台詞に、え、と間の向けた声。

 凛のものだ。

 ぽかんとアーチャーを見上げてから、ようやく我に返った彼女は慌てて手をばたばたと振って否定の意を示した。いかにも焦っているような表情になっているのだが、恐らく本人はそのことを自覚していないのだろう。

「ちっ、違うわよ?! 何勝手にそんな――そんな……」

 次第に彼女の声は小さくなり、やがて消え入るようなものとなってしまう。とうとう彼女は顔を真っ赤にしたまま俯いてしまった。大きく息を付く。

「……もう、知らないわよ」

 拗ねたような、怒ったような声色。恨めしそうにアーチャーを一瞥してから、彼女はぷいとアーチャーから目を逸らした。そのままどすどすと足音を立てて

 ばたんっ!

 思い切り扉を叩きつけて、リビングから出て行ってしまう。

「……ふむ?」

 やれやれ――と言うように、部屋に一人残されたアーチャーは肩をすくめた。机の上には手付かずのまま置かれている紅茶が二つ。そのうち一つを手に取り、ゆらゆらと傾けながら、彼は嘆息した。

「もう少し素直になってもいいと思うのだがねえ……」

 その言葉に含まれているのは、皮肉めいた苦笑――

「まあ、私が言えることではないか」

 ――そう小さく呟いて、アーチャーは紅茶を口に含んだ。






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