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Fate/usual days?

第4話 ホストでGO!

 

 

 

 落胆と諦めの入り混じったかなり微妙な表情で――アーチャーは目の前10センチに突き出された紙切れを見つめていた。

 その目に力はなく、虚ろである。

「……凛、私はなんだ?」

 ぼそりと、そう尋ねる。

「難しい質問よね――」

 紙ごしに声が聞こえた。

 その奥――凛は、紙を突き出したまま、なにやら意味深に考え込むような仕草をしていた。

その様子は真剣なようにも見えるし、自分に酔っているようにも見える――後者だ、とアーチャーは迷わず判断したようではあるが。

遠坂の屋敷の一階のリビングで、二人は向かい合って立っていた。もうすぐ夜になるという時刻である。夕飯の準備でもしていたのか、アーチャーはエプロンをつけていた。

 ともあれ、凛は指を一本たてて、

「哲学的っていうのかしら。まあ、生きてるうちにそんな壁にぶち当たることなんて珍しくもないけど。でも考えるってこと自体は悪いことじゃないわよ? そうやって人間って成長していくものだし――」

「そういうことを言っているのではなく!」

 語気を強め、アーチャーは凛のせりふを遮った。多少落ち着きを取り戻して――続ける。

「……私はこれについて聞いているのだがね」

 と言って、目の前の紙を目で指差してみせる。軽くつつくと、それはひらひらと揺れた。それから彼は説教するでもなく、ただ語りかけるように続けた。

「いいかね凛。私はサーヴァントだ」

「てゆーかまあ、奴隷よねぶっちゃけ」

 ぴくっ。

 アーチャーの眉が震えるが――彼はなんとか自制した。続ける。

「……サーヴァントとは、まあ簡単に言ってしまえば聖杯戦争を勝ち残るための君のパートナーのようなものだ」

「うん、だから奴隷よね?」

 ぴくり。

 再び、顔が引きつる。震える声を押し隠して、彼はなんとか続けた。

「つまり、聖杯戦争だ。あれが最大の目的だろう、凛」

「そりゃそうだけど生きるためには目的だけを見るんじゃなくて、っていうかそれしか見ないのは単なるドリーマー。ちゃんと堅実に生きえてこその夢よ。そう思わない?」

 ずびし、と指を突きつけ――凛。

ある意味正論なその答えに、アーチャーはひるんだように身を仰け反らせた。呻く。

「そ――それはまあ、そうかもしれないが」

「つまりね、アーチャー」

 片目を瞑り、諭すような優しさでもって彼女は口を開いた。

「あ、ああ」

「聖杯戦争も大事だけど、何よりもっと大事な――」

 と、そこまで言って凛は言葉を飲み込んだ。そっと目を伏せ、考え込む。

「――ううん、違うわね」

 うん、と頷いて彼女は再び顔をあげた。自分に言い聞かせるように、

「ベクトルが違うっていうの? それはそれで大事なんだけど、それはこっちとは別次元の話なんだわ」

 自分自身納得した、と言うように、うんうんと頷いている。

「すまない凛、君の言いたいことがよくわからないのだが」

 アーチャーはこめかみに汗を浮かべながらそう呻いた。凛はじれったそうにして、

「ああもう、鈍いわね」

「…………」

 反論できないアーチャーに凛はもどかしそうに続ける――

「つまりね」

 言いながら、凛はアーチャーの周りをゆっくりと歩き始めた。先生かね君は、とアーチャーは小声で突っ込んでいるが。

右横に来たところで、彼女はすっと顔を覗き込んだ。

「生きるために大事なものって何かわかる? アーチャー」

「……と、いうと?」

 恐る恐る聞き返すアーチャーに、凛はきっぱりと、そして寸分の迷いもなく、

「お金よ」

 言い切った。

「うわあ」

 物凄く嫌そうに、アーチャーが顔をしかめる。

凛は低い声で唸った。

「何よ、その声」

「いや別に」

 慌ててぶんぶんと首を振るアーチャーに、凛は肩を竦めてみせる。

「だってそうじゃない。この社会、お金がないと何も出来ないのよ! 愛は地球を救うとか言ってるけどね、わたしに言わせればあんなの茶番も茶番で――」

「凛、凛。そのくらいで」

 だらだらと汗をかきつつ、アーチャーが背後から凛の口を防いだ。が、凛はその手を振り払うと、

「あれって要するに自己満足なのよねっ?!」

 がー、と叫びながらアーチャーをにらみつけた。

「いや、同意を求められても」

 顔を青ざめさせて、アーチャーは曖昧に笑う。

 あっそう、と興味なさそうに鼻を鳴らして、凛は髪をかきあげた。

 そのままゆっくりと、机に向かって歩く。

 すでに食器が並べられていた――そう言えば夕飯の支度の途中だった――机の上に手を置き、

「と・いうわけで。我が遠坂家にはお金があまりありませんっ!」

 『だんっ!』と強く机を叩いた。食器が跳ねる。結局それがやりたかったのかね、と呟いて、アーチャーは半眼で凛を見た。

「少しくらいならあるだろう?」

「少しならね」

 そういって、肩をすくめる。指を一本たて、それをくるくると回しながら、

「でもやっぱり少しだもの」

「ふむ、それはわかるようなわからないような」

 顎に手を当て考えるような仕草をするアーチャーに、凛はさっと目を送って、

「ならわかりなさい」

「――はあ……」

 曖昧に頷くアーチャー。

 それからちらりと凛を見る。

 何一つ間違ってなどいないというような彼女の表情。

 はあ――と盛大に嘆息して、アーチャーは降参のポーズを取ってみせた。

「わかった。わかった凛。金がないというのは納得しよう」

「貴方が納得しようとしまいとどうだっていいんだけどね」

「……だ、だから、働かなくてはならないというのもまあ、わかった」

 くじけそうになる意思を奮い立たせて、アーチャーは続ける。

「だが、何故私なのだ?」

「? だって肉奴隷じゃない?」

「肉をとりたまえ肉をっ! いや、それ以前に奴隷でないと何度も何度も――!」

 あっけらかんと言う凛に、アーチャーは思わず叫ぶ。

「ああもう、うるさいそこ」

 耳をふさいで、凛。顔をしかめながら、にやりと口を歪める。

「『私は前科一犯のロリコンです』って看板持って街中歩かせてほしいのかしら?」

 もはや懇願するかもように、アーチャーは凛へと詰め寄る。

「凛、世の中にはやっていいことと悪いことがあるだろう……?!」

「だからそれって犯罪のことでしょう?」

「そうではなくてだね……!」

 わなわなと手を震わせている。凛は手を口に添え、

「ロリコーン」

「だからあれは違うと言っているだろう!」

 もはや怒っているのか泣いているのかすらわからなくなった表情で、アーチャーは絶叫した。やけくそなのか、床を繰りつけながら言葉を吐き出す。

「わかった、私がアルバイトするというのもわかったさ!」

「あ、わかっちゃうんだ」

「なんなんだね君はっ?!」

 がばっ、と顔を上げて喚くアーチャー。凛は気にした様子もなく、適当に手を振って、

「うん、いいから続けて?」

「それでだ! なんで、こう! 君の見つけてくるものは! こういうものばかりなんだ!」

ばんっ!

紙を凛から引ったくり、アーチャーはそれを机に叩きつけた。

 そこには『ホスト募集!』と大きく書かれていた。

「……要するに風俗店だろう!?」

 吐き出すかのように叫ばれたその言葉は。

「そうだけど?」

 ……いともあっさりと流された。

「な――」

 思わず絶句するアーチャー。

 が、それでもなんとか立ち直ると、彼は手をわななかせて、

「い、いいのかね、君はそれでいいのかっ?!」

「え、なんか問題とかある?」

 びっくりしたように手で口を押さえ、凛は素直に聞き返した。

「〜〜〜〜〜〜っ!」

 空中で何かを掻き毟るアーチャー。なによう、と手をぱたぱたと振り、凛は気楽に告げた。

「別に脱いだり出したりしなさい、って言ってるんじゃないわよ」

「脱いでたまるかね! ってゆーか出すってなにをだねっ?!」

「そりゃあもちろん――」

「わかった、私が悪かった……!」

 人差し指を立て話そうとする凛の口を必死にふさいで、アーチャーはひたすらに声を張り上げる。ぷはっ、とその手から顔をどけて、凛は出来の悪い子供を見るような目で、

「単に女の人と話するだけよ? 簡単じゃない」

「いや、しかし――」

「しかしも何もないの」

 これでもうこの話は終わりとばかりに手をぱんぱんと打ち鳴らし、凛。が、アーチャーはまだあきらめなかった。ばっ、と手を振り大仰な仕草で凛の視界に割り込む。

「しかし、だ! なんでこう、君がみつけてくる仕事は水商売ばかりなのだね!」

「だって時給いいじゃない」

「………………………そうか………………」

 あっさりと言い切る凛の言葉に迷いはない。

 もう何を言っても無駄だ――と悟ったのか、アーチャーはただうちひしがれたように首をうなだれるだけで、それ以上は何も言ってこなかった。

「それに」

 といって、彼女はにやりと笑った。人差し指を口に当てる。何故か明後日の方向を向き、さりげなく付け加える――

「今回のは、ちょっと私もいってみたいしね」

「そうか、それが目的なのだな…………」

 怨念にも近いようなアーチャーの一言は。

 当然のごとく、無視されたのだった。

 

 

 

「なんだ、貴様か」

 つまらなさそうな顔で、男はかったるそうに呟いた。

『な――』

 アーチャーと凛の顔が強張る――

 上げた状態で固めた金髪。どこか猛禽類を思わせるような鋭い眼差し。整った、だがどこか致命的な脆さを備えた顔つきの男――

「――金ピカ?!」

『違う!』

 思わず二人して同時に突っ込んでいた。

「貴様、ギルガメッシュ――!」

 憤然とした気配を隠そうともせず、アーチャーは詰め寄った。

「待ちなさい」

 冷静なのは凛の方だったようだ。今にも掴みかからんとするアーチャーを手で制し、彼女は静かに目の前の男を見据えていた。

 確かにそれはそうなのだった――どこからどう見てもギルガメッシュである。

 鎧を着ていないのはまあ当然としても、ホストの制服であるはずのスーツ姿ではなかった。ジーンズにジャケットというラフな服装である。ちなみにアーチャーはスーツ姿、凛はいつも通りの格好である。

 アーチャーの鋭い視線を軽く受け流して、男――ギルガメッシュは肩をすくめてみせた。

 ホスト・クラブ『GOLD』の入り口である。店内では数人の着飾った女と、その数倍の数のスーツを着こなした男たちが談笑していた。それは問題はないのだが――

「貴様……」

 殺気を隠そうともせず、アーチャーは詰め寄った。

「貴様?」

 ぴくり、とギルガメッシュが眉を跳ね上げる。彼はポケットに片手を突っ込むと、

「貴様こそ貴様だ。いいか、オレは店主。貴様は?」

「ば………バイト……だ」

 気圧されたようにしながら、それでもなんとかアーチャーは答える。

ふん、と冷ややかな視線をアーチャーに送り、ギルガメッシュは。

「そういうことだ。オレには敬語を仕えよ?」

「………いや、というよりなぜお前が――」

 そこまで言って、凛にわき腹をつねられる。一瞬顔をしかめてから、アーチャーは言い直した。

「……ギル様がこんなところで?」

「決まっている。オレの店だからだ」

 重心を乗せる足を変えながら、ギルガメッシュ。

「……ギル様発言に関しては不問なのかしら」

「いや凛、そこはかなりどうでもいいだろう」

 二人してひそひそと話しあっていたりもする。

「しかしまあ、ホストクラブとはな……」

「まあ、なんかわかるけどね」

 わかるようなわからないようなことを言って、うんうんと頷いている凛。

「それで」

 と、ギルガメッシュは顎で凛を指してみせた。

「それは貴様の連れか?」

「あ、ああ。まあそういうことらしいが――」

「あら。客に対してホストがそんな態度でいいのかしら?」

 ぴくりと眉を跳ね上げ、凛が挑戦的に笑う。

「オレはいつもこんな感じだが」

 全く動じることなく言い返すギルガメッシュ。

「…………?」

 それを聞いて凛は無言のまま、疑わしそうに半眼で店内を見渡した。

 よく見ると、それぞれの客についているホストたちが、心配そうにこちらをちらちらと見ている……

「……なんだかこの店の現状がわかった気がする」

 低く半眼で呻いて、凛。

「……どうする凛。もう帰るかね?」

 かなりうんざりした様子で、アーチャーが凛の耳元に囁いた。彼女はむう、と唸って考え込む――

「……まあ、確かにこいつの下って言うのはね……」

「そ、そうだろう? だから――」

「でもせっかくきたんだし……」

「いや、それは」

「――よし!」

 うん、と大きく頷いて、凛は。

「飲みましょう!」

 必死に相槌を打つアーチャーはきっぱりと無視して、きっぱりと叫んだ。

「り、凛?」

 目を白黒させて、アーチャー。それをどんと押しのけ、凛はぱんぱんと手を打ち鳴らした。つまらなさそうに奥に立っているギルガメッシュに向かって、

「ほらほら、お酒持ってきなさい!」

「飲むのか? まあいいが」

「それから、アーチャーは今日一日ここでバイト!」

「はあ?!」

 素早く指示すると、凛はすたすたと開いている席へ歩いていった。すかさず空いていた男がおしぼりを手に凛へと向かう。

「ちょっとおー、お酒まだあー?」

「……………………凛………………………」

 がっくりとうな垂れ、アーチャーが呻く。

「さて、貴様はこっちだな」

 がしっ。

 襟首を無造作につかまれるが、もう彼は抵抗はしなかった。

「はははは……」

 泣き笑いのような表情で、アーチャーは運ばれて行った――

 

 

 

「女。なかなかいいのみっぷりだな」

「……ふん、なめんじゃないわよ」

 凛はグラスを傾けながらそう零す。目がかなり据わっているようだ。

「り、凛。もうそのくらいにしたほうが……」

 はらはらとしながら、アーチャーがそっと囁いた。が。

「うっさいわね、お母さんかってのあんたはー!」

がしゃーん!

その場のノリ――としか考えられない――で、凛が傍にあったボトルでアーチャーの頭をはたき倒した。

ぼたぼたとウイスキーを頭から滴らせながら、それでも必死に耐えて、アーチャーは呟いた。

「…………これは……いくらなんでもあんまりなのでは……?」

「うっさいのよハゲ! いいから酒もってこーーーーーーい!」

「お客様、でしたらお勧めはこのドンペリなど……」

「んー? んじゃそれ」

 適当に相槌を打つ。

「凛?! ちょっとまて凛、それは――」

 はっと気付いたアーチャーが慌てて止めに入るが、もう手遅れだった。

「はい、ドンペリはいりましたー!」

『ありがとうございまーす!』

「あああああああああああ……」

 がっくりとうな垂れる――

 夜はまだまだ長いのだった。

 

 

「や……やっと終わった……」

あれから数時間。アーチャーは心のそこから安堵したように嘆息した。心身ともにぼろぼろになった感がある。

「ふん、貴様も大変そうだな」

「時々……くじけそうになるさ……」

 はははは、と乾いた笑いを浮かべ、アーチャー。そうか、と興味なさそうに言ってギルガメッシュは茶封筒をアーチャーに向かって投げた。

「まあいい。それと、これが貴様の給料だ」

 慌ててそれを受け取るアーチャー。

 かさ、かさっ。

「……?」

 妙に軽い。

 不審に思い、アーチャーは無造作に封筒を開けた。

 それをひっくりかえし――後ろをぽんと叩く。

 ちゃりん。

 床に十円玉が一枚落ち、ころころと転がってアーチャーの靴に当たった。

「…………………………………………」

 アーチャーは沈黙したままである。

 やがて――のろのろと彼は首を持ち上げ、ギルガメッシュを見た。

 男はあっさりと、

「貴様の連れが飲み食いした分はさしひかせてもらった。どうせ払えんのだろう?」

「……………………………」

 アーチャーはなにも言わない。黙ったままである。

「……おい、貴様?」

 不審に思ったのか、ギルガメッシュが呼びかける。そして――

ばったり。

前のめりにアーチャーは倒れ、

「もう、いやだ……」

ただ静かにしくしくと泣き続けた。






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