侍魂
「せい!」
裂帛した掛け声と共に、汗が飛び散る。
「せい!」
朝。衛宮邸の道場だった。
獲物は刀──真剣である。以前大河が持ってきたものだが、さすがに扱いに困って放置していたものだった。
「んー、なにごとよ」
眠そうに目を擦りながらやってきたのは凛だった。続いて士郎がやってくる。
そして、そこで皆が皆動きを止めた。
道場にたっているのはセイバーだった。金髪小柄の涼やかな容姿の少女である。それが──
「ええとね、セイバー」
恐る恐る凛が口を開いた。
「なんです、凛」
きりりと目を光らせて尋ねるセイバー。彼女はいつもの洋服ではなく着物を着ていた。
「着物はね──うん、着物はいいんだけど」
「そうですか。西陣織でエレガントで素敵なのです」
「あのね、さすがにカツラはどうかと思うの」
「む」
セイバーが顔をしかめる。ちょんまげかつらを被ったままで。
無論、かけらも似合ってはいないのだが。
「ふっ」
あざ笑うかのような声はセイバーのものだった。
「リン、私はわかったのです。武士道! これこそ日本人の魂だと!」
「いや、全力で外国人じゃない」
「と言うわけで、リスペクト! そう、リスペクトなのです! オマージュでも構いませんが!」
突っ込みは聞こえなかったのか、セイバーはそう言うと刀を握り締め再び練習に没頭し始める。
「ちょいやー!」
『…………』
その様子を、凛は濁った眼差しでぼんやりと見ている。士郎はその場で蹲ってふるふると肩を震わせ始めた。
「む、どうしましたシロウ」
「ああああああ、俺のセイバーはどこにいいいい」
「で、でもこれでいいのよ士郎」
ぴっと指をたてて、あとついでに誰があんたのなのよ、とげいんと蹴りをいれつつ、凛。
「だってセイバー、だらだらだらだら食っちゃ寝するだけだったじゃない。要するにそれってあれよ、ほら、ごくつぶし。しかも食費はかさむし魔力がどうたらってなんかいろいろとやってるしまあこれをきっかけにもっと前向きに──」
「約束された、勝利の剣―─!」
かっ──!
道場の壁をぶち抜き、圧倒的な光が凛を飲み込む。
どしゃあっ。
そしてセイバーはきりりと澄ました顔で、ずたぼろになって床に転がっている凛に向かって、
「リン、何か?」
「いやあ、こたえられないだろうこれ」
ぼんやりと士郎が呻く。
「ふ、軟弱な」
「えー」
疲れたような士郎の声。
「というわけでシロウ!」
セイバーは士郎に向き直って声を張り上げた。
「は、はいっ!?」
ちゃき、と鯉口を切りつつセイバーは自分の世界に入ったように呟く──
「私はこれから武士道の道にいきます。止めないでください、あしからず」
「えー、でも」
あと武士道の道って何か変だぞ、と呟きながら呻く士郎。
「……セイバー、貴女は肝心なことをわかってないわね」
と、いつの間にか復活した凛がむくりと体を起こしつつ、
「武士は喰わねど高楊枝――」
指をぴっと立ててそう呟き、そしてそれをセイバーに突きつける。
「――かの小倉鈍床鈍斎が言った言葉よ」
「いや誰さそれ」
呻く士郎は無視して、凛はセイバーに詰め寄る──
「セイバー、貴女にはそんな覚悟があるの?」
「さあご飯にしましょうかシロウ食べないと死にますよ」
完。