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Panic in the room

 

 

 少し雲の多い日の放課後、三人は道を歩いていた。二人は男子生徒、そして残り一人の女子生徒はスクーターを手で押していた。

「なんか微妙な天気だよなあ」

 そう言ったのは朋也だった。

「うーん、そうねえ」

 空を見上げてうなずいたのは、杏。

「あ、朋也」

「ん?」

「今日は暇?」

「いや、これから僕とゲーセンに――」

 と、朋也の横から口を挟んできたのは春原だが──

「おう、何も予定はないぞ」

「…………え?」

 見事なまでに言い切られて硬直する春原。

 杏はかわいそうな目で朋也を見て、

「あんた友達いないのねえ」

「ほっとけ」

「やだなあ。僕がいるじゃ……」

 春原がフォローも兼ねて口を挟む。

 ……二人から帰ってきたのは、憐憫の視線だった。

「……あれ?」

 ぎしり、と笑顔が引きつる春原。

「……ねえ、岡崎。僕たち、友達だよね?」

 朋也は寸断挟まずに頭を下げた。

「……ごめんなさい」

「そんなまじ謝りされてもっ!?」

「で、でね?」

 春原の絶叫はさらりと無視して、杏は顔を少し赤らめながら、

「今日これから、うちこない?」

 

 

 

「ただいまー」

 鍵を開けて杏が扉をくぐる。

「おじゃまします」

 続いて朋也が。

「おじゃまし――あいてててててっ!?」

 春原が入ろうとしたところで、強制的に扉が閉められ、足を挟まれた。

 扉の奥からぎろりと杏が睨みつけて、

「あんたは入るな。臭い穢れる腐り落ちる」

「僕は病原菌かなんかっすかっ!?」

 たまらず春原が絶叫する。しぶしぶと杏は力を緩めた。

「ったく」

「ったくじゃないと思うんだけど。本気でつぶれるかと思ったよ」

「いいじゃない、スリムになるわよ」

 悪びれず、杏。春原はまた声を張り上げる。

「こんな部分的になってもしょうがないっすよねえ!」

「うらやましいなあ、おい」

 ぽん、と軽く肩に手を置き、適当にそう言って中にひっこむ朋也。

「絶対うそっすよね!」

 悲痛じみた声で春原はなおも叫ぶが──

 杏はいつものように無視すると、てきぱきと指示を出した。

「じゃあ朋也、あたしの部屋いってて。春原。あんたは今すぐ回れ右してドブ川にダイブ」

「オッケー」

「オッケー……なんて言うはずないでしょ!」

 叫ぶ春原。例によって残り二人は何事もなかったかのように各自動き始める……

「……とりあえず、岡崎についていくよ」

 力なく呟いて、春原は朋也の後に続く。

 廊下を渡り、杏の部屋の中に入ったところで、春原が朋也に耳打ちした。

「ねえ、岡崎」

「うん?」

「……パンツ漁ろうよ」

 朋也はにっこりと笑ったまま春原の方に手を置き、

「いや、人の彼女のパンツ取る気か?」

 ぎゅっと力を込めた。

 春原は顔を引きつらせながら、

「そ、そうだね。それもそうだよね」

 うんうんと朋也はうなずいて、

「そうだ。そもそもあいつのパンツは全部俺のだから――」

「あたしのパンツは全部あたしのだっ!」

 と叫んで、部屋に入ってくるなり杏はお盆を持ったままヤクザキックを春原にかます──!

「……って、なんで僕……?」

 がくりと床に膝をつきながらもなんとか抗議する春原。

 杏はぎろりと二人を睨み付けて、

「ったく、あんたらは〜」

 冗談だって、と朋也は笑い、床に座り込んだ。杏は嘆息して、

「はいお茶。氷沢山いれといたわよ」

 といって、手に持っていたお盆から朋也に麦茶の入ったコップを渡す。

「僕のがないのはもうデフォなんだね……」

 ふ、と遠くを眺めながら、春原。

「なに言ってんのよ。ちゃんとあるわよ」

 言って今日は、お盆からひとつのコップを春原に渡した。白い液体がそこには入っていた。

「はい、残さず飲んでね?」

「……これ、なんですか?」

「どろり濃厚白ジャムジュース?」

「色々混ざってるっすよねえっ! しかも危険なもんばっかり!」

「きちっと全部のみなさいよね?」

 満面の笑みで杏は死刑宣告をする。朋也は、真っ青になっている春原の方にぽんと手を置いて、

「安心しろ」

「へ?」

 半泣きになりながら聞き返す春原。

「芽衣ちゃんにはちゃんと遺骨はおくってやるから」

「死ぬの前提っすか!?」

「まあまあ、ともかく……」

 わめき散らす春原のみぞおちに肘を入れつつ、杏はコップを手にすると、

「さっさと、飲めーっ!」

 春原の口にコップごと、ねじこんだ。

「むがっ!?」

 杏がコップを、朋也が両肩を押さえつけているために、逃げることも抵抗することもかなわず、春原はただそれを飲み干していく……

 …………ごくん。

 最後の一滴を喉に流し込んだのを確認すると、杏はコップを引っこ抜いた。ぽん、と間の抜けた音がしてコップが取れ、

 ばたん。

 白目を剥いた春原が床に崩れ落ちた。

「…………えーと」

 さすがにここまでの事態は想定していなかったのか、戸惑ったような声をあげる杏。

「……ああ、だめだな、こりゃ」

 さらりと告げる朋也。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 そして。

 しばらくの沈黙の後、すっくと杏は立ち上がった。本棚に近寄り、くるりと朋也に振り返りながら、

「あ、ねえ朋也、アルバム見るー?」

「お、みたいみたい」

 ごく普通に朋也は頷いた。春原のことはなかったことにするらしかった。

「んんと、じゃあこれなんかどうかな?」

 杏はアルバムの中の一つを引き抜き、床に広げる。

「うわ、ちっちゃいなあー」

「そりゃそうよ。だって小学生だもん」

「お、ってか杏、お前これっておもらしなんじゃ」

「ってばか、なんでそんなの見つけるのよ!」

「いいだろ。お、こっちのは涼と写ってるやつだな」

「あ、うん。かわいいでしょ?」

「まあな」

「────」

「────」

「…………」

「……」

 そして。

 今や楽しげな会話が繰り広げる部屋の隅で、春原はぽつりと呟く……

「……僕は、無視っすか…………?」








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