「失礼しますわね」
と言いつつ凛のアパートメントに現れたのは、ふわふわの金髪を下ろした豪奢な美女だった。白のスカートに若草色の薄手のコートを合わせている。落ち着いた物腰と優雅な仕草からは気品すら漂っているようだ。もし街中を歩けば男性と言う男性が振り向くのではないか──それほどの美人だった。そして。
「ごめん誰だっけ。」
対して凛はパジャマ姿のままうどんをすすりながら(食事の途中だった)悪びれることなく尋ねた。
彼女はひくりと頬を引きつらせたあと、『だんっ!』と机を叩いた。
「私です!」
「…………? ってあールヴィアか。うん、ごめん本気わからないわそのコスプレ」
っていうかむしろ普段がコスプレよね、と凛は朗らかに笑った。
「どういう意味ですミストオサカ。……それにしても全く失礼な。髪型と服装を変えただけでしょうに……!」
ぶつぶつと呟きつつルヴィアが椅子に腰掛ける。凛は半眼で唸った。
「……いやそれが致命的なんだって。んで、その格好どうしたの? テレビの占いでも見た?」
ルヴィアはふっと口の端を持ち上げつつ、髪をかき上げた。
「イメチェンですわ。下々の世界の流行とやらを取り入れてみたのです。どうです?」
「────なんてサイアク。見損なったわ」
凛の言葉に迷いはなかった。吐き捨てるかのようなその一言とともに、視線を落とす。あとイメチェンとかって死語よね、と呟いているのだが。
「な──!?」
ショックを受けたのか、ルヴィアは硬直している。
凛はありえない、と呟きながらかぶりを振ってみせた。
「だってそうでしょ。イメチェン? は、何よそれ。ルヴィア──アンタの縦ロールとフリフリドレスにかける意気込みはその程度だったのね?」
ぐぐっ、と拳を握り締め、そして凛はがあーと吼える。
「例えありえないとかクロワッサンとか馬鹿とか言われても自分が決めた信念はどんなことがあってもそれを貫く、それがポリシーってもんでしょう──!?」
「そ──そう、ですわね……」
きゅ、と唇を噛み締める音。
そしてルヴィアはがばっと顔をあげると、
「ミストオサカ、私が間違ってましたわ! 一時の気の迷いで揺らぐなど、そんなことはあってはなりませんわね!」
「わかればいいのよわかれば」
うんうんと鷹揚に頷く凛をよそに、ルヴィアは踵を返して部屋から出て行く……
「では早速元にもどしてまいりますわー!」
「よしよし」
言いつつ、ちゅるん、と最後の一本を食べる。
「まあでも、一番の理由はあれよねー」
くるくると箸を回しながら、凛はぼやいた。
「キャラ、立ってないもんね」
完。