カレイド兄弟
「突然ですが機能が変更になりました!」
『ばばーん!』という背景を背負いつつそんなことをのたまったのは、カレイドステッキだった。
「……え、なんで?」
衛宮邸・居間。テレビを見ていた士郎は頬杖をついたまま、半眼で呻く。
対してステッキの答えは明瞭だった。
「え? いや特に理由なんてないですよ?」
「えー」
げんなりとしたぼやき声を発したのは、疲れたような表情を浮かべている凛。
「そんなことで簡単に変えれるものなのかね……?」
部屋の隅で腕を組んで目を閉じていたアーチャーが、頬に一筋の汗を垂らして呻いた。
現在居間にいるのは、この三人と、桜である。
「あはー、わかってませんねー」
ステッキはぐいむ、とふんぞり返ると、
「物事は金とノリと権力でなんとかなるもんなんですよー?」
言い切った。
『…………』
士郎たちは最早何も言う気にもならないのか、ぼんやりとそんなステッキを眺めている。
「……それで、どう変更になったんですか?」
桜が恐る恐る尋ねると、ステッキはやたらテンションの高い口調で、
「はい、今までは女性限定だったわけですが、なんと今回からは男性限定となったのですっ!」
「ふーん」
かけらも気乗りのしない口調で凛は呟いた。が、『ぴーん』と何か閃いたのか、やおら『にやぁっ』と口を歪ませ、笑う。そして。
「じゃあそうね、試してみるのも悪くないわ──ねっ!」
言いつつ凛は近くにあった本を開き、挟むようにして素早くステッキを掴み取った。そしてその勢いのまま、背後へと振り返る。
「む?」
その先にいるのは、アーチャー。
そして凛は、迷わずそのステッキを──
「ッどりゃあああっ!」
がづんっ!
気合と共に、アーチャーへと叩きつける!
「ぐぶっ!?」
顔面にステッキをめり込ませ、アーチャーが悲鳴をあげる。彼はぼたぼたと鼻血を垂らしながらもステッキを顔から引き剥がし、抗議の声をあげようとして──
「あ……」
士郎が顔を引きつらせる。
そして。『ぽむっ!』と煙がアーチャーを包み込んだかと思うと、次の瞬間には、
「魔法男子カレイドアーチャー、爆・誕!」
……カレイドルビーのコスチュームに身を包んだアーチャ−の姿があった。無論のことスカート着用である。
『うわあ。』
その場にいる全員が呻いた。勿論ステッキもである。
「……なんかあれね。まだわたし達だったらぎりぎりどこかでセーフな部分あるけど、もうこれはどう考えてもアウトよねえ」
凛が眉を潜めて唸る。
「ひどいです。お爺さま並にひどいです」
がくぶると震えつつふるふると首を振る桜。
「いやだ……こんな俺、いやだ……」
がっくりとうな垂れている士郎──
「と言うわけで、世界の皆を(逆に)ハッピーにさせちゃいましょう!」
「うむっ!」
勢いよく頷くカレイドアーチャー。
凛はぷるぷると身を震わせながら、
「やめて。お願いだからその格好でそれやめて……」
「って、せめてアンタ、スネ毛はなんとかしろよなー!?」
凛と士郎が喚いていると、ステッキがふいに、
「もう、さっきからやかましいひとですねー。そんな困ったちゃんには──えいっ!」
ぼうんっ。
士郎が煙に包まれた。
そして。
「魔法男子カレイドシロウ、ここに降臨!」
次の瞬間には、士郎もまたアーチャ−と同じ格好になっていた。
「せんぱいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」
「あはははははははははははっ!?」
叫ぶ桜。笑う凛。そして二人のカレイド男は『きゅっ』と手をつなぐと、
『ふたりそろって!』
叫びつつ空いているもう片方の手を伸ばし、
『カレイドブラザース!』
そして各自思い思いのポージングをして、びしりと決める。恐らく女性がやればそれなりに決まるであろう格好を。
『…………………………………………。』
沈黙。凛と桜はうろんな眼差しでアーチャーと士郎、もといカレイドブラザーズを見つめたまま黙りこくっている……が。
「ちょっといいですか」
しゅびっ、と手を挙げたのは凛だった。
「うむ、なんだね?」
やたらにこやかなスマイルを浮かべつつ、アーチャ−。
「二人の関係は──なんですか?」
ぎらり、と目を光らせて、凛。
「血の繋がらない兄弟です。でも実は本当の兄弟です。カレイドアーチャーはそのことを父親の日記から偶然知っていまい、苦悩したり悶絶したり夜這している最中です。」
カレイドシロウもまたさらっと即答した。
「……………。」
「……………。」
凛と桜の二人は何やらぼそぼそと話し合っていたが、やがてこくりと頷くと、
「よし、赦す。」
そう言って鷹揚に頷いた。
「ありがとう。」
こくり、とカレイドブラザーズは破顔した。
そしてカレイドアーチャーは斜め45度上を見つめて、
「と言う訳で、私たちは悪を倒しに行く! ではさらばだ! いくぞカレイドシロウ!」
「ああ!」
きりっと真っ直ぐな目をして、カレイドシロウもまた頷き、居間から出て行く……
「世界の平和は!」
「俺たちが守るんだー!」
何やら玄関口でそんなことを騒ぎつつ、二人は出て行った。
あの格好で、街中へ。
「がんばってねー」
ひらひらと手を振りつつ、凛が適当に言う。
「さて、と……」
ぱん、と手を打ちつつにこやかに凛は桜へと振り向き、
「この家、出よっか」
「そですね。関係者と思われるのもなんですし。」
完。