仮面ライダー
衛宮邸、居間──。
「あー、なんかだるいわね。おもしろいこととかなんか起こらないかしら」
机に顎をのせてぐでっとした体勢で凛が呟いた。
隣に座ったイリヤはテレビを見たまま反応しない。
士郎はキッチンで夕飯の準備をしていた。
「そうですねえ」
みかんと食べながら向かいに座った桜がぼんやりと呟く。と──
ばんっ!
唐突に襖が開いた。
「かめーん、らい、だー!」
びしりとポーズを取って、何一つ間違いなど無いというように叫んだのはライダーだった。何故かパピヨンマスクをつけており、そしてさらにそのうえにいつもの眼鏡をかけていた。
「…………」
「…………」
居間は一瞬にして静寂に包まれた。が。
「くそう、あらわれたか仮面ライダー!」
そう言うとがばりと立ち上がり、凛がくっと悔しそうに歯噛みした。
「のりのりっ!?」
思わず桜が呻いている。凛は気にせず口上を続けた。
「しかーし、今日という今日をこのわたしの手で貴様をたおげぼっ!?」
一足飛びに近寄ったライダーのボディーブローによって、せりふが途切れる。
「え、えげつない……」
うわあ、とこっそりイリヤが呻いている。
「や……やるわね仮面ライダー。ふ――」
ぐいっと口の端を手の甲で拭い、凛がシニカルな笑みを浮かべる。そして拳を握り締めると、
「おらあっ!」
「先輩、一応メインヒロインですから『おらあ』はちょっと」
「おんどりゃああ!」
「悪化です!」
桜の言葉には耳を貸さず、凛がとびかかる。だが。
「あまいですね」
ひらりと凛の攻撃をかわすと、ライダーは机の上にすたっと降り立った。そして再びとびかかる!
「ライダーパンチ!」
ごすっ──
「ライダーキック!」
がっ──
「ライダー」
そこで言葉を区切り、ライダーは瞬時に黒のボンテージ服へと武装完了。同時に出現したペガサスにまたがり、
「ベルレフォーン!」
光の渦が、居間を突っ切る!
『えー!?』
あまりと言えばあまりな攻撃に、桜とイリヤが叫んでいる。
どしゃあっ──!
ぼろぼろになって床に叩きつけられる凛。が、彼女はそれでも息も絶え絶えになりながらも顔を起こして、
「やられた……さすがね、仮面ライダー」
そして次の瞬間、口の端をにやりと歪めて、
「しかし、わたしを倒してもまたすぐに次のかいじげぺっ!?」
言葉の最後のほうは、踏みつけられていまいち何を言っているのかがわからなかったが。
「あああああ。色々問題ある発言があああ」
桜が頭を抱えて唸っている。
凛はげぶあと血を吐きながら、
「あ………あとは、たのむ……イリヤンマ……」
「それ名前なのっ!?」
「ださいですよ!」
そしてがくりと力尽きる凛。
すっ──
言葉もなくただ静かにイリヤへと向き直るライダー。
「えええええーとえーと」
おろおろとイリヤは凛とライダーを見比べていたが、やがてがばりと両手を上に突き出すと、
「わたしはイリヤンマー!」
そして即座に桜のほうに振り向いて、
「しかーし、わたしの本当の正体はサクランデル2世リピュア!」
「わたしっ!?」
愕然として聞き返す桜。
頬に一筋の汗を垂らしながらもイリヤははっはっはと笑ってみせながら、
「というわけで、わたしは家にかえって妻とにゃんにゃんするので失敬する! じゃ!」
言ってもぞもぞと机の下に潜って、はふうと満足げに額の汗を拭う。
桜は呆然としていたが、やがてそれでもすっくと立ち上がった。右斜め上を見つめながら、感慨深げに呟く。
「ふふふ……とうとうこの日が来るとはね……」
「あ、のりのりね」
「みたいねー」
机の下から観戦していたイリヤと死んだふりをしている凛が呟いている。
桜はすっとライダーに向き直ると、ずびしと指を突きつけた。
「わたしの手で楽にしてあげるのがせめてもの情け……仮面ライダー、貴女を倒しましょう」
桜の言葉にかぶりを振り、ライダーがポージングしながら叫ぶ。
「わたしは悪にはまけない! 絶対にだ!」
「よく言ったわ。それならわたしも手加減はしないわよ──!?」
桜もまた薄ら笑い。ぎらりと目を輝かせ、その手を握り締め──
「はああああああああああああ――」
「おおおおおおおおおおおおおっ!」
そして。
「いくぞ、悪い奴!」
「勝負よ仮面ライダー!」
「おーいめしできたぞー」
キッチンから士郎が顔を出した。
『はーーい』
死んでいた凛とイリヤも含めて全員が振り返り、元気よく返事をする──.。
完。