Fate/Kaleid liner
プリズマ☆イリヤ 2ヴぁい! (偽)







穂群原学園2C組の朝のホームルームはいつも決まった時刻に開始される。

この日も葛木宗一郎はいつもと全く同じ時刻に教室の扉を開け、いつもと同じ文言を発した。簡単な諸注意を済ませ、いつものようにホームルームは終了する──

──はずだった。

「──以上だ。……それと、本日は転校生を紹介する。──入れ」

 

 がらっ──

 

 葛木の言葉と共に、教室の前の扉が開き、二人の学生が姿を現す──

 瞬間、教室がどよめいた。

 入ってきた学生は、二人とも女性だった。

 一人は黒髪をツインテールにした、やや切れ長の瞳の少女。恐ろしいほどに整った顔立ちは、今はやや引き攣っているようだ。

 もう一人は、金髪を縦ロールにした、こちらも切れ長の瞳の少女。何故か少しばかり疲れたような表情だが、それでもその美貌は群を抜いていると言えるだろう。

「と……遠坂凛です」

 黒髪の少女はそう言って軽く頭を下げる。

「……ルヴィアゼリッタ=エーデルフェルトですわ」

 金髪の少女はそう呟いて僅かに目を伏せる。

『よろしくお願いします』

 二人揃って、そう告げる。

 教室のどよめきが一層強くなる中、葛木は気にする様子もなく、

「では二人の席は一番後ろの空いている席とする。右が遠坂、左がエーデルフェルトだ。質問事項については空き時間を利用するように──」

 淡々と説明をする葛木の言葉を他所に、凛は小さく呟いていた。

「……何で、こんなことになったんだろ……」

 

 

 

 時刻は昨日の夜まで遡る──

「ど……、どう言うことですのっ?!」

 冬樹の町にある喫茶の一角に、悲鳴にも似た叫び声がひびいた。

 声を荒らげて迫るのは、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。青い豪奢なドレスを着こなした金髪の美少女である。

「知らないわよ! でもなんか大師父がそう言ったんだから、そうするしかないでしょ!?」

 隣の席に座った黒髪の少女──遠坂凛もまた、負けじと声を張り上げている。

「〜〜〜〜〜っ!」

 口惜しそうに目の端に涙すら浮かべ、ルヴィアは凛を睨みつける。が。

「……そう、ですわね……」

 やがて、がっくりと肩を落として呟いた。

「え、えっと──」

 申し訳なさそうにそろそろと口をはさんだのは、二人の向かいの席に座ったイリヤだった。

「つまり、二人ともしばらく日本に滞在するってこと……?」

「そう言うことね。遺憾だけど」

 むう、と唸り腕を組む凛。

「そう……」

 いくらかほっとしたような声を出したのは、イリヤの隣の席に座った美遊。

 はい、と小さく片手を挙げて、イリヤ。

「滞在って……え? 滞在してなにするの?」

「んー」

 唇に人差し指を当て、凛はしばし考えてから、肩をすくめてみせた。

「まあ、こっちにいても魔術の研究は出来るしね。設備とかは整えないといけないけど」

「何より、大師父に逆らうと、後が怖いですしね……」

 引き攣った顔で、ルヴィアが続ける。

「……そうね」

 凛もまた溜息まじりに頷いた。

 と──

「あはー、駄目ですよお二人とも。言われたでしょう? 日本では魔術の勉強以前に、一般常識を学ぶんです」

 ふいに、机から声が発せられた。正確には机の上に置かれた、黄色の五紡星と白の翼を模した意匠の凝らされたアクセサリーのようなものからだった。

「……なんか一番常識について言われたくないヤツに言われたわね」

 ジト目で凛はソイツ──ルビーを見下ろした。

「全くですわね。そもそも存在自体が非常識でしょうに」

 くっ、と口惜しそうに呻くルヴィア。

「しかし事実です」

 冷静に告げたのは、六紡星と紺色のリボンをあしらったモノからである。

 ──言うまでもなく、彼女たちは人間ではない。カレイドステッキと呼ばれる愉快型魔術礼装に宿った人工精霊だ。(ステッキ)と言う名称がついているものの、現在は柄すらないただの喋る迷惑アイテムとなり果てているが、これは携帯モードに変化している為であり、必要に応じて本来の姿を取ることが出来る。

 ルビーはぴこぴこと羽を動かしてみせながら、

「時計塔のようにただ漫然と魔術の研究をしていたのでは、一般常識など到底身につきませんよ。もっと社会を知るためには社会に適合しなくてはいけないのです」

「……まあその理屈はわかるけどね。いくらなんでもわたしだってあの生活が普通だとは思ってな──」

「と言うわけで、さっそくですが」

 ルビーはきっぱりと凛の話を聞くそぶりもなく割り込んだ。

「……ほんっと人の話を聞かないわよねアンタ」

 凛はジト目でルビーを見下ろした。

「あはー、気のせいですよー」

 平然と言い切り、ルビーはふわりと浮きあがる。

「まあ、と言う訳でですね。大師父の意向も汲み取りつつどうすれば面白おかしくこの一年間を過ごせるかサファイヤちゃんと話し合った結果!」

「今面白おかしくとか言ったか。」

 ジト目で唸る凛の言葉を聞き流し、こほんという咳ばらい──する必要性はどう考えてもないのだが──をしてから、『ばばーん!』という効果音を背負い、ソレは断言する──

「お二人には、さっそく明日から学校へ通ってもらいます!」

 そして。

『………は?』

 と言う、凛とルヴィア(ふたり)の果てしなく嫌そうな声がハモッた。






「まったく、どうしてこうなるんだか……!」

 とんとんと机を指で叩き、凛は息を吐き捨てる。

「全くですわ」

 はあ、とうんざりしたような溜息。ちらりと視線を動かせば、そこにはちらちらと遠巻きに自分たちを見ているクラスメイトたちがいる。どうやら皆、気おくれして声をかけるのをためらっているようだ──いや。

「や、やあ君たち。僕は間桐伸二って言うんだけどさ」

 クラスメイトの輪の中から一人の男が進み出てきて、髪などかきあげつつそう告げてきた。

「でもどうする? まさか本気で学生やらなきゃいけないの?」

「……何らかの監視が付いている可能性もありますわね。しばらくは様子見をするしかないでしょう」

 凛とルヴィアはきっぱりと無視して話を続けた。

「……。二人はその、知り合いなんだ?」

「にしてもアンタその制服、破滅的なまでに似合ってないわよね」

「なっ──ふ、ふん。庶民の着る服など似合ってなどいては困りますわ!」

「…………。よ、よかったら僕が学園を案内して──」

「……さい」

 凛が俯き、静かに告げる。

 伸二はにやけた表情で聞き返す。

「え? 何?」 

「っうるさいワカメ!」

 そしてとうとう我慢しきれなくなった凛が『があー!』と叫んで伸二の顔面に拳を叩きこむ!

「あぐぷっ!?」

 

 

 

「うーん」

 うわあ、と顔をひきつらせて、イリヤは呻いた。彼女の通う小学校の教室の中──机の下にこっそりと忍ばせたルビーは今、モニターとなり、凛たち二人のいる教室の様子を映し出している。24秘密機能(シークレットデバイス)のうちの一つとのことだが。

「さっそく目立ちまくってますねえ」

 のほほんと呟くルビーに、イリヤもまた同意する。画面の奥では凛が伸二に罵声を浴びせているところだった。

「そうだねー」

 あはは、と半笑いのイリヤ。

「でもまあ面白くなりそうですし、これはこれで!」

「……確信犯だよね?」

「あはー、当たり前です。何のためにあの教室の生徒になるように裏工作したと思ってるんですか」

「うん、そんなことまでやってたんだ」

 ぐいむ、と胸(らしき箇所)を張るルビー。半眼で呻くイリヤ。

 と、そこまで呟いてイリヤは首をかしげた。

「あれ? あの教室って、何かあるの?」

「あはー、イリヤさんともあろう人が何を言ってるんですか。あの教室は──」

 

 

 

「な、なななな殴ったな!? おじい様にもぶたれたことなかったのに!」

「あ、すいません。ついうっかり」

 だくだくと鼻から下を鮮血に染める伸二に、凛はあくまでも優雅に微笑みかける。手に付いた血をぴっと払いのけながら。

「ついってレベルの衝撃じゃないだろ!? 見ろよ、鼻血がノンストップだ!」

「あら、お似合いですよ?」

「嬉しくないし!?」

 微笑のような嘲笑を浮かべるルヴィアに伸二が食ってかかる。

「な、なあ。転校生ってさ──」

「ひょっとして、何かとんでもないんじゃ──」

 教室の中では、何やらひそひそ話が始まっている。気配を敏感に察知した凛は眉をひそめた。

「……ちっ。さすがにグーはまずかったか」

「いえ、グーとかそう言う問題じゃないかと」

 こっそりと映像を送り続けているサファイヤが机の影から呟いているが。

「……リン、とりあえず席を外しましょう。まだ授業開始までは少し時間があるのでしょう? 少し今後の対策を話し合った方がいんじゃありませんこと?」

「そ、そうね」

頷いて凛はルヴィアに続いて立ち上がり、そそくさとドアから出ようとする。開けっ放しになっていた扉をくぐり──

「うわっ!?」

 その時、ちょうど中へ入ろうとしていた男子生徒と鉢合わせになった。

 男は慌てて後ろに下がろうと身をひねる。そして。

 がっ──

 唐突に、凛が何もない所で足を引っかけ、体制を崩した。

「ちょっ──」

 慌てて隣にいたルヴィアの服の裾をつかむ。それに引っ張られる形でルヴィアもまた倒れこむ。そして──

 どすんっ……

「も、もが……」

 男子生徒──衛宮士郎の声は、凛たちの下から聞こえていた。

「全く、何です……の…………?」

 ルヴィアの声が、小さく萎んでいく。

「ご、ごめんルヴィ、ア…………?」

 凛もまた、絶句する。

 ──どこをどう転倒すれば、そうなると言うのか。

 ──士郎は、二人の下敷きになって倒れていた。

 ──ルヴィアが士郎の股ぐらに、そして凛が士郎の顔の上に、座り込んでいる体勢で。

『ひっ……』

 空気が収縮し──

『きゃあああああああああっ!?』

 二つの絶叫が、学園を包み込んだ──。

 

 

 

「うわ、何か凄いことになってますねえ。朴念仁とは仮の姿、その真の力は女殺しですね?」

「うう、お兄ちゃん……。そっかあ、一緒のクラスなんだね……」

 むっはー、とやたら嬉しそうなルビーを尻目に、イリヤはしくしくと涙を流す。

「ふ──うふふふ、予想通りです、これは面白いことになりそうですね……!」

「ああ、もう……」

と、ふいに背後から影が差しこんだ。

「イリヤ? なにしてるの?」

 そこにいたのは美遊だった。イリヤはあはは、と引き攣った笑みをうかべながら、ほら、とルビーを見せた。

「え、ああ、リンさんたちの様子を盗み見してたんだけど」

「……だめ」

 美遊がぼそりとつぶやいた。

「え……?」

 聞き返すイリヤに、美遊はずいっと迫って、

「イリヤはわたしだけ見てればいいの。」

「いやだから重いよ!? 友達とかのレベルじゃないよそれ!?」

 たまらず叫ぶイリヤ。と、そこにクラスメイトが近づいてくる。

「よーうなんだ、何の話してるんだ?」

「あなたには関係ない。離れて。触らないで」

 容赦の欠片もなくきっぱりと言い切る美遊の言葉に、彼女の表情がみるみる内にゆがみ、そして。

「お……おぎゃあああ!」

「い──いかんタッツンがまたマジ泣きだ!」

「こらあ、何やってるのあんた達―!」

 騒ぎを聞きつけた大河が慌てて教室に飛び込んでくる──。

「ああああ………」

 イリヤは頭を抱えて、ただ呻き続けていた……

 

 

 

「あー、何か疲れた……」

放課後。やたらげっそりとした表情のイリヤは溜息を付きつつげた箱を開けた。

「……ん?」

 見慣れない物がそこに入っている。白い紙──いや、手紙のようだ。

「……今度は何なんだろう……」

 ラブレターかもしれない、という発想は最早ないらしい。げんなりした表情でイリヤは紙を開いた。

『放課後迎えに行くので、校門前で待つべし』

 と言う文言が、やたら角ばった字体で記載してある。

「ふうむ、しかし一体いつこれを忍ばせたんでしょうねえ……お二人とも授業を受けていたはずなんですが……」

「うん、きっと深く考えたら負けなんだよ……」

 あははは、と投げやりに笑い、靴を履き替え外へと出る。と──

「あ、来た来た」

 聞きなれた声に顔をあげると、そこには凛の姿があった。

「あれ、凛さん?」

「お疲れ様。どうやらわたしの方が早かったみたいね。こんなことなら手紙入れなくてもよかったか」

 ひらひらと手を振る凛の元に近寄り、ぺこりと頭を下げる。見れば、いるのは凛一人だけのようだった。

「あれ、ルヴィアさんはいないの?」

「何であいつの名前が出てくるのよ。言っておくけどいつも一緒にいるわけじゃないんだからね。──まあいいわ、じゃあ帰りながら話すから、とりあえず行きましょうか」

「う、うん……」

 二人して道路を歩きつつ、それで──とイリヤは口を開いた。

「何かあったの? まさか初日早々退学処分になったとか」

「あっはっは。アンタわたしをどういう目で見てるのよ?」

「いえ別に」

 さっと視線を逸らすイリヤに、凛は気楽に笑ってみせながら、

「特に問題ないわよ。まあちょっとしたハプニングはあったけど、それ以外はなーんも」

「そ、そうなんだ……」

 ルビーを通して今日一日の二人の様子を見ていたイリヤとしては、曖昧に笑う他ない。

“駄目だこの二人……早くなんとかしないと”──それが二人の学園生活の感想だった。

 まず、早朝に二人の男子生徒に多大なダメージを負わせた。

 一時間目の英語では、(ワタクシ)には必要ありませんわね、とルヴィアが早々にボイコット。

 続く二時間目の体育の長距離走では、二人のデットヒートの後、結局決着がつかずに肉体言語で語り合った。

 さらに三時間目の数学の小テストでは、テストの必要性と問題文の中の誤字を追求し、教員を逃げ出させた──などなど。

(うん、まあ、賑やかだったよね……)

 ははははは、と半笑いを浮かべて、ぼんやりと空を眺める。──逃げ出したい。

「ああ、それでイリヤ?」

「ひゃいっ!?」

「……? 何変な声出してるのよ」

 眉をひそめる凛にぶんぶかと首を振って見せて、

「う、ううん別に。それで、何?」

「ん、いや大したことじゃないんだけどね。ほら、一年間こっちに留まることになったじゃない? それでまあ急いで話しておかないとといけないことがあってね」

「ま……また何か事件が……?」

 恐る恐る聞き返すと、そうじゃなくって、と凛は前置きしてから、

「──わたし、アンタの家にとまるから」

 ──そう、きっぱりと言い放った。

「………………は?」

 思わず目を点にして聞き返す。

「だってしょうがないじゃない。わたしとしてはルヴィアの家から通うつもりだったんだけど──『ただでさえ学園生活まで一緒だと言うのに、私生活まで同じ家なんてまっぴらごめんですわ!』なんて言って拒否してくるんだもの。だから泊めて。いいわよね?」

「えー!?」

 イリヤの絶叫を聞き流しつつ凛は足を進める。角を曲がればイリヤの家はすぐそこだ。

「とりあえずそろそろ荷物も届くはず……あ、来てる来てる」

 見れば、家の前に大型トラック──引っ越し業者だ──が停まっており、ダンボールをいくつも降ろしはじめていた。

「事後承諾だし!?」

「あ、イリヤさん、これは一体」

 玄関前で困ったように立ち尽くしていたセラが、ほっとしたように顔をゆるめた。

「いや、わたしもびっくりの連続でいまいち事態についていけてないんだけど。この人が家に泊めて欲しいって言ってるんだけど……駄目だよね?」

 むしろ断って欲しいんだけど、と言うオーラを全力で放出しつつ、イリヤが尋ねる。が、セラは戸惑いを隠せないまま、すっとポケットから一枚の手紙を取り出して見せた。

「そ、それが……今朝がた奥様からこのような手紙が届きまして……なんでもお嬢様のお知り合いの方が尋ねるかもしれないから、その時は便宜を図って欲しいと……」

「えー!?」

 たまらず叫ぶ。と、イリヤは『はっ!』と何かに気づき、鞄の中を睨みつけた。

「あはー、先手必勝、こっちの方が面白くなりそうですからねー」

「…………………やっぱりか……」

 しくしくと涙しつつ、がっくりと肩を落とす。

 と、ずいっと凛が前に出て、普段からは想像もつかないように行儀よく微笑んでみせていた。

「はじめまして、イリヤさんのお姉さんですか? わたし、遠坂凛と申しまして、今日からこちらの家でお世話に──」

「って決まってない、まだ決まってないよ!? 」

「ああもう、うるさいですわね! レディの屋敷の前で騒がないでくれませんこと!?」

 と、向いの屋敷の扉が『ばんっ!』と開き、ルヴィアゼリッタが顔を出した。その後ろからはメイド姿の美遊の姿もある。

「って、ルヴィア!? それに美遊も──」

 ずがーん、と衝撃を受けたように凛が叫ぶ。あーそうか、と思いつき、イリヤは解説した。

「えーと、ちなみに向いはルヴィアさんの屋敷です」

「何ぃぃぃぃっ!?」

「ただいまー、ってイリヤ、これって一体何の騒ぎ──」

 と、背後から士郎が自転車に乗って帰ってきた。その姿を見つけた凛が、ずびしと指をつきつける。

「ってアンタ、今朝の変態男!」

 凛がくわっと目を開く。士郎はわたわたと手を振って弁解する。

「ちっ、違う! あれはれっきとした事故で!」

 が、凛は聞く耳持たないとばかりに腕を組んでぷいとそっぽを向いた。

「どうだかね……! 大体なんでこんな所にいるのよ! どうせわたし達の後をつけてきて──」

「ってなんでそうなるんだ!? 俺ん家だぞここ!」

「え?」

 ぽかんと口を開けている凛の服の裾を引っ張り、イリヤは彼女を見上げる。

「えっとね」

 言いつつ、士郎の隣に近寄って、片手を差し出してみえる。

「わたしのお兄ちゃんです」

「え!?」

「イリヤの兄です」

「えー!?」

 頭を抱える凛。が、それでもすぐに立ち直ったのか、『ぎゅんっ!』と一瞬でイリヤの元へと近寄りこそこそと耳打ちする。

「ちょ、ちょっとどう言うことよこれっ!?」

「ど、どう言うことって言われても!?」

 と、今度はルヴィアが、があーと叫び声をあげる。

「そうですわ! この変態が向かいの家に住んでいるなどと──」

「向かい!? ってことはあの豪邸ルヴィアゼリッタさんの家!? い、イリヤ? これは一体どうなって──」

 叫んで士郎がイリヤへと手を伸ばす──が。

「イリヤに触らないで。近寄らないで。会話しないで」

 その直前でぴしゃりと美遊に手をはたかれた。

「兄なんだけど俺!?」

「あの、イリヤさん、これは一体どうなって──」

「大体アンタが大人しく泊めてくれれば──」

「は、何をのたまっているんだか! この敷地内に貴女に貸すスペースなど──」

「凛さんの代わりに私がイリヤと泊まる──」

 最早収集がつかない騒ぎをぼんやりと眺めながら、イリヤは思う──

 

わたしの直観はこの上なくはっきりと告げていた──

とんでもなく面倒な事態になったと言うことに──。


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