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後後後後後後後後後日談。

 

 

 

 

 

 

1.

 

 昼すぎ、衛宮邸──

 半分以上夢見心地のままぼんやりとテレビを見ていた士郎は、唐突に鳴り響いた電話の音ではっと覚醒した。慌てて周囲を見渡すと、セイバーは机に突っ伏して静かに寝息を立てている。カレンとバゼットは起きてはいるが、電話に出る気はないようだった。ちらりと士郎を見て、意味ありげに眉を上げ──、再び視線をテレビへと戻している。

 嘆息にほど近い吐息とともに立ち上がり、廊下へと向かう。のろのろとした足取りのまま受話器を取り、息を吸い込んだ。

「はい、衛宮です──」

『あ、士郎?』

 飛び込んできた声は、聞き慣れたものだった。

「って、え、遠坂?」

『そう。うん、でもちょうどよかったわー。……いきなりだけど衛宮くん貴方、今って暇?』

「ん、まあ用事はないけどさ」

 ちらりと居間のほうを見て、苦笑混じりに告げる。

『そ。ならちょっと頼みがあるんだけど、いい?』

「珍しいな、遠坂が俺に頼みごとなんて」

 士郎がいうと、電話の奥の声は少しばかり焦ったような口調になった。

『う、そうかも。……うんまあ、ちょうどいいかなって思ってね。──で、まあとにかく士郎、ちょっとこっち来なさい』

「? こっちって遠坂の家か?」

『そう。今立て込んでいて──ってわけじゃないんだけど、一人じゃちょっと時間がかかってしょうがないのよ。で、暇なら来て欲しいんだけど』

「なんだ、要するに手伝いか」

 苦笑する士郎に、凛はくすくすと笑いながら、

『あら。何か期待でもしていたのかしら、衛宮くん……?』

「む、そういうわけじゃないけどさ。まあとにかくそっちにいけばいいんだな?」

『そう。──それじゃあ待ってるからね、士郎』

「わかった。すぐ行くからな」

 言って、士郎は受話器を置き──

「お出かけですか、シロウ」

 くるりと振り返ったそのすぐ先に、セイバーたち三人が立っていた。

「うわ!?」

 思わず後ずさる。さらには背後、廊下の奥からどうしたんですか先輩―? と桜までがひょっこりと顔を出していた。

「聞いてたのか、セイバー」 

 尋ねると、セイバーはえへんと胸を張り、そして腰に手を据えた。

「ええ、起きてしまいましたとも。つきましてはシロウ、何かつまむものが欲しいです」

「悪いセイバー、今からちょっと出かけるんだ。だから何か適当に食べててくれ」

 ごめんな、と手をかざす士郎に、セイバーはこくりと小首をかしげる。

「凛の家に行くのですよね?」

「え? ああ、そうだけど」

「そうですか」

 セイバーはにっこりと微笑んだ。

「え、先輩姉さんの家にいくんですか?」

 と、話を聞きつけたのか、桜が近寄ってくる。

 セイバーの後ろでは、カレンとバゼットがなにやらごにょごにょと耳打ちし合っている。

 そしてセイバーは両手を後ろで組むと、一歩近づき──微笑んだ。

「それなら──答えはもう、一つしかありませんよね?」

「……………そう、みたいだな…………」

 四人に囲まれたまま、士郎は顔を引きつらせて、そう呻いた──。





 

2.

 

「……で?」

 思わず零れ落ちた呻き声は、かなり引きつった顔の凛のものだった。

 遠坂邸、居間──

「うわあ、ここで先輩暮らしてるんですねー……」

 感激したようにきょろきょろと周囲を見渡しているのは桜。

「ふむ、これはまずいですね。食材がほとんどないではありませんか。む、このハムも賞味期限がぎりぎり……仕方ない、処理しましょう。──凛、塩と胡椒を」

 もぐもぐと口を動かしながら冷蔵庫を漁っているのは、セイバー。

「すみません凛さん、こんな所に埃が」

 と、窓枠をついっとなでていたカレンが埃の付着した人差し指を突き出している。

「なるほど、このソファーもなかなかの……ああ、これはいいですね」

 ソファーに深く座り、足を組んでいるのはバゼットだった。

 そして凛は全体を見渡し──嘆息した。ぎろりと隣に立つ士郎を睨み上げ、刺々しい口調で唸る。

「ど・う・し・て──、皆来てるのかしら衛宮くん……?」

「ま、待てっ。何で怒ってるんだ!?」

 たまらず距離を取ろうとする士郎の服を素早く摘まみ、すっと近づく。

「どうして。どうしてって言ったかしら」

 ぴきりと血管マークを浮かべ、凛はぐっと手に力を込める。

「な、なにさ」

 目を白黒させている士郎に、凛は不機嫌な表情を隠しもせず、口を尖らせた。

「わくわくざぶーん、行ったわよね」

「ん、ああ、行ったな」

 目をしばたいて、士郎は頷く。

「あの時、わたし、何て言ったっけ?」

 やたら断片的に、尋ねてくる。

「え」

 士郎は一瞬絶句してから、

「あ──」

 と呻き、ぽんと手を打った。

 遅いわよ、と呟きながら、凛はがっくりと頭を垂れる。

「……そう言うこと。衛宮くんだけを呼ぶつもりだったのに、何やってくれてるんだか、全くもう……」

 と、それを聞き咎めたのか、カレンがすっと近寄ってきた。なぜか目をきらりと光らせつつ、

「あら、逢引ですか?」

「ちがうっ!」 

「そうですか。それは残念」

 無表情のままそう零し、あっさりと下がるカレン。

「何なのよ……」

 疲れたように呻き、凛はかぶりを振った。

「はあ──まあ、来ちゃったもんは仕方ないけど。でも来たからには手伝ってもらうわよ」

「何をです」

 聞き返すバゼットに、凛はびっと指を立てて、

「掃除よ。元々士郎もそのつもりで呼んだんだしね。こっちに帰ってからやってなかったから、こうなったら徹底的にやっちゃうわよー?」

 覚悟しなさいよねあんたたち、と凛はにやりと笑う。

「さてバゼット、帰りますか」

「そうですね。休養と安息の日々が呼んでいます。働いたら負けです」

 すぐさま廊下へと向かおうとするカレンたちに向かって、凛はからかうように声を投げかける──

「逃げたら今日はご飯ないからねー?」

『…………………。』

 ぴたり、と二人の足が止める。

 キッチンにいるセイバーが、ぎょっとしたように凛のほうを振り返っていたりもするのだが。

「と言うわけだから、まあ手伝っていきなさい。暇つぶしに来たのが運のつきと思うのね」

 そして凛は不敵な笑みを浮かべながら、髪をかきあげた。

「さあ、と言うわけで、大掃除といきましょうか──?」

 そして──

 

 

 

 

 

 

3.

 

「ふうっ。──まあ、片付くことは片付くから、いいとしますかっ」

 ぱんぱんと両手をはたき、凛はそう呻いて額に浮かんでいた汗を拭った。彼女の私室である。さすがにそこまで散らかっているわけではないが、完璧に片付いているとも言い難い。今は本棚の整理をしていたのだが──。

「遠坂、キッチンは大体終わったぞー」

 と、半開きになっていたドアをこんこんと叩き、士郎がそっと中を覗き込んだ。

 凛は両手を腰に添えて、

「ありがと。じゃあちょっとこっち来て手伝って」

「ああ」

 手招きする凛に従い、士郎が部屋に入ってくる。と、思い出したように、あ、と凛が声をあげた。やや半眼になりながら、尋ねる。

「地下室には誰も入ってないでしょうね」

 士郎は苦笑した。

「ああ、それは大丈夫。さすがに皆どんな意味くらいかはわかってるみたいだったし」

「うん、まあそれならよし」

 ちなみにセイバーは居間の清掃、カレンはそれ以外の一階の清掃、バゼットは庭の手入れ。そして桜とライダーは凛の部屋以外の二階の清掃となっている。

 まいったもんよねー、と呻く凛に、そうだ、と士郎はポケットを焦り、中から一通の封筒を取り出した。エアメールである。

「あ、それからこれ。なんだか手紙来てたぞ」

「え──?」

 凛は一瞬目を見張るが、拳を口に当て、呻いた。

「あ、そっか。全然チェックしてなかったなあ……」

「エアメールってことは、ロンドンからじゃないのか?」

 士郎の言葉に凛はそうね、と頷きながら、差出人のところに目を通した。

「そうかも。えーっと……げ。」

 心底嫌そうな顔で、眉をしかめる。そして凛は、ふうと息を吐くと、素知らぬ顔でそれをスカートのポケットにねじ込んだ。

「ま、まあ後でいいわ」

 少しばかり顔が引きつっていたりする。

「いいのか……?」

 半眼で呻く士郎に、凛はふんとそっぽを向いて吐き捨てる。

「いいのよ。──どの道これが来たってことは……、そっか、タイムリミット、か……」

 最後のほうは、ほとんど独り言になっていた。

「え、何か行ったか?」

 聞き返す士郎に、凛はぱたぱたと手を振って、

「ん、なんでもない」

 言って彼女は目を泳がせた。

窓の外、晴れた空。階下からはセイバーたちの騒がしい声がくぐもって聞こえてきている。少し考えるような素振りを見せた後、彼女はくるりと士郎へと向き直った。

「──ねえ、士郎」

 手を後ろで組み、僅かに体を傾け、覗き込むようにして──凛は尋ねた。

「え?」

 目をしばたく士郎に、凛は苦笑じみた表情を浮かべると、少し視線をずらして、

「聞きたいことがあるんだけど、いい?」

「──何さ、そんなに改まって」

 しばしの逡巡。彼女は不満そうに口を閉じていたが、それでも決意がついたのか、息をすっと吸い込んだ。そして。

「……うん、ええと。こんな事言うのもなんだけど、衛宮くん。貴方、将来は──」

「──凛、大変です! バゼットが!」

 と、ばたばたと慌しい口調で飛び込んできたのはセイバーだった。手にはフルーツの缶詰が握られている。よほど慌てているのか、ぶんぶかと手を振り回している。と、その横から顔を真っ青にしたバゼットが入ってきた。その手には、なぜか木の枝が握られている。

彼女は俯いたまま、ぼそぼそと口を開いた。

「え、ええと凛さん? 落ち着いて聞いてください。何と言うか、その──すいません、つい力加減を誤ってしまいまして庭の木をへし折ってしまってですね……」

「え、でもその枝でしょ? 別にいいわよそのくらい」

 ぱたぱたと手を振る凛に、バゼットは枝をいじくりつつ、さらに視線を逸らして続ける。

「いえ、木そのものなのですが。」

「国に帰りなさい、ダメット?」

 あっははは、と笑いながら言い切る凛。

「い、いや今明らかに違う名前を言いましたよねっ!?」

 なにやら必死に叫んでいるバゼットに、凛は朗らかに笑いつつ、

「ん? もう何わけのわかんないこと言ってんのよダメットー」

「だからまたっ!?」

 あきらめきれない様子のバゼットの背中をぐいぐいと押し、凛は入り口へと向かう──。

「はいはい、いいからさっさと直しにいくわよ。ったくもう……」

「あああああああ、すいません……」

取り残された士郎は、困ったような表情を浮かべてちらりとセイバーを見た。それに気づいた彼女も、苦笑する──

「んじゃ、俺たちも行くか」

「そうですね──」

 二人もまた、部屋から出て行く。

 人が誰もいなくなり、途端部屋の中はしんと静まり返った。

階下からは、なにやら凛の叫んでいる声、バゼットのひたすら謝る声、セイバーのなだめる声が響いている……

そして──、うふふふ、という含み笑いもまた同時に聞こえ始めた。

「……誰も、いないよね……?」

 呟きと同時、ひょこっと扉の隙間から顔を出したのは──桜だった。彼女は素早く扉の隙間から滑り込むと、ふうと息を吐いた。

 その後ろには、妙に居心地悪そうにしたライダーの姿もある。

「ここが、姉さんの部屋かあ……」

 感慨深いものがあるのか、両手を組みながらしきりにきょろきょろと辺りを見渡している。

「……しかしサクラ、凛のいない隙に忍び込むと言うのは……」

 部屋に踏み込んだままじっと動かず、ライダーは告げる。

「え、何言ってるのライダー? 入ってきたらたまたま誰もいなかったんだよ?」

 桜は躊躇なく言い切った。

「……そう、ですか」

「さ、と言うわけで──」

 ぱん、と手を打ち、桜はいそいそと周囲を見渡した。やがて、本棚で目を止めると、迷いなく一冊の本──アルバムのようだ──を引き抜き、ぱらぱらと目を通していく……

「これは……、やって大丈夫なんでしょうか?」

 完全に身を引きながら、ライダー。

「え、なにが? ライダーやだなあ、わたしは掃除をしているだけじゃない」

 桜はまたもや言い切った。

「い、いえしかし掘りかえしているような──」

「うふふふふふ。だって姉さんのプライベートとか、気になるじゃない?」

 目を輝かせてアルバムをめくる桜に、ライダーはもうあきらめたのか、ただ嘆息を返した。と──

「──ふむ、随分と楽しそうなことをしていますね」

 唐突に、ライダーの背後から声が響いた。

「誰っ!?」

 『ばっ!』と慌てて振り返りつつ、さりげなくアルバムから手を離す桜。

「サクラ。何と言うか悪役みたいですよ」

 ぼそりと付け加えているライダーの声は桜には届いていないようだった。扉の奥、そこにいるのは──

「カ、カレンさんっ!?」

 カレン・オルテンシア。彼女はすばやく部屋の中に入ると、ライダーの横を通り、桜の傍までやってきた。放り捨てられたアルバムにちらりと視線を送ってから、

「……なるほど。家捜しですか。ここで弱みを握っておけば後々切り札として使えますね」

 言いつつ、両手を組み、祈るようなポーズを取る。

「あ、カレンさん、ひょっとして」

 ぱっと顔を輝かせる桜に、カレンは薄く笑った。

「はい、桜さん。ふふ──私、ぜひとも桜さんのお手伝いがしたいです」

「はいっ!」

 ぐぐっと拳を握り、桜が満面の笑顔を浮かべる。

 ライダーは深く嘆息すると、力なく肩を落とし、無言のまま部屋から出て行った。

 が、桜たちは気にした様子もなく、てきぱきと部屋を物色し始める……

「ではまずどこからいきましょう。やはり机ですか。机ですね。机しかないですよね」

 言って無造作に机に手を伸ばし、開けようとするカレン。一方桜はクローゼットをあけながら、

「はいっ。狙い目はアルバム、もしくは恥ずかしい写真ですね!」

 そう言い切る彼女の笑顔はこれいじょうあにくらい燦然と輝いてすらいた。

「あとは、そう……ポエムですか」

 『ふ……』と遠い目をしながら、カレン。

「なるほど。ポエムですか。それは痛いですねー……」

 何やら身に覚えでもあるのか、桜がしみじみと同意する。カレンはといえば、今度は宝箱を物色し始めていた。

が、わずかに眉をひそめた後、すぐに次の獲物へと取り掛かる……

「どう、何かあった?」

 という声に、カレンは、

「え? ええと、そうですね。まだ何も、大したものは……」

 と返した。

「いえ、特には。強いて言うならニーソックスくらいで……」

 そして桜もまた、そう返した。そう返事を返して──

『…………………………………。え?』

 たっぷり十秒ほど沈黙してから、桜とカレンの二人は『ばっ!』と振り返った。

「はあい?」

 ──ひらひらと、手を振っていた。

 扉の奥には──腰に片手を当ててにこやかな笑顔を浮かべている凛が立っていた。

 その横には、逃げろ桜逃げろ桜、と真っ黒な顔で呻いている士郎がいたりするのだが。

「……………え、ええと、あれ?」

 真っ青になりながら、だらだらと汗を垂らす桜。

「…………。」

 カレンはといえば、あきらめたのか、無言のまま胸の前で十字を切っていたりする。

「さて、と──桜、カレン。一ついいこと教えてあげるわね?」

 凛はあくまでも笑顔のまま、そう告げた。こきこきと手の骨の鳴らしながら。

「は、はい?」

 半泣きになりながら聞き返す桜に、凛は。

「──乙女の秘密を漁る奴は、全員死刑だから。」

と言う呟きと共に──、

屋敷の二階が、漆黒の光に包まれた──。






4.

 

「全く、油断も隙もあったもんじゃないっ」

 居間。カルボナーラを口へと運びつつ、凛は憤懣やるせないと言う口調でぶつぶつと呟いた。

 片付けをしているうちにいつの間にか夕飯の時刻になったので、ありあわせのものでぱぱっと作ったものである。

 ちなみに桜とカレンの分はなかった。当然のようになかった。

「まあ遠坂、そこらへんでさ」

 割って入る士郎に、何やら全体的にぼろぼろになって部屋の隅に縮こまっている桜も、目を潤ませながら抗議する。

「ううう。姉さんひどいです」

「ひどくなんかないっ。人のプライバシー探るほうがよっぽど悪いわよっ」

 フォークを振り、凛はああもう、と眉をしかめる。

「あ、じゃあ今度はわたしの家にも招待しますっ」

 いい考えだと言うように顔を輝かせる桜とは対照的に、凛は顔をしかめた。

「嫌よあそこ慎二いるじゃない」

「え、それはまあ──あ、でも兄さんならどうとでもなりますよね?」

 満面の笑顔で言い切る桜に、士郎がこっそりと突っ込んでいる。

「ええと、桜さん? 何気に問題発言ですよー?」

「うふふふ。やだなあ先輩、冗談じゃないですかー」

「本当、か……?」

 疑いの眼を向ける士郎。

 一方セイバーとバゼットは会話の中には加わろうとはせず、黙々とパスタを口へと運んでいる。

そしてライダーは。

「……おや?」

 ひとり、首をかしげていた。

「カレンの姿が、見えませんね……」

 その呟きは誰に聞かれるともなく薄れ、そして──

 

 

 

 

 

 

5.

 

──そして。

「じゃあ遠坂、また明日な」

夜──屋敷の門。

夕飯を食べ終え、そろそろ帰ろう、と士郎が言い出したのは9時を僅かに過ぎた頃だった。桜が多少ごねたものの、それ以外は特に反論も異論もあるわけでもなかった。身支度に五分ほどを費やし、そして今。屋敷を背にした凛に見送られる形で士郎たちは道路に揃っていた。

「ええ、朝食楽しみにしてるわね」

 にこやかに笑い、凛が手をひらひらと振る。

「姉さん、おやすみなさいっ」

 僅かな名残惜しさを含んだ桜の声。彼女はぺこりとお辞儀をすると、士郎の後に続いた。

「おやすみー」

「……それでは」

 ぼそりとそれだけを呟き、カレンがそれに続く──

「? カレン、貴女そんな袋持ってきてたっけ?」

 凛は、カレンが抱くようにして持っている紙袋に目を止めた。

彼女は僅かに視線を逸らした後、

「え、ええ。それでは凛さん、おやすみなさい」

 カレンに続き、セイバー、ライダー、バゼットが夜道に消え──

「……ふう」

誰の姿も見えなくなった頃、ふいに凛は息を吐いた。

空を見上げれば、そこには月。

三日月が、静かに夜の街を照らしている──

 ──カサッ

 スカートのポケットに突っ込んだ手が、何かに触れた。

僅かに眉を潜めた後、彼女はそれを引っ張り出した。

「──あ、そうだった」

 手の中に会ったのは、一通のエアメールだった。

屋敷の中に戻りながら、彼女は無造作にその封を開ける。

リビングのソファに身を沈め、ふっと鋭く息を吐いてから文面に目を通し始めた。

「…………」

 黙読が続く。

時計の音と、かさりという紙ずれの音だけが響く──

「……まずいわね……」

 呟かれたのは、噛み締めるようなその言葉。

「これは……急がないと……」

 言って立ち上がり、窓辺へと進む。カーテンを開き、空を見上げるとそこには三日月。

「ルヴィア…………」

 感情のない声が、虚ろに響く──。

 夜闇。窓の外では、三日月が雲に隠れた所だった。





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