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後後後後後後後日談。

 

 

 

 

 

 

1.

 

 有り体に言えば、困っていた。

 衛宮邸の脱衣所では、一人の男装の麗人が、洗濯機の前で腕を組み、眉をしかめて──目の前に立ちふさがる機械を凝視していた。

「……よく、わかりませんね」

 現状をこれ以上ないほど明確に知らせる一言を吐き、再び考え込む──

 バゼット・フラガ・マクレミッツ。元封印指定の執行者であり、ランサーの元マスターであり、現在はフリーランスの魔術師として、衛宮邸へ居候を(かなり強引に)決め込んでいる。ついでに言えば、現在無職。

「……困った。洗濯係とは言っても、やり方がわからないのでは……」

 途方に暮れたようにして、かぶりを振る。

 居候の条件として、カレンとバゼットの二人は、可能な限り家事手伝いをするよう言われていたのだが──。

「……あらかじめ士郎君に、聞くべきでしたか」

 ふう、と嘆息し、がくりと肩を落す。

 すっ──

 恐る恐ると言った感じで、バゼットは人差し指を洗濯機へと伸ばし──

「……これ、でしょうか」

 ひどく自信のない声で呟き、沢山並んでいるうちのボタンの一つを押した。

 が、反応はない。

「……? おかしい。うんともすんとも……」

 呟き、もう一度押す。が、やはり反応はなかった。電源ボタンを押してないのだからそれは当たり前のことだったのだが──

「……っ、どうなっているのです、これは……!」

 舌打ちをして、『だんっ!』と怒りに任せて洗濯機を叩き──

 ごがん。

 ──と。

 ありえない音を立てて、洗濯機が破壊された。

「…………………。」

 沈黙。あくまで無表情のバゼットだが、その頬には、一筋の汗が浮かんでいる──

「……機械は駄目ですね。」

 きっぱりと言い切り、バゼットはくるりと元・洗濯機に背を向けた。

 足元に置いてあった洗濯籠から一枚を拾い上げ、洗面台へと向かう。黒を基調としたそれは、どうやらカレンの戦闘服のようだった。

「ふむ──」

 しげしげとそれを見つめ──

「……まあ、どの道私には無理ですね」

自嘲のような苦笑のような。

やれやれと肩を竦め、バゼットは手洗いをしようと、洗面所の蛇口を捻った。続いて服を両手で掴み、揉みしだこうとして──

 びりっ。

 服が、破れた。

「………………………。」

 ひくり、と。頬を引きつらせ、彼女は真っ二つに裂けた服に目を落す。

「…………ええと……」

 呻いて、視線を彷徨わせる。

 と。

「あれ、バゼット。何やってるの?」

 廊下を通りがかったのは凛だった。

 彼女はきょとんとしたまま、脱衣所を見渡す──破壊され、ぶすぶすと煙を立てている洗濯機、そしてバゼットの手の中にある元・服。それらを順に確認してから、彼女はにっこりと笑うと、

「じゃ。」

 しゅた、と手を振り素早く引っ込もうとする──

「待ちなさい。」

 そしてバゼットは、半笑いのまま一足飛びに近づくと、むんずと彼女の襟首を掴み挙げた。

「ふ──ふふふふふ、逃がしませんよ凛さん……! さあ、今すぐこの破れた服をどうにかしてくださいっ」

「ああもう、何なのよ!」

 観念したのか、凛は抵抗をやめて喚いた。

「何がです」

 手を離しながら聞き返すバゼットに、凛は嘆息して、

「だからこの状況じゃない。一体何がどうなってるのよこれ……」

「ふむ」

 呟き、バゼットは黙考し──そして、半眼で呻いた。

「いえ、見たままかと」

「ああ、そう……」

 がっくりと疲れたように肩を落とし、凛はうわあ、と呻く。

「でも、また盛大にやったわねえ……」

「ええ、力加減を誤りました」

 しれっと言い捨て、バゼットはくるりと凛へと向き直った。

「と言うわけでどうにかなりませんか。見てのとおり、事態は緊急を要しています。なるだけスムーズかつスマートな解決を要求しますっ!」

 手をわななかせて尋ねるバゼットに、凛はくすりと笑いながら、

「報酬は?」

 バゼットは、ぴっ、と指を立てて、

「……士郎君への落書き権を一回進呈、と言うことで」

「いや、あれは別に貴女たちの権利でも何でもないしそもそも衛宮くんはわたしの弟子ですなのけれど、ミス・バゼット?」

「ほう」

 ぴくり、と眉を挙げるバゼット。

「ふふふふふ。あら、何かしらその意外そうな声」

「いえ。その情報は始めてでしたので。──しかし凛さん、貴女のこの帰国は一時的なものだと聞いていたのですが?」

 視線を鋭くして尋ねてくるバゼットに、む、と凛は唸りながら、

「……そうよ。色々あってまたあっちには戻らなくちゃならないけど。でも士郎だってそのうちこっちに来るんだから、問題なんてどこにも──」

「ふむ、時計塔ですか……」

 呟き、バゼットは黙考する──が、唐突にはっと気づいたように顔をあげると、

「……ち、違います今はその話ではありませんでした……!」

「みたいねー」

あはは、と苦笑し、凛は居住まいを正した。

「そうね、じゃあまず洗濯機だけど」

 呟き、そちらの方へ近づいていく。しげしげと観察してから、凛はふむ、と顎に手を当てた。

「……確かにへこんでいるけど、動かないことはないんじゃない? ええと、確か……ん、どうだったかな……? んー、ここを、こうやって……?」

 独り言を呟きつつ、首をかしげながら洗濯機を操作していき──

 ご、がんっ。

 再度、煙が立ち昇った。

『…………』

 二人して、呆然とそのまま立ち尽くす──最初に反応したのは凛だった。しょうがないわねー、と苦笑しながら、じりっと後ろに下がる。

「……もうバゼットったら、ボタン押しただけで壊れるようにしちゃうなんて何やってんのよー。」

「私ですかっ!? 明らかに今とどめをさしましたよねっ!?」

 手をわななかせて絶叫するバゼット。ぷいとそっぽを向き、なんのことだか困ったもんよねー、と言う態度を貫き通す凛。そして。

「ま、まあこう言うのは士郎が得意だからちょこちょこっと直してくれるわよ、うん」

 ぼそっと言い捨て、凛はそれでこの話題はおしまいだとばかりに手を振ってみせる。

 まあいいでしょう、としぶしぶながら納得するバゼットに頷き、凛はぴっと指を立てた。

「で、次は服よね」

「はあ……」

 のろのろと頷き、バゼットは見事に真っ二つに裂けた服を摘み上げた。

「……直りますか?」

 尋ねると、凛は顎に手を当て考え込んで、

「そうねー……。んー、ちなみに裁縫できる?」

「サイホウ? なんですかそれは。何かの食べ物の種類ですか?」

「あのね。セイバーじゃないんだから」

 半眼で唸り、はあ、と嘆息する凛。恨めしげにバゼットを見上げながら、ううう、と唸る。

「……聞いたわたしが莫迦だったわね。まあいいわ。桜が得意そうだから桜に頼みましょう」

「凛さんは出来ないのですか?」

 ぽつり、と。

 意外そうに呟くバゼットのその一言に、『かちーん』とこめかみを引きつらせ、凛はぴたりと足を止めた。しかしそれでもなんとか堪えたのか、彼女は素早く手を振ると、

「……。出来るわよ、勿論。でもやっぱり桜のほうが得意なんだからそっちに頼んだほうが効率がいいし何よりわたしも面倒くさくないって話で──」

 低く素早く囁く凛の言葉に、はっとバゼットは反応した。ぽんっ、と手を打ちながら、妙に明るい声で、

「……あ、ああ、なるほど。そうか、そうですよねっ。ええ、そのほうがいいと思いますよっ?」

「あ、なんかフォローのつもりか何だか知らないけど、凄く腹立つ笑顔ねー」

 巨大な血管マークを浮かび上がらせ、微笑を浮かべて唸る凛。一方バゼットはそそくさと凛の横を通り過ぎようと足を進めながら、

「い、いえいいのです。すいません。そうですね、では妹さんに頼むということで──」

「──待ちなさい。」

 がっし。

 バゼットの肩を掴み、凛はただ、笑ってていた。

 そして。

「いいわ、そこまで言うんならやってやろうじゃない──!」

 ぐぐっと拳を握り締め──凛はがあー、と叫んだのだった。





 

2.

 

「で」

 ぽつり──と呟いたのは、バゼットだった。

「これは……なんですか?」

 床に置かれた物体を指し示し、彼女は静かに答えを待つ。

 問いかけられた凛は、乾いた笑みを浮かべながら──

「……服?」

 やや頼りなさげに、そう零した。

「かつて服だったもの、ですよね?」

 ずいっと迫りながら、ふふふと笑いつつ、バゼット。

 カレンの戦闘服は、今やもう面影は残っていなかった。裂かれた部分だけを見れば、いびつではあるが幾重にも縫い合わされて一応修繕されていると言えなくも無い──のだが、全体を見ればそれは最早服ではなかった。

「おかしいわね……予定ではこう、3割増しくらいに凄いことになるはずだったんだけど。うーん、どこで間違えたのかなあ」

 顎に手を当て、真剣な表情で唸る凛に、バゼットは攻めるような視線を投げかける。

「そうですね。そもそもどうせならアレンジをくわえようだとか着た時にびっくりさせる遊び心は必要だ等と言うところが、こう、失敗に結びついたのでは」

 あはは、と誤魔化すように笑いながら、凛はぱたぱたと手を振ってみせる。

「もう服じゃないわよね、これ。……うーん、さすがにまずいわね……」

「魔術でどうにか──は無理ですか。こうなってはもう原型などないに等しい」

 二人して、嘆息。

「そうね。ああもうイリヤがいればなあ……」

「いない者のことを嘆いても仕方ありません。私たちが今やらなくてはならないのは──」

 びっ、と指を立てたバゼットに、凛もまた続く。

「──そうね。この状況をどうやって切り抜けるか、か……」

『………』

 一瞬の沈黙。そして二人は、脱衣所の隅にしゃがみこみ、鋭く囁き始める──

「……見なかったことにするのは?」

「難しいですね。この服を頼みます、と今朝じかに頼まれましたから。……それよりも代品と言うのは?」

「こんなの市販されてるはずないじゃない。──記憶操作」

「しかし恐らくかなり重要性の高いものをなかったことにすると言うのは」

「違うわ、今朝の部分だけよ」

「なるほど。つまり行方不明ということで──」

「そうそう。後はこっちも知らぬ存ぜぬを通して──」

「──そうですね。まあ多少の記憶障害はこの際止むを得ない。ことが露見するよりは幾分かましでしょう」

 そこまで言って──、

『……はぁ』

二人、一斉に息を吐き出す。

ああもう、とうんざりと凛は呻いた。

「……はぁ。なんでこんなことになったんだか」

 げんなりと呻いて両足を投げ出す凛に、バゼットは顔をしかめてみせる。

「む。それを言うのならこっちのせりふでしょう。私だけならまだ修繕の余地はあったのだから」

 凛はそれに対して何か反論しようと口を開きかけ──そして、ああもう、と首を横に振った。

「水掛け論になるからやめましょう。──にしても、カレンもよくこんなの着れるわよね」

「そうですね。少なくとも私には無理です」

 苦笑するバゼットに、凛はにんまりと笑ってみせる。

「あら、案外似合うと思うわよ?」

 その言葉にバゼットは赤面すると、

「な、何を言っているのですっ。第一こう言うものは凛、貴女のほうが──」

「冗談。はいてない分、カレイドルビーより性質(たち)が悪いわよ……」

 心底疲れたような嘆息をする凛に、バゼットは訝しげな眼差しを向けると、

「……? それは確か先日、セイバーさんに着せていた──」

 はっ、と気づいたように凛は慌ててぱたぱたと手を振ってみせた。

「な、なんでもないなんでもないっ! そ、それにしても──そう、はいてないって凄いわよね。際どいって言うか思いっきりアウトじゃない」

「いやまあ、それは」

 再び、苦笑。

 はあ、と嘆息してから凛はぼんやりと呟いた。

「よくカレンもこんなの着れるわよねー」

「ま、まあそれは否定出来かねますが」

 口ごもるバゼットに、ええと確か──と凛は続ける。

「あれでしょ? 誘惑とかそんなのなのよね?」

「そうですね。まあその一面もあることにはありますが」

「ほーらやっぱ──」

 り、というところまで言葉は続かなかった。

 凛、そしてバゼットの二人は、ぴたりと硬直していた。

「──随分と面白そうな話をしているのね、二人とも」

 と。そのような声と共に、廊下からゆっくりと姿を現したのは──カレンだった。彼女はぼんやりとした視線を床へと投げかけると、

「ところで、そちらに転がっているのはなにですか?」

 言って、こくりと首をかしげてみせた。

「え、ええと──」

 ごくり、と喉を鳴らしながら、凛は呻いた。びっしりと顔面に汗を浮かび上がらせながら。

「カ、カレン? どの辺りから……?」

「そうですね」

 言ってカレンはにこりと笑うと、

「この状況をどうやって切り抜けるか、くらいでしょうか」

「って、ほぼ初めっからじゃない──」

 あああああ、と頭を抱える凛。

「さて。そう言うわけで、図らずも全ての真相を理解してしまったわけですが──」

 ぎゅっ、と両手を組みながら、鷹揚に尋ねてみせた。

「最後に言い残すことはありますか?」

「……ええと」

「その──」

 呻きつつ、二人してこっそりと互いの顔を覗き見て──。

「元はと言えばバゼットが悪いのよ!」

「凛さんの所為でこのようなことにですね!」

 一斉に相手をけなし始める二人を冷ややかに見下ろしつつ、カレンは。

「……なるほど。」

 静かにそう呟き、頷いた。そして少女はやおら手をほどくと、親指を立ててにこりと笑ってみせて、

「では、喧嘩両成敗と言うことで──、お二人共に神の裁きを。」

言って、くいっ、と手を下へと向けた。






 

3.

 

「で」

 呻いたのは士郎だった。

「なにやってんだ遠坂」

 衛宮邸、居間。アルバイトから帰ってきた士郎が帰るなり見たものは──カレンの戦闘服を着せられた、凛とバゼットの二人だった。

「……聞かないで。あと、笑いたければ笑って」

 しくしくと涙しつつ、凛は呻く。バゼットにいたっては、背を向けて壁に向かって座り込んでいるのだが。

 カレンは冷静な口調で、ふふふ、と笑う。

「きっと今まで秘められていたスキルが開眼したんでしょう」

「してたまるかっ!」

 たまらず叫ぶ凛と、何やら楽しそうなカレンを見比べつつ、士郎はぽつりと零す。

「まあ、カレンの仕業──なんだろうけどさ」

「随分な言い草ですね。被害者はこちらだと言うのに」

 心外だと言うように眉を潜めるカレンに向かって、凛は叫ぶ。

「大体なんでわたしたちにぴったりのサイズがあるのよ!」

「いえ、こんなこともあろうかと」

 しれっとカレンは言い切った。

「どんなことよ!?」

 手をわななかせて叫ぶ凛に、カレンはぺちんと両手を打ち合わせ、

「大丈夫。とてもよくお似合いですよ?」

「嬉しくない……っ!」

 絶叫する凛はそのままに、カレンは士郎をちらりと見て、小さく笑みを浮かべる──

「でも、貴方は嬉しいですよね?」

「俺に振るのかっ!?」

 たまらず叫ぶ士郎。

「あらあ衛宮君、そう言えば顔赤いけど、どうかしたの?」

 『にやあっ』と笑いながら口元に手を当て、凛がからかうように一歩踏み出す。

「ああもう遠坂も……!」

「と、ところで士郎君、ちょっと──」

 ごほん、と咳払いをしながら告げたのはバゼットだった。赤らんだ顔を押さえ込み、そっと尋ねる。

「……ええとその、士郎君? 少し聞きたいことがあるのですが」

「な──に、かな?」

 口元を引きつらせたまま、士郎はたずねる。

 バゼットは一回視線を逸らしてから、もう一度視線を向け──、小声でぼそぼそと尋ねた。

「……い、いえ大したことではないのです。ただ、こう言った服装は始めてなもので。それでその、いえ、本当に大したことではないのですが」

 言いつつ、立ち上がる。そして彼女は真剣な、そして僅かに目線を逸らした眼差しを向けて、

「──その。似合って、いますか……?」

「────っ!」

 士郎は腕で真っ赤に染まった顔を押さえ、後ずさった。

「……? 士郎君、どうしたのです。率直な意見を聞いているのですから答えてくれないと困るではありませんかっ」

 全く、と手を腰に当てて尋ねてくるバゼットから逃げるように、士郎は慌てて手を振り叫びつつ、さらに後退する。

「気づいてないって怖いわねー。あれ、きっと迫るつもりとかじゃないのよね?」

「そうですね。所謂天然と言うものでしょうか。……私が男でもあそこはまいるかと」

 残りの二人は完全に傍観するつもりなのか、少し離れたところでにやにや笑いながらぼそぼそと言い合っていたりする。

「に、似合ってる、似合ってるから──!」

 ──どんっ

 と。

 背中に何かが当たり、士郎は動きを止めた。

 壁ではないはずだった。士郎の隣には、開けたばかりの襖がある。奥にあるのは廊下のみ。そこに壁があるはずがない──

「ええ、と……」

 呻きながら、士郎は恐る恐る振り返る──

 ──そこには。

「………桜、さん?」

 手にビニール袋を携え、髪で顔を隠すように俯いた桜が、くすりと小さな笑みを浮かべていて──。

「ええと。随分楽しそうなことになっているんですね、先輩?」

 髪を押さえながら、桜は笑う。

「ふむ、どうやらそのようだ」

 ──その横にはセイバー。一緒に買い物に行っていたのか、彼女の手にもまたビニール袋。ちらりと投げかけたその視線を追いかける──そこにいるのは、艶めかしい格好となっている凛とバゼット。

 そしてセイバーはにこりと笑いつつ、

「とっかえひっかえですか、シロウ」

 そんな言葉を、吐いた。

「い、いやちょっと待──」

「説明は……してくれるんですよね?」

 にっこりと笑いながら尋ねてくる桜に。

「……はい。」

 士郎はがっくりとうな垂れつつ、そう呻いた。






 

4.

 

「で、どうするんだあれ」

 三十分後──

 士郎は疲れた表情を隠しもせず、居間に戻るなり嘆息した。

 桜たちへの誤解をなんとか解き、残った懸案、つまり洗濯機の様子を見に行っていたのだが──。

「原因とかわからないの? 衛宮くんなら得意でしょ、そういうの」

 なんとかなるわよね? と目で問いかけてくる凛に、士郎は首を横に振る。

「原因はわかった。ただ、それに対して修理が出来ないから困ってるんだ。もう素人がどうこう出来るレベルじゃないぞ。どう考えたって専門の工具とかがいる」

 何をどうやったんだか──と、士郎は嘆息する。

「困りましたね。もうすでに結構な分量溜まっているのですが」

 やれやれ、と呟いたのはセイバーだった。人数が人数なだけに、一日でも洗濯物を溜め込むと途端分量は膨れ上がる。

「うーん。まあ、当面はコインランドリーとかでしのげるけど、それじゃ根本的な解決にはならないしな。……やっぱり買い換えるしかないか……」

 はあ、と重い息を吐く士郎に、セイバーも続く。

「また出費ですか……」

「姉さん……?」

 ぎろり、と。

 静かに睨みつけてくる桜に、凛は慌てて手を振り、弁解をしようとした。

「ち、違うって、あくまで原因はバゼットで──」

「ええ。確かにそれは疑いようも無い。ですから当然弁償はさせてもらいましょう。相場がよくわからないのですが───そうですね、○万円でよろしいですか?」

 静かにそう告げるバゼットに、桜は顔をぱあっと輝かせると、

「は、はいっ、大助かりですっ」

 言って、ぱん、と両手を合わせた。

「で」

 呟きつつ、そのままの格好で桜は、今度は凛へと向き直り、

「姉さんは、なにをしてくれるんです?」

 すかさずさっと視線を逸らし、凛はうぐ、と呻く──

 が、そこに口をバゼットが挟んだ。ちょっと待ってください、と言いつつ、静かにかぶりを振る。

「いえ、凛さんは私を助けようと尽力してくれたのです。ですからこれは、二人分として考えていただきたい」

「バゼット──!」

 目をきらきらと輝かせて、凛はがしっとバゼットの両手を握った。

「わたしどうやら思い違いをしていたみたい。そうね、どうやらこれからは考えを改めないといけないみたいだわ……っ!」

「凛さん、わかってくれましたか」

 爽やかに笑いつつ、残ったもう一方の手ではピースサインをしていたりするバゼット。

「おーい遠坂、懐柔されてるって気づいたほうがいいみたいだぞー?」

 こっそりと呻く士郎に、凛は『ばっ!』と振り向くと、

「何言ってるのよ衛宮くん。お金持ちに悪いヒトなんていないのよっ!」

 迷わずきっぱり、そう言い切った。

「あああああああああああああああああ」

頭を抱える士郎。

「そうですね。その手がありましたか……」

 成る程、と何やら真剣な表情で頷いているカレン。

「話は変わりますがシロウ今晩の献立は一体何でしょうか」

 お腹がすいたのですが、と会話の流れをきっぱりと無視して尋ねるセイバー。

「ね、姉さん駄目です目を覚ましてくださいーっ!」

 わたわたと拳を握りながら必死に呼びかける桜。

「何も聞こえない、聞こえないんだからねっ……!?」

 耳を塞いでぶんぶかと首を振る凛──

「ああもう、どうしたもんだかなあほんと……」

 そして士郎は、肩を落として泣き笑いのような表情を浮かべ、ふるふると首を横に振る──。

 夕暮れ。衛宮邸の喧騒はいつ終わるとも知れず、続いていたのだった──。

 

 

 

 

 

 

そして──。

  同時刻。遠坂邸のポストに──

  

カ、タンっ

 

と、乾いた音をたてて、一枚のエアメールが投函された。








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