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後後後後後後後後後後後後後後後後後後後日談。

 

 

 

「シロウー、あ・そ・ぼーっ」

 すぱーんっ!

 と。勢いよく衛宮邸の居間に通じる襖を開けて飛び込んできたのは──イリヤだった。

 が、部屋はしんと静まりかえっていた。

 夕刻。とは言えまだ日は高い。暗くなるまでにはかなり時間があるだろう。

「あれ」

 拍子抜けだったのか、かくんと肩を落としてイリヤはぽつりと呟いた。

「──シェロなら留守ですわよ」

 と、涼やかに囁いたのは、居間に唯一いた人物──ルヴィアゼリッタだった。いつものドレスを身に纏い、机の上には本と紅茶、そして数枚のクッキー。既製品ではなく、わざわざ士郎に作らせたものだった。どうやら優雅なティータイムを堪能中だったらしいが──。

「ふうん……」

 ぴくりと眉を動かし、イリヤは気だるげに銀髪を掻き上げ部屋を見渡してから──ふうと嘆息。

「……帰ろっかな」

 ぼそりと呟き、銀髪の少女はくるりと身を翻した。

「お待ちなさい」

 ぱたん、と本を閉じ、金髪の女性が視線を上げる。

「貴女、どなたですの?」

 ぴたり、とイリヤの足が止まった。

 ふ、と口の中で嘆息しつつ、イリヤは振り返った。にこりと微笑み、スカートの裾を摘みあげ、優雅に一礼する。

「──申し遅れました。わたし、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと申します。以後お見知り置きを」

「……アインツベルン──ですって?」

 ぎょっとしたように目を見開くルヴィアを見下ろしながら、余裕じみた微笑を浮かべる。

「ええ、そうですわ」

「どうしてこんな所に──いえ、」

 慌ててルヴィアもまた立ち上がり、同様に辞儀をする。

「──失礼。(ワタクシ)、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトと申します。フィンランドの貴族ですわ。今は時計塔に留学中ですの」

「あら、そうだったのですか」

 ふうん、と口の中で呟き、さてどうしたものか──と思案する。はいではさようならとこのまま帰るのはあまりにも露骨だろうし、かと言って彼女と話す気にもなれない(・・・・)。まいったなあ、とこっそり唸っていると、

「あの、少々不躾な質問をしても宜しいかしら」

 相手の方が口を開いてきた。その表情は、ちょうど影に隠れて読み取ることは出来ないが──。

「ええ、どうぞ」

「貴女は、一体──」

「あれ? おーい、イリヤ来てるのかー?」

 ──と。

 玄関から聞きなれた声が聞こえてきた。

 刹那イリヤはくるりと振り返り、右足を僅かに屈め、体重をそちらへと乗せて、

「イリ──」

「お帰りお兄ちゃーん!」

 廊下から士郎の姿が見えると同時、思い切り踏み込んで抱きつく(突進する)──!

「ぐふっ!?」

 腹に頭突きを喰らい、士郎は悶絶した。両手にスーパーの買い物袋を持っているため、防御も出来なかったようだ。真っ青な顔で、それでもなんとか倒れずに踏ん張っている。イリヤは大して気にも留めず、えへへー、とさらに絡みついた。

「ほらシロウ、遊ぼうよっ。ねえねえ、どこか行こう?」

「あーいや、悪いイリヤ、俺今日は掃除当番でさ……」

 ぽり、と頬を掻き、士郎。

 イリヤはにぱっと笑って、ううん、大丈夫だよっ、と笑った。

「──そっかあ。それなら、わたしも一緒に掃除するねっ」

「え? いや、でも本当に掃除するだけだぞ?」

 いいのか? と尋ねる士郎の腕を掴み、ぐるりと回る。

「いいからいいからっ。──ほらシロウ、行こう?」

「あ、ああ……じゃあちょっと待っててくれよな。これ冷蔵庫にしまっちゃうからさ……」

 がさ、とスーパーの袋を少し持ち上げると、

「あ、私もやるー」

 言ってイリヤはその内の一つを取り上げた。うわあ(おも)いねー、と呻きながら、キッチンへとよたよた進んでいく──。

「うん、助かる。ありがとうな」

 ぽん、と空いた手でイリヤの頭を撫でると、

「どういたしまして、お兄ちゃんっ」

 えへへー、とイリヤは微笑んだ。

 と、士郎はそこで様子を静観していたルヴィアへと目を向けた。

「──ただいま、ルヴィアさん」

「ええ、お帰りなさい、シェロ」

 にこりと優雅に微笑を浮かべる。

 と、キッチンからイリヤの元気な声が飛んでくる──

「ほらあ、早く閉まってお掃除いこうっ」

「あ、ああ……」

 それじゃ、と士郎もまたキッチンへと向かっていく──

「………………。」

 ルヴィアはその様子をじっと眺めてから──ふ、と小さく息を吐き、再び本を開いた。

 

 

 

 

 

 

「ただいまー。……ん、ルヴィアひとり?」

 あー疲れた、とぽきぽき肩を鳴らしながら入ってきたのは、凛だった。

「ええ」

 本から目を上げることなく、小さく頷く。

 あれ、と凛は首をかしげて、

「イリヤは? なんかちっちゃい靴あったんだけど」

「シェロと一緒に掃除していますわよ」

「へえ。珍しいわねー」

 言いつつ、コートを脱いで適当に放り、炬燵へと潜り込む。

「はぁ、あったまるわー……」

 ふぅ、と

「ところでリン」

「ん?」

 僅かに言葉を強くして、尋ねてくる。

「あの子は──アインツベルンなんですの?」

「ああ、イリヤ? そ。あれ、そう言えば顔合わせるの初めてだっけ。ま、あんな成りしてるけどねー。本気出したら凄いのよあの子」

「それはそうでしょうね」

 本から目を上げ、ぽつりと呟く。

「──アインツベルンですもの」

「……ルヴィア?」

 はあ、と嘆息。ルヴィアゼリッタはぱたりと本を閉じ、すっと凛を見つめた。

「リン。あの子──ホムンクルスですのね?」

「……ルヴィア。アンタ、それは」

 言葉に詰まるのを確認してから、小さく頷き口を開く。

「リン」

 すっ──と。

 真っすぐに凛の瞳を見据え、彼女は尋ねた。

いいのですか(・・・・・・)?」

 絶句した。

 凛は一瞬口を開けて呆然としてい──たが、はっと我に返ると唇を噛んで俯いた。

「……わかってる。わかってるわよそんなコト──」

「お、遠坂帰って来てたのか」

 と──。

 よっこらせ、とゴミ袋を担ぎながら、士郎が歩いてきた。その後ろにはちょこちょことイリヤが付いてきている。

「あ──ああ、うん……」

「……? 何かあったのか?」

 微妙な雰囲気を察知したのか、士郎は首を傾げる。誤魔化すためだろう──ルヴィアは口早に士郎へと告げた。

「いえ、別に。ああ、それよりシェロ? お茶を淹れて下さるかしら? (ワタクシ)喉が渇いてしまいまして」

「あ、うん」

 大人しく頷き、ちょっと待っててくれよな、と士郎がキッチンへと向かう。

「──待ちなさい」

 凛とした声が、居間に響いた。

 思わず振り返る士郎の視線の先には、イリヤスフィール。腰に片手を当て、すっと目を細め、ルヴィアを見下ろしている──。

 瞳を揺らすことなく、彼女は静かに告げた。

「貴女。シロウは小間使いじゃないのよ? 仮にも客なら、それ相応の立場でお願いするのが筋でしょう」

「あら」

 意外そうに眉を持ち上げ、ちらりと士郎を見あげると、苦笑が返ってくる。まあいいでしょう、と肩を竦め、ルヴィアは説明した。

「一応ここに滞在する間はシェロは執事という役割と言うはずでしたが。そうですわね、ミストオサカ?」

「え、あ、うん……」

 曖昧に頷く凛に続き、ルヴィアは髪を掻きあげて挑発的に尋ねる。

「第一、  何故貴女が口を挟むのかしら。貴女だって同様の立場でしょうに──」

「わたしはシロウの姉だもの。シロウに無礼な真似をするならイリヤスフィール・フォン・アインツベルン(このわたし)が許さないわ」

「姉、ですか」

 とてもそうは見えませんが、と嘯く。

 イリヤは今度は士郎に向かって口を尖らせた。

「大体シロウもシロウよ。あんな言い方されて悔しくないの!?」

「え、や、俺は別に……」

 ぽりぽりと頭をかく士郎に、はあー、と深く嘆息してから、

「……もう、お兄ちゃんは本当お人好しなんだから……」

 言いつつ、しょうがないなあ、と柔らかく笑う。

 そして彼女はくるりとルヴィアゼリッタへと振りかえると、一転して視線を鋭くして言い放った。

「──言っておくけど、わたしは特別扱いなんてしないわよ。──ふん、エーデルフェルト? 確か地上で最も優雅なハイエナ──だったかしら。でもね、いくら美しくても、所詮ハイエナはハイエナ。他の獣が狩った獲物を横取りするしか出来な──」

「──こら、イリヤ」

「もがっ!?」

 ああもう、と顔を顰めてこめかみを押さえつつ、士郎がイリヤの口を塞いだ。

「むー!」

 ばたばたと両手を振りまわすイリヤを半眼で睨み、

「言いすぎだぞ、イリヤ」

「……う、シロウ……」

 拘束を解いて、屈みこんでイリヤに目線を合わせてから──ふっと表情を緩め、首を振る。

「初対面のお客さんに失礼なことなんて言うもんじゃない。イリヤらしくもないじゃないか」

「だ……だって、シロウが〜……」

 ううう、と唸るイリヤに笑いかけ、士郎はぽんと頭に手を置く。

「だから気にしてないっていったろ? こんな経緯になったのには色々と理由があってさ。そうだな、イリヤにきちんと説明してなかった俺が悪いよな。──ごめんなイリヤ」

「っで、でも、シロウはシロウなんだからそんなのダメなのー!」

「……ええと……」

 うわーん、と暴れだすイリヤを呆然と眺め、呻く。

「──ミス・アインツベルン」

 すっ──

 静かにルヴィアは立ち上がると、腰を折った。

「先ほどは失礼いたしましたわ。そうですわね、シロウは仮にも家主ですものね。自分の屋敷の中と同じような振る舞いをしたことに関してはお詫びさせていただきます。あと、勘違いして欲しくはないのですけれど、決してシロウを侮辱しているつもりはありませんでしたのよ? ──ごめんなさいね、シロウ。もう執事ごっこは終わりにしましょう……?」

いつもの“シェロ”、ではなく、“シロウ”。わざわざそう呼びかけるルヴィアゼリッタの瞳は、ほんの少し寂しそうに翳っている。 

「や、えっと、その──ルヴィアさん……」

 どう声をかければいいのかわからず、士郎は絶句していた。

「さて、ミス・アインツベルン?」

 にこりと──

 優雅に頬笑み、ルヴィアゼリッタは一歩踏み出した。さっと手を振り、続ける。

「それはそれとして。それで──ええと確か、所詮ハイエナはハイエナ──でしたっけ?」

 笑みが、ますます強くなる──

(ワタクシ)、許せないことがありまして」

 両手を組み、

「ひとつは──、無駄な出費」

 何やらもぞもぞと動かした後、

「そしてもうひとつが、」

 『ばっ!』とドレスの両腕部分が外れる──

「家名が馬鹿にされることですわ……!」

 アタッチメント部分を無造作に放り捨て、ルヴィアゼリッタは『ぎんっ!』とイリヤを睨みつけ──、『じゃらっ!』と指の間に宝石を瞬時に出現させた。

「──あ、まずい」

うわ、と呻いている凛。

顔が引き攣っている所を見ると、どうやら洒落にならないレベルまで切れているようだが──

「……遠坂。なんとかしてくれ」

「うん無理。」

 回答はこれ以上なく早かった。

「ああ、もう……」

 しくしくと涙しつつ、諦めきったようにがくりと項垂れる。

「おしおきしてあげますわ、小娘──!」

 言いつつ、ルヴィアがその指先に特大のガンドを生み出し──

「──ふん、やれるもんならやってみなさい……!」

 イリヤは不敵に嘲笑(わら)いつつ、周囲一帯の大気を舞いあがらせる──

 そして──屋敷が爆裂した。

 

 

 

 

 

 

「ほら、二人とも手を休めるなよな。きりきり直せー」

 ぱんぱんと手を叩きつつ、顔を引きつらせた士郎がイリヤとルヴィア、二人を急き立てる。

 あの後──

 十数分にわたる激闘が続き、結果として、庭は焦土と化していた。屋敷部分は奇跡的にもほぼ無傷で済み、怪我人も出てはいないが──

「ふえーん、シロウーが冷たいよう……」

 半泣きになりつつ、イリヤはのろのろと魔力を練っていく。

「喧嘩両成敗だ。」

 にこりと笑いつつ、士郎は無碍もなく言い捨てた。

「シェロ、後で覚えてなさいよ……!」

 こちらも同様に、修復を行っている。二人とも全体的にぼろぼろになっているが、まあこの規模での戦闘を行ったのだから当然と言えば当然だった。

「何言ってんだ、執事終わりだって言ったのルヴィアさんだろ。悪いけどもうそこまで遠慮はしないからな。それに、いくらなんでもこれはやりすぎだ。全部直すまで家には入れません。いいですね、お嬢様方──?」

 あっはっは、と完璧に切れた笑顔を振りまきつつ、士郎。

「ううう……」

 なんでこんなコトに、と涙しつつ、それでも手は休めないルヴィア。と、唐突にくるりと振り返り、半泣きで喚く──。

「ミストオサカも手伝ってください! こんなの二人きりで終わるはずありませんでしょう!?」

「って、本気で逆切れもいいところじゃないのよ……。ったく、しょうがないわねー」

 士郎と一緒に傍観していた凛は、やれやれと嘆息すると庭先へと出て一緒に呪文を唱え始めた。あ、これで貸しなしよね、と直前にさりげなく付け加えることは忘れなかったが。

「あのー、ただいま帰りま……ってなんですかこれっ!?」

 帰ってきた桜が庭の惨状を目の当たりにして、絶句する──。

「これはまた、ひどいですね……」

 続いてセイバー、そしてバゼットが姿を現す。

「……一体何があったんですか?」

 只今帰りました、と言いつつセイバーは尋ねる。

「いや喧嘩。」

 ひたすら疲れたように士郎が唸る。

 バゼットは意外そうに眼を見開いて、

「え、それでこの程度で済んだんですか?」

「いや、アンタも基準変だからなダメット」

「ええとすいません士郎君よく聞こえなかったのでもう一度」

 あっはっは、と笑いつつぎゅっと拳を握りしめるバゼトから全力で視線を逸らす士郎。

「うんごめんなんでもないです」

「シェロも! もう十分反省はしましたから手を貸してくれても──」

「あ、士郎は無理よへっぽこだから。」

 いやほんとに、とぱたぱたと真顔で手を振る凛。遠坂俺の師匠だよな? と士郎はジト目で唸りながら、

「う。でも、さすがにちょっとくらいなら……」

 言いつつ、落ちていた瓦を手に取り、たどたどしく呪文を唱えて──

「…………あ。」

 ぺきん。

瓦が真っ二つに割れた。

「……なるほど、確かにへっぽこですわね」

 呆れたようにルヴィアゼリッタが呻く。

「へっぽこ加減に磨きかかってるんじゃないアンタ。なんで前より下手になってんのよ」

 はあ、と深々と嘆息して、凛。

「シロウへっぽこー」

 イリヤまでもがくすくすと笑っている──。

「くっそぉ、もう一度だ──」

 あきらめきれないのか、士郎が手近なものを探し始めるのを見て、頬に汗を一筋浮かべ、そろそろとルヴィアが提案した。

「いえあのシェロ? も、もういいですからシェロは大人しく夕飯の準備をですね──」

 が、士郎は納得しないようだった。ぶんぶかと首を振り、きっと視線を鋭くする。

「いや、やるぞ。こうなりゃ意地だ。成功するまでやってやる──!」

「んなことやってたら終わるものも終わんないじゃない! いいからとっととアンタは夕飯作ってなさい!」

 があーと喚く凛の言葉に、しかし士郎は首を横に振り、もう一枚瓦を手にして、

「駄目だ遠坂。こんなんじゃ納得できな────あ。」

 ぺぱきんっ。

 また瓦が砕け散った。

 堪りかねたのか、凛が鋭く叫ぶ──

「っセイバー! こいつ捕まえて!」

「は、はいっ!」

 慌てて飛び出すセイバー。

「駄目だセイバー、こればっかりは譲れないんだー!」

「シロウ、お願いですから大人しく夕飯を! 夕飯を作ってくださいー!」

「そうですよ士郎君、人には得意不得意があるのですか──あっ」

 唐突にバゼットが躓き、体制を崩し、とっさに手を傍にあった柱へと伸ばし──

 ばぎんっ。

 力を込めすぎたのか、柱が折れた。

「あああああああああああああああ」

 顔を真っ青にして頭を抱えるバゼット──。

「なるほど、つまりまあ何と言うか壊すしか能のない人もいる、と。そう言うことですね」

 と。今帰ってきたのか、カレンが無表情のままそう呟いた。その手の先には──、士郎を掴んだ聖躯布。

「ところでとりあえず捕まえてみましたが何の騒ぎです駄犬」

「アンタもなんかもう習慣になってないかこれ」

 あとさっさと放してくれ、と唸るが、当然の如くその要望は無視された。

よくやったわカレン、と凛が歓声をあげている。

 バゼットは半眼で唸りつつ、

「カレン。何か?」

「いえ何も。」

 さっと視線を逸らすカレン。

「はーなーせー」

 もがもがと蠢く士郎をよそに、凛は腰に手をあてずびしと指を突き付ける。

「ほらほら、あんた達も出来ることあったら手伝ってよね。夕飯本気で食べれなくなるわよ」

「は、はいっ! それで凛、私は一体何をしたら──」

「もーいや、つかれたあー!」

 イリヤがばたばた両手を振りまわして喚く。

「アンタは元凶そのいちなんだからがんばりなさい!」

 ルヴィアゼリッタがしくしくと涙しながら唸る──

「うう……(ワタクシ)、日本まで来て一体何を……」

「以下同文!」 

 とりあえず──

 凛たちの手助けもあり、夕飯前までには、なんとか庭の修復作業は終わったのだった──。







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