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後後後後後後後後後後後後後後後後後日談。








 

 

 

 

「はあー、平和ねえ……」

 衛宮邸・居間。こたつの机の上にぐでっと頭を置いて、凛は幸せそうにのんびりと息を吐いた。

 昼前。晴れているために屋内にいる限りでは温かいが、風はやや強いようだ。最もこたつに入っていればそんなことは関係ないことだが──。

 士郎、凛、桜、ライダー、セイバー、カレン、バゼット。居間にいるのはこの六人である。

「はい姉さん、お茶です」

 とん、と凛の頭の横に湯呑を置き、桜が微笑む。

「あ、ありがと」

 ようやく体を起こし、凛はふうと息を吐いて首をこきこきと鳴らした。

「ふぅ……」

 ひと息ついて、お茶をすすり、そしてまたぐでりと倒れる。ツインテールの黒髪が一部、机に広がった。

「遠坂、だらけすぎだぞ」

 おいおい、とたしなめる士郎にぱたぱたと手を振り、凛はあっはっはと笑う。

「んー? いいじゃない、のんびり出来るときにのんびりしないでどうす──」

 

す・ぱーん!

 

 突如、鋭い音が鳴り響いた。

 一斉に皆が音の発生源へと振りむく──

 凛の真後ろ、襖。それが開いていた。どうやら今の音は襖が勢いよく開いた音のようだが──

 ──そこに立っていたのは──見慣れない顔だった。

「ん?」

ライダーは眼鏡をきらりと光らせ、一瞥する。

 ──まず目につくのは、青い豪奢なドレス。

「え」

 士郎は眼を点にしている。

 ──大きい瞳はややつり目がちで、鋭く前方を見据えている。

「は」

 セイバーはぽかんと口を開けている。

 ──長い金髪には、僅かにオレンジが混ざっているようだ。

「?」

 桜は首をかしげ、

 ──そしてその金髪は、縦ロールにセットされており、

「誰です」

「さあ……」

 カレンとバゼットは、こそこそと耳打ちをしている──

 ──青く大きなリボンがあしらわれている──

 そして。

「げ」

 顔を引きつらせ、思わず立ち上がったのは──凛だった。

「あ、あああああああアンタ──」

 驚いているのか、口をぱくぱくとさせつつ、ふるふると細かく戦慄く指先を突き付ける。眼前に指先を持ってこられて彼女(・・)はむっとしたように眉をしかめた。

 が、それも一瞬。

 彼女は一転、挑戦的に目を輝かせると、腰に手を添えた。さっと手を髪の中へと入れ、外へと抜き出す。朝日を浴びて、金髪がきらきらと広がった。

「見つけ、ましたわ──」

 軽く涼やかなその声は、自信に裏付けされた力を持っていた。

 すっと眼を細め、彼女は素早く凛へと歩み寄っていく──

 対して凛は、足を後ろへと運ぼうとし──そして炬燵にぶつかり、断念した。ち、と舌打ち。

「あー、ええと、ルヴィア? 久しぶ──」

 一転してあはは、と愛想笑いを浮かべながらぱたぱたと手を振る凛の足を、彼女は素早く払い──

「え」

 戸惑う凛を余所(よそ)に、さらにもう一回。全く上半身を動かさずに、そして誰にも見られることなくこの作業を行うのは至難の業ではあるが──それを難なく彼女はやってのけていた。

 結果として、凛の体の向きは180度回転し──

「あてっ。やっ、ちょ、ちょっと──!?」

 彼女が何をしようとしているのか察したのだろう、慌てふためく凛をさらに強く捕まえ、そして。

「御機嫌よう、ミストオサカ……?」

 彼女、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトはそう耳元で囁いて──笑顔のまま、凛にチョーク・スリーパーを決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

「ど、どうぞ。粗茶ですが」

 ことん──

 机の上に、湯呑が置かれた。衛宮家で一番高価なものである。

 経験と言うべきか、それとも勘が正しく働いたと言うべきか。士郎は彼女に対して最高のおもてなしをしなくてはならないのだと──そう悟っていた。だって何て言うか──そう、なんか絶対住んでる世界違うだろ、この人。

 現在、今にいるのは士郎と彼女、二人だけである。いや、正確には先ほどの彼女の攻撃でダウンしている凛もすぐ横にいることにはいるのだが──。

 行儀よく座布団の上に正座をし、ぴしりと姿勢を正して座る姿は、まるで展示会から抜け出した人形のよう。

 思わず士郎はその姿に目を奪われていた──

「あら、ありがとう」

 ルヴィアは微笑んだ。

 上品に、あくまでも優雅さを保ったままの微笑。

 士郎の頬が、瞬時に真赤に染まる。

 あら、と彼女は一瞬驚いたように目を開き──、そしてくすり、と。小さく笑った。

びくりと体を震わせ、士郎は顔を引きつらせた。

「な……何ですか?」

「いいえ、特に。ただ、そうですわね──いえ、やめておきましょう」

 にっこりと笑い、そう言い切られる。

「そ、そうですか……」

 ははは、と士郎は空笑いを浮かべる──

「……それで、アンタ何しにきたのよ」

 げほ、と喉を押さえながら凛が尋ねる。ルヴィアは眼をしばたいて、

「あらミストオサカ、もう復活したのですか?」

「ええ、おかげさまで。で、何でいるのかしら」

 腕を組み、半眼で呻くが、ルヴィアは一向に気にした様子もなく涼しげに、

「手紙は読みましたか?」

「読んだ。読んだけど、この前アンタ電話でやっぱり行かないって──」

「ええ、確かにそう言いましたけれど。でも思い直したんです」

 あっさりと紡がれたその言葉に、凛は疲れたように深く嘆息。こめかみを押さえつつ、

「……それで、何も連絡なしに、いきなり来たってわけ? 随分とマナーがなっていないのでは? ミスエーデルフェルト?」

「それはお互いさまでしょう? 何通も送っても一向に返事は返ってきませんでしたもの。いい加減しびれも切れるというものでしょう」

「っそれは──」

 言葉に詰まる凛。が、はっと息を飲むと、

「……待った。ってことはアンタ、あの手紙の内容の通り──?」

「ええ、そうですが」

 頷くルヴィアをよそに、凛はくるりと体の向きを変えると、

「………………ええと、衛宮君?」

「ん?」

 蚊帳の外になっていた士郎は、突然呼ばれて慌てて振り向いた。

 凛は『しゅたっ』と片手をあげると、

「あと、よろしくね?」

「なんでさっ!?」

 たまらず叫ぶが、凛は気にした様子もなく、

「残りの面子、こっちに来て。」

 言いきり、皆を集めて廊下へと出ていく──

「ちょ、ちょっとミストオサカ?」

「あーうん、士郎と話していて? わたしたち、少し用事があるから」

 ひらひらと手を振り、襖を半開きにしたまま、皆を見渡している。

「は、はあ……」

 呆れた嘆息をしてから、ルヴィアは独り残された士郎へと振り返った。

「ええと……」

 困ったように頬をかいている。

「全くもう──何なんです、一体……」

 もう一度嘆息。と。

「……あ、あの。初めまして、でいいのかな」

 士郎が頭をかきながら、恐る恐る尋ねる。

 ルヴィアは瞬時に居住まいを正した。

「……ええ、そうですわね。貴方がここの主人ですの?」

 湯呑を手に取り、しげしげと物珍しそうに眺め──、ルヴィア。

「あ、はい。衛宮士郎です」

「成程。では貴方が──」

 すうっ、と目を細めるルヴィア。

「……?」

 ぞくり、と悪寒めにたものを感じ、身をすくませる士郎。

「ええと、それではミスタ・エミヤとお呼びしても?」

「あ、はい」

 頷く士郎に、彼女は優雅に笑ってみせると、

(ワタクシ)、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトと申します。宜しくお願いしますわね、ミスタ・エミヤ?」

「あ、はい。こちらこそ宜しくお願いします」

 座ったまま頭を下げる。

 くすっ。また小さな笑い声が耳に届いた。

「それにしても、先程は驚かれたでしょう? (ワタクシ)、彼女とは時計塔で一緒の教室で学んでいますの。久し振りの再開で感激して抱擁しようとしたんですが──ええ、何故かあんなことに」

 言って、憐憫の視線を凛へと向ける。

「いや、抱擁って言うか、あれって完璧に頸動みゃ──」

「──いきなり体勢を変えられて、目測を誤ってしまったんですわ。(ワタクシ)としたことが、なんてはしたないことを──どうぞ御無礼をお許しくださいね、ミスタ・エミヤ……?」

 きっぱりとそう言い切り、また微笑。

「そ、そうなんだ。まあ、うん、しょうがないよな」

 ははは、と笑って、ひとまずこの話題を終わらせようとする。

 彼女はその回答に満足そうに頷くと、湯呑を手に取った。口元へと近づけ、僅かに傾けてから口の中へと含む。ゆっくりと吟味した後で湯呑を静かに机に戻した。ふう、と息をつき、満足げに士郎へと微笑みかける──

「美味しい──ジャパニーズ・ティーですのね」

 不思議そうに湯呑を眺める。それを見てから、士郎はしまった、と呻いた。

「ん、ああそうか、緑茶よりも紅茶とかのほうがよかったのかな……?」

「いえ、確かに(ワタクシ)紅茶を好みますが、かといって勘違いはしないでくださいねミスタ・エミヤ。出されたものを飲まないと言う程日本を毛嫌いしているわけではないのですのよ?」

 ん? と首をかしげながらも、士郎は照れたように頭を掻いて目を逸らした。

 その様子を見て、ルヴィアがくすりとさらに微笑むのだが、士郎は気づいていないようだった。

「ああ──うん」

「ええ、とても美味しいですわ──ミスタ・エミヤはお茶を淹れるのがとても上手いのですね」

「そうか。うん、喜んでくれてよかった」

 ほっとしたように頬を緩める士郎──

「ところでその──エーデルフェルトさんは、その」

「あらミスタ・エミヤ。ミストオサカのことは呼び捨てになさるのに、(ワタクシ)にはさんづけですの?」

 くすり──と。

 からかうように楽しそうに目を細め、ルヴィアは尋ねる。

「え、いや──」

 だって、なあ、と頭を掻く士郎にくすくすと笑って見せながら、ルヴィアはさらに続けた。

「敬語も結構。──どうぞルヴィアと呼んでくださいな」

 言って、ころころと笑う。

 まいったな、と頭を掻いて士郎は口を開いた。

「む、それならエーデ……じゃない、ルヴィアさんだって俺のことを呼び捨てで呼んでくれてかまわないんだぞ」

 挑戦的に見つめる士郎に、あら、と驚いた素振りを浮かべるルヴィア。

「それもそうですわね。──ええと、シ……シェロウ、だったかしら?」

「シ・ロ・ウ。シロウ・エミヤだ」

「……発音が難しいですわね。シェロウ? シェロゥ……」

 眉を潜め、呪文のように繰り返すのを見て、士郎は慌てて口を挟んだ。

「……あー、いや、無理ならそんな」

「……シェぐっ!?」

 何やら、鈍い音。

 見れば──、ルヴィアは涙目になって唇を押さえている。

 どうやら噛んだらしいのだが。

「……………。」

「……………。」

 沈黙。氷のような空気が居間を支配する──

 そして。どこからともなく取り出したハンカチで口を押さえつつ、ルヴィアはこほんと咳払いをしてみせた。多少頬が赤く染まっているのだが。

「と……ところでミスタ・エミヤ? 私、正直申し上げて日本の事はあまり好きではありませんの」

「……む、そうか」

 残念そうに眉根を下げる士郎。ルヴィアはころころと笑いつつ、

「ですので愛称(ニックネーム)は西洋風でもいいですわよね? そうですわね──シェロと言うのはどうでしょう?」

「いや、まあ別にいいけどさ……でも、日本にも色々いいところはあるからさ。出来たら──、うん。ルヴィアさんがロンドンに帰る前には、そういう所を見て行って欲しい。誤解されたまま帰られたくはないしさ」

 うん、と頷いて、真っすぐにルヴィアを見つめ──告げる。

 一瞬。ほんの一瞬だけルヴィアは微笑を崩して驚いたように目を見開いた。

 が、それもすぐに元へと戻り──やがて、じわじわと口元が歪んでいく……

「……ふう、ん──?」

それは──笑顔だった。

 が、今までのものとは質の違う笑顔──

 つい最近、どこかで見たような、その微笑み──

 射竦められたかのようにぞくりと体を震わせ、士郎は口を尖らせる。

「な、なんだよ」

「いえ。貴方、面白い方ですのね」

 ──そのころには、ルヴィアの表情はすっかり元へと戻っていた。

「そ、そんなことない、俺は別に、その」

 士郎は顔を赤く染めて、もごもごと呟いている──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──時間は少しばかり遡ることになる。

 士郎を除く全員を招集した凛は、腕組みをしながら難しい顔を浮かべていた。

「まいったなあ……」

「それで──、」

 と。ずいっと前に出たのは桜だった。

「どういうことです? 姉さん」

 にっこりと。満面の笑みを浮かべつつ桜が尋ねる。

「あ、はい。」

 それだけで何か嫌な予感を察したのか、思わずぴしりと姿勢を正す凛。

 桜はくいっと親指で居間の方を指差しつつ、

「色々言いたいことはあるんですけど。とりあえずあの人、何なんです?」

「ん……、まあ、簡単に言うとロンドンの知り合いなんだけど……」

「それだけではわかりません。凛、もう少し詳しく説明をお願いします」

 ずいっと身を乗り出してくるセイバーに、凛は嘆息混じりに告げた。

「──ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。ほら、前にちらっと話したでしょ。セイバーが壊してバゼットが直しに行った屋敷の本来の所有者よ。で、時計塔でわたしと同期」

「ああ……、あれです、か……」

 何か嫌な思い出に触れたのか、途端『どよーん』と沈むセイバーとバゼット。

「それで、彼女は一体何をしに──」

「……手紙に書いてあったのは、屋敷の視察。あとわたしの屋敷も見たいとか書いてあったかな……」

 まいったわね、と腕を組む凛に、桜があれ、と首をかしげた。

「それならここにいる必要はないんじゃないですか……?」

「ま、そうなんだけどね──あ、あともう一つあって。わたしの弟子に興味があるって」

「弟子って──」

 ちらりとさくらが襖の隙間から、居間を眺める。二人はぎこちないながらも談笑しているようだった。

「シロウのことですか?」

 セイバーに続き、バゼットが身を乗り出す。

「何故彼女が士郎君のことを?」

「え? あ、うん。あっちで話したから……」

「それで、あんな風に残したわけですか……」

 成程、と呻き、バゼットが居間をのぞきこむ──

 

 

 

「あらミスタ・エミヤ。ミストオサカのことは呼び捨てになさるのに、(ワタクシ)にはさんづけですの?」

 くすり──と。

 からかうように楽しそうに目を細め、ルヴィアは尋ねる。

「え、いや──」

 だって、なあ、と頭を掻く士郎にくすくすと笑って見せながら、ルヴィアはさらに続けた。

「敬語も結構。──どうぞルヴィアと呼んでくださいな」

 言って、ころころと笑う。

 まいったな、と頭を掻いて士郎は口を開いた。

「む、それならエーデ……じゃない、ルヴィアさんだって俺のことを呼び捨てで呼んでくれてかまわないんだぞ」

 

 

 

『…………………………………………。』

 沈黙。

 廊下の温度が冷えて行く。

「なんか……いい雰囲気になってるんですけど……」

 ジト目で桜が呻いた。

「うわあ」

 凛もまた似たような表情。

「凛……」

「姉さんー?」

 詰め寄るカレンと桜にわたわたと手を振りながら、

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。あれはわたしとは関係ないで──」

 その言葉に首を横に振ったのはバゼットだった。顔を手で押さえつつ、眉をしかめる。

「そういう問題じゃありません。特に私は彼女と顔を合わせると厄介なことになる──」

「え? あ、ああそっか……」

「姉さん。」

 にっこりと。桜は笑う。

「な……何?」

 ひくりと。顔を引きつらせ凛は尋ねる。

 そして桜は、ぱんと両手を打ち合わせて、満面の笑顔を浮かべながら、

「わたしたちのためにとっととロンドンに帰ってくれません?」

「アンタ、ほんっとーにいい性格になってきたわね……」

 言い切ったしこの子、と半眼で呻く凛に、桜はさらに笑顔を強くする。

「まあ、そんな瑣末はともかく──さっさと出てって下さいね?」

「お断りよ。わたしはわたしの好きなタイミングで帰るわ」

 ふん、と鼻を鳴らして斜に構える凛。

「なら──わかってますよね?」

 途端、視線の温度を下げ──桜。

「あっはっは。アンタ程度の腕でわたしに勝てるとでも思ってるの?」

 ぴしり、とこめかみに血管マークを浮かべつつ、凛が嘲笑う。

「ええ、そうですね。確かに今のわたしでは姉さんには届かないんでしょうけど」

 言いつつ、桜もまた余裕の笑みを浮かべ──

「でも、この四人もいるんだったら、話は別と思いません?」

 さっと、背後に控えている四人を指し示した。

 カレン。

 バゼット。

 ライダー。

 セイバー。

『……………………………………………………。』

 沈黙。

 凛は四人の顔を順番に眺め見てから、にっこりとほほ笑んだ。頬に一筋の汗を垂らしながらも、ぴっと指を立てて提案する。

「ええと……その力を直接ルヴィアにぶつけ──」

「面識もろくにない人にそんなこと出来るわけないじゃないですか」

「そうね。基本は絡め手」

 一歩詰め寄りながら、桜とカレン。

「わたしはいいのっ!?」

 たまらず叫ぶ凛。

「だって姉さんですし」

 妹はきっぱりと言い切った。

「え、えーと…………」

 凛はぼんやりと呻き、そして。

「……………………ガンド。」

 唐突に大量のガンドを煙幕代わりにばら撒き、迷わず一気にばびゅーんと逃走する!

『って、逃げるなああああああああっ!』

 一斉に四人は追撃を開始した──

 

 

 

 

 

 

「……なんだか妙に騒がしいですわね」

 何やら騒がしくなり始めた廊下に視線を送り、ルヴィアが呟くと、士郎は空笑いを浮かべて見せた。

「えーと、まあ、いつもこんなもんだから気にしないでくれ」

「はあ。まあどうでもいいですが……。ところで大勢いるようですが、あの者たちは? ご家族の方ですの?」

 随分容姿が違いますが──と尋ねるルヴィアに士郎は首を振って、

「ん、いや。遠坂と桜は姉妹だけどな。他の奴らは別に血のつながりはないぞ。シスターみたいな恰好していたのがカレンで、スーツ姿のがバゼット。金髪がセイバーで背が高いのがライダーだ」

「……っ。そう、ですか──」

 ルヴィアは一瞬息を飲んでから──頷いた。

「それで──」

 士郎は姿勢を正し、尋ねた。

「ルヴィアさんは、どうして日本に?」

「あら。ミストオサカから(ワタクシ)のことは何も伺ってはいないのかしら」

 目をぱちくりとして、ルヴィア。

「え、や。そう言う訳じゃなくて──あれ、ルヴィア、さん……?」

 んー? と急に考え込む士郎。

「え、ええ。それが?」

「んー」

 ずいっ、と。

 机越しに身を乗り出し、顔を近づけ──士郎は唸る。

「し、シェロ……?」

 頬を赤く染めつつ、ルヴィアはそう唸る。

「いや、俺たち前にどっかで会ったことって、なかったか?」

「え? いえ、そんなはずは、ないと思いますが──ちょっ──シェロ、少し離れて下さいませんこと……?」

 なんとかそう呻いて、ルヴィアは体を引いた。

「え? あ──ああ、悪い、ごめん」

 ようやく我に返ったのか、士郎が慌てて座り直す。

「全くもう……」

 ぱたぱたと手で顔を仰ぎ、ルヴィアは安堵のため息をついた。

「ええと、それで何の話で──ああそうですわね、日本のことですわね。ええ、それは勿論ミストオサカと色々と話をつけるためですが──実を言えば、それは瑣末ですのよ」

 ええとですね──と、何やらうきうきとした表情で、鞄を漁り始める。

「一度はミストオサカに任せると言ったのですが、やはり不安ですので別荘の査察を。それと後は──」

 言いつつ、鞄から『ばっ!』と手を引き抜く──。

「──これですわ!」

 その手の中には、紙切れが握られていた。

「それって……、うわ」

 顔を近づけて凝視する士郎に、ルヴィアは得意げに解説を続ける。

「そう、K-1のチケットです……! しかもVIPですわ……! ええ、ええ。ロンドンから入手するのはなかなか大変でしたが、これで──」

 

ぼしゅん──っ!

 

そんな音を立てて唐突に──、チケットが一条の漆黒の光に撃ち抜かれ、消滅した。

『…………………………………………。』

 静止した。

『………………………………………………………。』

 得意げな表情のままのルヴィア。

『…………………………………………………………………。』

 チケットを覗き込もうとしている士郎。

『……………………………………………………………………………。』

 時が止まったかのように、二人ともぴくりとも動かない──。

 そして。

 

 きゅどどどどどどどどっ!

 

一瞬遅れて、無数の漆黒の光が居間の中へと飛来してきて──

「──投影(トレース)、」

 

刹那、顔を青ざめさせつつも士郎が跳ねあがり、ルヴィアを押し倒し、

 

開始(オン)──!」

 

 ッぎぎぎぎぎぎぎんっ!

 

 刹那、士郎の両手の中に白と黒の夫婦剣が出現し──それらが、黒い光を尽く叩き潰す──!

 用心深く追撃があるかと確認するが、どうやらもうこれ以上はないようだった。剣を消し、ふうと息を吐く。

「くそ、あいつら加減てもんを本当に知らないからな──あ、ごめん大丈夫かルヴィアさん!?」

 ああもう、と歯噛みしながら身を起こす。

「ふ……」

 声は、下から聞こえてきた。

 見下ろせば、そこには。

「……ルヴィア、さん?」

「ふ──ふふふふふふふふふふふふふ……!」

 激怒(わら)っていた。

 烈火の如く怒り狂い、笑うあくまが──、そこにいた。

「……………ええと……………」

 ずざっ、と本能的に身の危険を感じ、瞬時に飛び退く士郎。

 そしてルヴィアはがばっと起き上がると、スカートの裾を舞い上げ、ずかずかと廊下へと駆け出していく──

「っお待ちなさいリン! もう我慢なりません、今日と言う今日は絶対に許しませんからね!?」

「え、な、何よルヴィア、ってうわちょっとアンタたち、ってあああああああああああああっ!?」

 ルヴィアの怒鳴り散らす声。凛の悲鳴。何かが倒れる音。壊れる音。割れる音──

 それらを耳にしつつ、畳の上にへたり込み、士郎は。

「……そう、か……」

 はあ──と深く嘆息して、呟いている……

「あの笑顔……、遠坂たちと一緒なんだなあ……」

 喧騒はさらに大きくなろうとしていた──







 

「はあ──」

 やれやれ──と深く呆れたような嘆息が響く。

 居間には、ルヴィアゼリタを前に、先ほどの面子が正座して並んでいた。

 彼女は無表情のまま、一同をぐるりと見渡し──そしてふいにぽつりと呟いた。

「最近──」

 ふう、と息を吐いてから、物憂げな視線のまま彼女はさらりと、

「最近(ワタクシ)、ガンドの研究に凝っていまして。風邪だけではなく腹痛・頭痛・嘔吐・動悸・眩暈・しびれ・痙攣・鬱などが一気に来るのがあるんですけれど、試し撃ちしてもいいかしら。いいですわよね? まさか嫌だなんて言いませんわよねミストオサカ──?」

 言い捨て、人差し指を突き出してみせる。

「いや、あのね……わざとじゃないのよ?」

 あははは、と空笑いを浮かべる凛に、はあ──と嘆息し、額に手を当て呻く。

「そうですわね、ええ、そのくらいは理解出来ますわ。もし悪意があってやっていたと言うのらそれはそれは楽しいことになっていたと思いますものね──」

 言って、にっこりと満面の笑みを浮かべるルヴィア。

 凛はこくこくと頷きながら、

「そ、そうそう──まったく全然これっぽっちも。完っ璧に事故よね事故。あ、ちなみにガンド打ったのはわたしだけど居間の方に弾いたのはセイバーでね?」

「凛―!?」

 がびーん、とセイバーが叫んでいるが、ルヴィアは構わず続けた。

「ちなみにあれ、プレミア中のプレミアでして」

「だそうよセイバー」

「凛……」

 真顔で話を振る凛に、セイバーはしくしくと涙する。

ルヴィアは首をふるふると振ってみせつつ、

「まあ、あえていくらかかったなど無粋なことは申しませんが。ええ、そうですわね。本当どうしたものだか……ああそう言えばミストオサカ、貴女随分と面白い所に滞在しているんですのね? ええと? セイバーさんにライダーさんでしたかしら? まあ、随分とユニークな名前ですのね──聖杯戦争の役割(クラス)と同じだなんて、どんな偶然なのかしら」

 にたり──と。あくまでも上品に、そして邪悪な笑みを浮かべるルヴィアゼリッタ。

「いや、それは……ええと、ほら、ニックネームみたいなもので……」

 だらだらと冷や汗を浮かべつつ、ね? と必死に目で合図を送り、凛が笑う。

 セイバーとライダーは一斉にこくこくと頷いた。

「そ、そうです! 私はその、剣が好きで! 剣マニアなので!」

「ええ、そうそう、それです。私はバイクに異常なまでの興味がですね──」

 対してルヴィアはぱんと手を打ち、さらりと笑顔で告げる──。

「あら、素敵な趣味ですね。是非後でお部屋を見学させていただけます?」

『……………………………ええと……』

 返す言葉を失い──、結果、二人は無言のまま項垂れた。

 次にルヴィアは、バゼットへと視線を向ける──

「それに──」

 ぞくり。視線を感じたのか、バゼットがびくりと背筋を伸ばすのを見てとりつつ、くすりと微笑む。

「いえ。──さてリン、どうするのです?」

 凛はああもう、と顔に手を当てつつ、嘆息した。

「ああもう、わかった──負けよ、降参降参。確かにこっちが悪かったわ。ごめんなさい」

 ぺこりと頭を下げる。

「あら。まさか謝罪の言葉だけで済まそうなんてつもりではないですよねえ……?」

 すっ──と絡みつく視線を向け、ルヴイアは猫なで声で尋ねる……。

「ぐっ……やっぱり駄目か……」

 ち、と舌打ちする凛。呆れたように嘆息するルヴィア。

「当たり前でしょう」

「……何が望みなのよ。言っておくけどお金はないからね」

「あら。(ワタクシ)もそんなに意地悪を言うつもりはないんですけれど……。それでしたら……そうですわね。強いて言うのでしたら(ワタクシ)、まだホテルは予約していませんの。まあ日本に(ワタクシ)を満足させられるホテルがあるとは思えませんが、それでもまだマシなものくらいはあるのでしょう? リン、そこを取っておいて下さいな」

「って十分厄介だー! アンタどうせスイートじゃないと駄目とか言うんでしょ!?」

 手をわななかせて叫ぶ凛に眉をひそめ、尋ねる。

「何か問題が?」

「お金はないって言ってるでしょ! こっちはアンタと違って貧乏なのよ! 色々切り詰めて生活してるのよー!」

「姉さん、そんなに高らかに言わなくてもいいのでは。」

 汗を浮かべて唸る桜。

「……ではどう落としまえを付けてくださるのかしら?」

 ルヴィアの質問に、凛はぴっと指を立てて、

「…………提案。ここに泊まるってのは?」

「姉さんっ!?」

 叫ぶ桜。

「いや、俺の屋敷なんだけどここ……」

 あれー、と士郎が呻いているが、誰も取り合わなかった。凛はさらに続ける。

「宿泊費とかはかからないわよ。無駄なお金使わなくても済むし、料理とかおいしいし」

 その言葉に、ルヴィアはふむと考える──

「まあ、無駄な出費はないに越したことはありませんが。──そうですね、ではそれで手を打ちましょう。……ああ、それと──」

 ちらり、と士郎に視線を送り、彼女は。

「身の回りの世話をする者が一人欲しいですわね──そうですわ、シェロは(ワタクシ)付きの執事にします。宜しいですね?」

 そう、さらりと付け加えた。

「何い!?」

 がびーんと喚く士郎に近づき、ルヴィアはにこりと笑う。

「あら、何か不満でも?」

「え、や、不満とかじゃなくて──その……」

 もごもごと呻く士郎に向い、ルヴィアはにこりと優雅に──ただし、どこか獲物を捕らえた捕食者のような雰囲気を背負いつつ──微笑んだ。

「シェロ。ええ、(ワタクシ)、貴方ことが気に入りましたの──短い間ですけれど、どうぞ宜しくお願いしますわね?」

「と、遠坂…………」

 助けを求めるように隣の凛を見ると、彼女はにっこりと笑って、

「あーうん、ごめん。──あきらめて?」

 あっさりと見捨ててきた。

「…………………。」

 うあ、と硬直する士郎。

「シェロ、よろしくて?」

 言ってルヴィアは身をかがめて目を覗き込んでくる──

 そして、士郎は。

「…………………………………はい……」

 しくしくと涙しながら、頷く──

 こうして、また一人住人が増えた衛宮邸は、一層賑やかになりそうだった──。










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