「どうですシロウ、これで文句はないでしょう!」
居間に入ってきたセイバーはそう叫びつつ、机の上に『どんっ!』とスーツケースを置いた。開けると、中にはぎっしりと札束が詰まっていた。
「うわ凄いな。セイバーこれどうしたんだ?」
恐る恐る尋ねる士郎に、セイバーはどんと胸を叩いて、
「ふっ、簡単なことです。無意味についているこの性質を利用して、ギャンブルを!」
『うわあ。』
「パチンコにスロット、宝くじに競馬に競輪にその他色々! 全て負けなしですっ! ああ働くことのなんと無意味なことか! 世の中にはこんなにも簡単に稼ぐ方法があると言うのに!」
「すいません士郎君、ぶっとばしていいですか」
自身満々で言い放っているセイバーの横では、バゼットが真っ黒な顔でそう唸りつつ拳を握っていた。士郎もあっさりと頷くと、
「うん、もう止める気はないからなー」
言ってひらひらと手を振っている。 と、今度は凛がずいっと前に出て、
「ふうん、よほど運に自信があるようね、セイバー?」
「そうですね。まあ結果がこのとおりですし」
シロウ今日はすき焼きで! と言いつつ、セイバーはあっさりと認める。
凛はきらりと目を光らせると、
「じゃあセイバー、私とギャンブル勝負してもし貴女が負けたらそれを全部没収ってのはどうっ!?」
「ふっ、愚問ですね貧乏凛。ここ一番に弱い貴女に負けるはずなどない!」
「言ったわね?」
ひくりと頬を引きつらせつつも、凛はなんとか踏みとどまった。
「勝負方法は──そうね、シンプルにじゃんけんでいいかしら?」
「まあ何でも構いませんが」
あっさりと余裕を崩さずに、セイバー。
凛はにやりと笑うと、
「じゃあいくわよいざ勝負──! あ、でもその前に変―、身、とうっ!」
言いつつ、どこからともなく取り出したカレイドステッキを振りかざした。えー、と呻いている士郎をよそに、あっさりと変身が完了する。彼女の服装は、バゼットの着ているスーツと同じものになっていた。
凛は斜め45度を見上げつつ、ピースサインを右目にあてがいウインクする。
「と言うわけで、フラガラックの使えるわたしに変身っ! 今日も元気に発進ですっ!」
「……誰にいってるんだ?」
ぼんやりと士郎が呻く。
凛はきっぱりとそれを無視すると、
「さあ、というわけで出さなきゃ負けよ、じゃんけん──ぽんっ!」
言いつつ、ちょきを繰り出す──!
対して、セイバーの手はぐーだった。
そして特に後出しになることもなかった。
「……あれ?」
ぽかんとしている凛に、やれやれ、とバゼットが嘆息する。その手の中にフラガラックを収めながら。
「要するに、使えるようになったのはいいけど肝心のフラガラックがないのだと思いますよ?」
「あれー!?」
がびーん、と自分の手を見下ろす凛。
「さて──凛」
ざっ。
一歩踏み出しつつ、セイバーは不敵に笑うと、
「では、負けた代償として、死ぬまで私だけのためにおいしい料理を作り続けてくださいね?」
が、凛はくじけずに鼻で笑ってみせた。はっと肩を竦めながら、
「ふ……、ふんっ。そんな条件が簡単に呑めるかと──」
「一食100万。」
「のった。」
完。