「大変ですシロウ!」
と叫びつつ真っ青な顔で居間に入ってきたのはセイバーだった。
士郎はん? とのんびり振り返りながら、
「どしたんだセイバー。お腹すいたのか?」
「はいっ!」
ぎゅむ、と拳を握って全力で頷いてから──はっとセイバーは顔をあげ、ぶんぶかと首を横に振った。
「ってそうではありません!」
それを聞いて、士郎の隣に座っていた凛が、机の上にあった『セイバー専用』と書かれたおやつボックスに手を伸ばす。
「あ、そうなの?じゃあこれもーらいっ」
「凛。それ以上手を伸ばせば腕がなくなりますが?」
ぎらり、と殺意の篭った眼差し。凛はさっと手を引っ込める。
落ち着け、と手で制しながら士郎は尋ねた。
「で、なにがさ」
「これです!」
言ってセイバーが眼前に突き出したのは、一振りの剣だった。約束された勝利の剣。言わずもがな、セイバーたる彼女の宝具である。
「……それがどうしたんだ?」
首をかしげる士郎に、セイバーは『くわっ』と目を見開くと、
「よく見てください、ここです!」
言って、剣の刃の先端を指し示した。両刃剣ならば通常、先端にいくほどその幅は狭く鋭くなっていく。だが。
「なんだかぷくっとしてるのです!」
先端は確かに途中まで収束していっているのだが──大体半分ほど行ったところで、急激に膨れ上がり、円を描いていた。簡単に言えば、先端はてるてる坊主のような形状になっているのだった。
が。
「んーまあそれもそれでありだろ?」
「そうね個性の時代だしね」
士郎と凛はあっさりと流した。
「駄目ですよ!」
セイバーは納得できないのか、庭に降り立つと、剣を構えてみせて、
「そ、それにですね! ……見ててください?」
言って彼女はやおら武装を身に纏った。きっと視線を鋭くし、剣を振りかぶり──
「約束された──」
そして、勢いをつけて、踏み込むと同時に剣を振り下ろす!
「勝利の剣ッ!」
「ぱ?」
士郎は聞き逃さなかった。
そして。
もわんっ。
緑色のふわふわした光が発生した。半径1メートルほどの発光体は、何をするでもなく庭の上を漂っている。
『…………………………。』
さすがに居間にいる皆も押し黙った。
「し、真名も変わっているのです!」
どうですか! とセイバーが半泣きになりながら叫ぶ。
「すごいへっぽこさだな。ダメージとかあるのこれ」
唸る士郎をよそに、凛はすたっと庭に降り立つと、ちょんっと光に触れた。緑色の光は数秒遅れてふわふわと凛の体にまとわりついた。
うあ、と凛は呻き声をあげる。
「あーうん、なんかね、少し肩が凝る。こうなんてゆーか1時間くらい勉強頑張ったあとくらい」
「また微妙だなあ」
「微妙とか言わないで下さいっ!」
がすがすと剣を地面につきたて、セイバーが叫ぶ。と。
ぽきんっ。
剣のてるてる坊主の頭の部分があっけなく折れた。
「あ。元に戻りました。」
剣を見下ろしながら、あっさりとセイバーが呟いた。
「えー」
さすがに士郎が呻き声をあげる。
「でもこれなんだったの?」
ひょい、と剣の欠片を拾い上げ、凛は呻く。
「そうですね──」
セイバーはふむ、と考え込んでから、
「まあ解決したしどうでもいいですね。それより士郎ご飯です!」
あっさりと言い捨ててすたこら居間へと入っていった。
『…………………………………。』
沈黙。士郎と凛は半眼で押し黙っていたが、やがてのろのろと口を開くと、
「士郎今日タコづくしね」
「そだな。」
完。