「せ、せんぱいー!」
衛宮邸、居間──
士郎がのんびりとお茶をすすっていると、庭の方からそんな悲鳴が聞こえてきた。
「……なんだ? 桜か?」
疑問に思いながらも、外へと出る。
そこには。
「なんだかこんなコトって、なんでなんですかー!?」
と喚く、全長5メートルほどの桜がいた。いつもの服を着て、体育すわりで。
「うわあ」
とりあえず口からこぼれたのは、そんなうめき声だった。
「ちび凛、ぷちセイバーときて」
と、隣から声が聞こえて振り向く──そこには凛がうんうんと頷き、半ば感心するように口を歪めていた。
「まさかでっかくなるとはねえ」
「でかさくら、ですか?」
ぽつりとカレンが呟く。
「嫌ですそんなかわいくないの!」
「まあまあ」
至極最もな桜の悲鳴に、バゼットが笑ってとりなそうとする。その一片に邪悪ななにかをひそませながら。
「でかざくら、よりはましではないですか」
「うわああああん!」
とうとう泣き出す桜。
「これ、どうやったら治るんですかあ!?」
「知らねーわよ。」
ちびの方だって戻ってないでしょうに、と半眼で呟く凛に、しかし桜はかぶりを振って、
「どうせ姉さんがやったに決まってます! 姉さんはそういう人ですから!」
「ああ、そう」
あっはは、と笑いながらぴきぴきとこめかみを引きつらせる凛。桜は頭を抱えながら続ける。
「そうです、そうに決まってます! この性悪女狐、ああやっぱりあの時殺したり潰したり肉奴隷っぽくしておけばー!」
「あ、ごめんそれ私」
と。これ以上ないタイミングで現れたのはイリヤだった。
「へ」
桜がぽかんと口を開けて硬直する──
「イリヤ、ちゃん?」
聞き返すと、イリヤは軽く肩を竦めながら、
「うん、なんか色々実験してたらそんなふうになっちゃった。ごめーん」
「ご、ごめん、ってそんなので済むと思ってるんですか!?」
ぎゃあぎゃあと喚く桜に、うるさいわね、と眉を潜めながらイリヤは、
「ちなみに解毒薬は凛に渡してあるからね」
「へ」
再び硬直する桜。
凛は手に緑色の液体の入った試験管を持っていた。
「ね、姉さん?」
恐る恐る桜が尋ねると、凛はにこにこと笑いながら、
「えーと、殺しておけば、なんだっけ?」
がちゃーん。
あくまでも笑いながら、試験管を地面に叩きつける。
「うあああああああああああああ」
「えーと」
一連の成り行きを見守りながら呻く士郎。その横でカレンがぼそりと呟いている。
「こうして、元にもどれなくなった桜さんは、でかくなったまま一生独りで暮らしましたとさ。めでたしめでたし」
「勝手に変なナレーションつけないでください!」
全力で叫ぶ桜──が、やがて頭を抱えると、
「ああああああ。もう嫌です。なんでたまに主人公とかになったらこんなのなんですかあ……」
「だって」
凛がちらりとカレンを見ると、彼女もまた静かに頷いて、
「そうですね」
士郎もまた苦笑して。
「まあ、なあ?」
そして。全員が口をそろえて、
『そういうキャラだし?』
「ぎゃふん。」
完。