Days
〜君の瞳があまりにも狂おしいから、僕の心はかき乱される〜
放課後。いつもの教室の、いつもの場所。いつも通りの二人の会話――
「見てよ岡崎!」
「やだよへたれ」
勢いこんで話してくる春原を、朋也はあっさりスルーした。
「なんでさ!」
「なんでもいわれてもな。じゃあ逆にお前がへたれじゃないっていう証拠を見せろ10字以内はいGO」
ぴくりとも表情を変えずに朋也は言ってのけた。春原は目を白黒させながら、
「え、ええと? え、なにそれ。いやそっちじゃないでしょそうじゃなくってさ」
「えええとえいやなにそ」
全くの無表情で、淡々と朋也は告げる。
そして彼は『ふっ……』と笑うと、ぽんっと春原の肩を軽く叩いた。哀れみと軽蔑と憐憫と同情。それらすべてを混ぜ込んで、ぽつり、と呟く――
「意味不明だな。よし、今すぐ帰っていいぞ?」
「え、いや」
春原は動揺しながらも朋也を見返した。
沈黙。朋也は先ほどの表情のまま、生暖かく春原を見つめている――
「んん?」
「う……」
半泣きになりながら春原は一歩後ずさった。そして。
「うわああああああっ!?」
喚きながら、教室を駆け出した――
「と言うわけで、どうにかしたいんだって!」
「それはいいけど、なんで毎回毎回うちにくるかねえ……」
やたら疲れた声で嘆息したのは、美佐枝だった。ドア付近に立っている春原をちらりと見て、また嘆息。
春原はそんな美佐枝の様子を全く気にする風でもなく、ずかずかと部屋にあがると、
「ねえっ、なんかいい案ないかなっ!?」
「そうねえ」
つまらなそうにぱりぽりと煎餅をかじりながら、美佐枝は適当に相槌を打つ。
「口で勝とうとするから駄目なんじゃない?」
「で、でも喧嘩は――なんて言うかさ。野蛮だよね?」
びくびくとしながら、春原。
美佐枝はまた嘆息する。
「んー」
彼女はぴこぴこと指を振ってから、
「あれよ。つまり、言葉を発することなく相手にダメージを与えればいいんだから――」
「うんうん」
「……裸で踊ったり変なことを喚いたりすれば精神的に攻撃できるんじゃない?」
「なるほどね」
春原はうなずいた。
「ありがとう! じゃあ早速試してみるよ!」
勢いよく言い捨て、ばたばたと春原は部屋を出て行く……
「……まあ」
ぱりっ。
煎餅をかじりながら、美佐枝はぼそりと呟いた。
「自分にも返ってくるのは、言うまでもないと思うけど」
「というわけで岡崎っ!」
帰り道。聞き慣れた声がして、朋也は面倒くさそうに振り返った。
「なんだよへた──」
声が途中で止まる。
そこにいたのは、春原だった。
確かに、どこからどう見ても――春原だった。
ただ、服を着ていなかった。
上半身が裸である。
春原は誇らしげに胸を張ると、
「どうだ!」
「いや、萌えはしないが」
「誰もそんなこと求めてないでしょ!?」
地団駄を踏んで、春原は喚く。ぴくり。朋也の眉がつりあがった。
「こ、こうなったら──!」
裂帛した気合とともに、『ずさっ!』と春原は距離をとった。やや前かがみの姿勢を取り、威嚇するように朋也を睨み付ける。すっと息を吸い込み、そして。
「ぽっぽこぴー!」
春原は両手を大きく上にあげ、叫んだ。
「…………」
朋也は動かない。表情という表情全てが抜け落ちた顔をして、ただ目の前の春原を見つめている。春原はなおも止まらない――
「ぷっぷくぺー、ぱー!」
「……………………」
ちりんちりん。
と、その時。路地の向こうから自転車に乗った警察官がやってきた。
「…………あ、おまわりさん」
適当に片手を挙げて、朋也は呼び止めた。
「死刑でお願いします」
「了承」
夕暮れの中。一発の銃声と奇声が交錯した――