「調子にのって三・回・目ー!」
と言いつつ『ずぱんっ!』と衛宮邸の襖を開け放ったのは、ギルガメッシュだった。
そして──
「と言う訳なんだセイバー。頼むから働いてくれ」
「お断りです。ニートにはニートの意地がある。この剣にかけても、私は死んでも労働を拒否します!」
「くうう、さすがセイバー、手ごわいわね……!」
「そうですね。まさにニートオブニート、開き直ったニートがここまで手ごわい相手だとは……!」
士郎と凛と桜の三人は、セイバーと何やら白熱した口論をかわしているようで、ギルガメッシュには気づきもしていないようだった。
ギルガメッシュは微妙に控えめに手を伸ばしつつ、
「お、おい貴様ら? ちょっといいか?」
「いいかセイバー、よく考えろ。基本的に働かないとお金は手に入らないんだ。つまり金がないと、買い物ができない。食料も買えない。と言うことは──そう、満足な食事にありつけないんだ!」
「ではシロウが養ってください永遠に奴隷の如く。」
「………………………………………。」
さらりと即座に返すセイバーの言葉に、士郎はただただ首を振ってがくりとうな垂れる。
それを横目で見つつ、今度は凛が『ばっ!』と手を振り一歩前に踏み出した。
「くっ、撃沈か。甘いわね士郎、わたしならこうする──!」
言いつつ、びっと指を突きつけ、あくまで声高に威厳を保つようにして、告げる。
「いいことセイバー。働かないのならご飯抜くわよっ!?」
「凛。そうなれば恐らく私は貴女を手にかけることも辞さない」
「ごめん許して」
真顔でセイバーに言い切られ、凛はそう言いながらすたこらと逃げ出した。
最後に残された桜は、ごくりと喉を鳴らしつつ、ぎゅっと拳を握る。
「さすがセイバーさん。ニートなのにこの横暴さ、さすがです……! 駄目駄目にもほどがありますね……!」
その背後から、こっそりとギルガメッシュが近づいて耳打ちする。
「な、なあ腹黒娘? 今回は我の出番は……?」
「……いいですか、セイバーさん──!」
確実に聞こえているはずのその声を、桜はきっぱりと無視した。
「………………ふっ。」
妙に悟りきったようなそんな目をしつつ、いじけていたりする。が、それでもギルガメッシュはすぐに復活すると、士郎の傍に駆け寄った。なにやらばたばたと手を振り回しつつ、
「お、おい雑種? 今回は駄目王なんだからして、ええと、我はこんなにも駄目なんだぞー、とかだな?」
しかし士郎は静かに首を振った。あまつさえ拳をぐぐっと握り締め、告げる。
「いや違う。アンタは最高だ。金持ちだし何より奴隷だしな」
「そ、そうか?」
続いて凛もまたそれに賛同する。
「そうよ。なんてったって金持ちだものね! あ、奴隷お茶ね5秒以内あと一億よこしなさい」
そうですねえ、と桜もまた微苦笑を漏らす。
「これで容姿と性格さえ違えば完璧なんですけどねえ」
「……なぜか全否定されてる気もしないでもないのだが」
納得できないのか、しきりに首をしねるギルガメッシュ。
「──わかりました」
と。涼やかに提案したのはセイバーだった。ふっ、と不敵に笑いつつ、セイバーは。
「つまりあれですね、お金を入れればいいのですね?」
「え、いや、ほんとは駄目だけど、まあとりあえずいれてくれれば助かる、けど──?」
曖昧に頷く士郎をよそに、セイバーは大きく息を吸い込むと、
「──ギルガメッシュ!」
「む、なんだ?」
『ぽっ』と微妙に頬を染めつつ聞き返す。その後ろでは凛がうわ、きもっ、と呟いていたりするのだが。
そしてセイバーは、迷いなど欠片もない表情でギルガメッシュを見据えた後、『ばっ!』と頭を下げ、両手を手のひらを上にして突き出し、
「お金を、よこしなさいっ!」
『や、本気で駄目だなアンタ。』
完。