台無しエピローグ













──長い旅だった。

かけられた時間も、かかげられた理想も、かなえようとした人生も、何かと厄介だったからだろう。

それほどの道を歩こうと、行程はわずかとも縮まらない。

休まず、あきらめず、迷わずに、まなじりを強く絞り。

長い道を、歩いていた。












 

 

 

永い夢だった。

かけられた眠りも、ささげられた理想も、残してきた結末も、ひどく重いものだったからだろう。

どれほどの眠りを過ごそうと、目覚めは一向に訪れない。

動かず、拒まず、望まずに、深く呼吸を鎮めて。

永い夢に、眠っていた──。








 

 

 

 

 

 

そうして、

 

彼にとっても、

 

彼女にとっても、

 

永い時間が流れました。



















……どれほど歩いてきたのだろう。荒れ果てた大地ばかり進んできたのに、深い森を抜けて、懐かしい草原になっていた。

「───────、ああ」

思わず声が漏れていた。

それは、彼が彼であるために必要なこと。

ブリキの心臓に、懐かしい血が通う。

黄金の大地。

それを、懐かしい、と感じている。

さわさわと、風がそよいでいる。

草が、ざわめいている。

そっと足を踏み出した。

柔らかく確かな感触が返ってくる。

ふと気づけば、口元には小さな笑み。

彼はさらに足を進めていく。

見れば、輝くようにざわめいている草原の中に、ぽつんと。

ひとつの人影がある。

それはまるで草の中に咲く一輪の花のよう。

黄金色の草の中、ひっそりと儚く、しかし力強く真っ直ぐに。

笑みが、ますます、強くなる。

彼はただ黙って足を進める。

彼女も黙って、それを待つ。

距離が、しだいに、狭まっていく。

一歩。

一歩。

また一歩。

ゆっくりと、ゆっくりと、彼は進んでいく。

左足が前に出て、

右足がそれを追い抜く。

そしてもう一度左足が先へと進み、

そこで、彼は立ち止まった。

ふう、と。

ついた嘆息には、ひどく複雑な感情。

そして彼は、真っ直ぐに。

包み込むように笑いかけ、

 

「ただいま、セイバー」

 

……口にでた言葉は、本当にあの頃のまま。

まるで、ここからあの日の続きが始まるように。

「────」

彼は再び歩き出す。

地を踏む足は軽く。

少女はくずれるように微笑んで。

 

「はい──おかえりなさい、シロウ」

 

夢は、こうして終わりを告げた──

──はず、だったのだが。

「あ、士郎久しぶりー」

「って遠坂!?」

 ふと隣を見ると、赤い外套に身を包みゼルレッチやら宝石やらを身につけ挙句の果てにはカレイドステッキまでホルダーにいれて装備している凛の姿があった。

「あ、セイバーただいまー」

「はい──おかえりなさい、凛」

少女は再びくずれるように微笑んだ。

「あれー!?」

 がびーん、と士郎が叫んでいる。と。

「あ、先輩っ、それに姉さんも」

 いつの間にやら凛と反対方向の隣にいるのは、桜だった。四肢を黒と赤の衣装に包み、何やらマントまで背負っている。

「さ、桜までっ!?」

「あ、はい。虚無ってたら結構すごくなっちゃいました。てへ。」

 ぺろっと舌を出して桜が笑う。

「にしてもアンタその格好なんなのよ。悪の女幹部かっての」

 腕を組んで凛がぼやく。

「ほっといてください。あ、セイバーさんただいまですっ」

「はい──おかえりなさい、桜」

 少女はまたもやくずれるように微笑んだ。

「……………………………………………………………。」

 沈黙し、うなだれる士郎。と。

「おや士郎君──に、ああ、これはまた懐かしい顔ぶれですね」

 ふむ、と草をかきわけながら登場したのはいつものスーツ姿のバゼットだった。

「あー、お兄ちゃんだ! わーいシロウ久しぶりー!」

 『がばっ!』と抱きついてきたのは、イリヤスフィール──

「──おかえりなさい、バゼット、それにイリヤスフィール」

 セイバーはさらにくずれるように微笑む──

「はい。ただいま帰りました」

「ただいまー」

 ひらひらと手を振るバゼットとイリヤ。

「ううううううううううううううううううううう……………」

 士郎は真っ黒な顔で何やら呻いている……

「あれ士郎どうしたのよ」

 凛が不思議そうに尋ねた。

「そうですよ先輩折角久しぶりの再会なんですから!」

 ぐぐっと拳を握って、桜。

 しかし士郎は項垂れてぶつぶつと呟くばかりである。

「もう駄目だ……なんか色々もう駄目なんだ……」

「そんなことはありませんよ、シロウ」

 ぽん──、と。

 そっと士郎の肩に手が置かれた。

 のろのろと振り返ると、そこには思い出のままの姿の少女が──。

「セイ、バー……?」

 呟いた。僅かに震えるその声で。

「私たちの──」

 目を閉じ、そっと胸に手を当て、彼女は告げる──

「私たちの未来は、まだ始まったばかりなのですから」

 セイバーの言葉に頷き、凛もまた続けた。

「そうよ士郎」

「そうです、先輩っ」

「そ……そうなの、かな……?」

 のろのろと、しかし確かにそう士郎が呟いたのを届けてから、やおらセイバーは、

「と・いう訳で!」

 『びしっ!』と空を適当に指差して、元気よく叫ぶ──

「さあ、明日に向かって! ダッシュですっ!」

『おーっ!』

そして全員が掛け声と共に走り出して──

──完。








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